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【AIOライト 110日目 15:42 (5/6・晴れ) BL1・『狂戦士の火山の城』】
「せいっ!」
「ギギャッ……!?」
俺の攻撃によって『狂戦士の多頭蛇の王』の四本目の首が落ちる。
これで本体の残りHPも30%であり、時間はかかっているが順調であると言えるだろう。
「ヒュドラアアァァ!」
「ビュドラアアァァ!」
「バドラアアァァァ!!」
「喰らうか!」
「「「!?」」」
そう、順調だ。
『狂戦士の多頭蛇の王』にとって首の数の多さはそのまま手数の多さを表している。
だから首の数が少なくなれば、それだけ攻撃を捌く事も容易くなる。
今俺がして見せているように、立ち回りで首の一本の攻撃を避け、残りの二本の首の攻撃を弾きつつダメージを与えると言う真似も可能なほどに。
「『エクナック・アネモス』!」
「ヒュゴッ!?」
だが、最後の最後まで油断が出来ない事は分かっている。
だから俺は残りHPが少なくなる度に牽制を行いつつ後退し、『狂戦士の多頭蛇の王』がばら撒く毒のエリア外にまで出て、HPバーを回復させる。
それは結果として戦闘を長引かせることにもつながっているが、勝つためにはこう言う戦闘を取るしかないのだから割り切るしかない。
「すぅ……エヴァンゲーリオ・ハルモニアー」
そう、まだまだ戦いは長引くだろう。
だから俺は素早くカプノスを取り出すと一服し、内臓の強化を継続させる。
そしてリジェネメディパウダーも使って、一気にHPバーを回復させる。
で……
「ふんっ!」
「ヒュドッ!?」
「ビュゴッ!?」
「バドッ!?」
HPの低下によるものか、首の数が減ったことが原因かは分からないが、何時の間にやら『リアフ・ネロ』がある状態でもHPバーの回復が始まるようになっている『狂戦士の多頭蛇の王』に『ドーステの魔眼』とリジェネミスリルクリスで攻撃。
回復力低下のデバフを与えつつ、俺に状態異常:ディレイを与えるべく目に集められていた魔力を散逸させる。
「まったく、油断も隙もあったものじゃないな!」
「ヒュドラアァァッ!」
そこからは再び今までの繰り返しだ。
『狂戦士の多頭蛇の王』の懐に入り込み、相手の攻撃を捌きつつ、隙を見て『エファス・フォティア』で強化した斧による痛打を与える。
そして自分のHPバーが怪しくなってくれば、牽制を行いつつ一度退いて、HPバーを回復させる。
最初に比べれば『狂戦士の多頭蛇の王』の手数が減った分だけ突入と撤退は楽になっているが、毒を撒くようになったせいで与えられるダメージの量としてはむしろ減っている。
だが、それでも着実に、少しずつ少しずつ敵のHPバーは削れている。
「「「ヒュドラアアアアァァァ!!」」」
「ぐっ!?」
そうして敵の本体の残りHPが10%を切り、それぞれの首の残りHPも極僅かになった時だった。
『狂戦士の多頭蛇の王』は咆哮を上げつつ俺を撥ね、大きく吹き飛ばす。
そして全身に赤黒いオーラを纏いつつ、俺に向かって三つの頭の口を大きく広げながら突っ込んでくる。
「なるほど……」
「「「ヒュウゥゥ……」」」
それは本来ならば最後の大暴れであり、全力の一撃として規定された物だったのだろう。
だが、今の『狂戦士の多頭蛇の王』にとっては最大の悪手だった。
何故ならば今の『狂戦士の多頭蛇の王』が保有している特性は、理性と引き換えに集中するほどにステータスが上昇する特性:バーサーク、回復力を高める特性:リジェネ、そしてそれらの効果を反転させる特性:アンチ。
「ならこちらもだ……『ティラノス・ミデン』」
「「「ドオオォォ……」」」
そう、ここに来て特性:アンチは最大級の仕事をしていた。
全力の一撃を放とうとした『狂戦士の多頭蛇の王』の動きは、いっそ悲惨なほどにゆっくりとした動きになっていた。
だから吹き飛ばされた俺には難なく立ち上がると、両手で斧を持ち、込められるだけの魔力を斧の刃に込める時間が与えられた。
「すぅ……」
俺の身体から発散されていた赤黒い魔力はその勢いが抑えられ、その分だけ強力になった赤黒い炎を斧の刃は纏い、赤黒い炎が赤黒い魔力によって固められて巨大な刃を形成する。
ヘスペリデスの黒葉を使っていないから、これほどの見た目を持っていても威力はフォボスには及ばない。
だがそれでも、弱っている『狂戦士の多頭蛇の王』のHPバーを削り切るには十分な威力をこの刃は秘めている。
そして、『狂戦士の多頭蛇の王』が撒く毒のエリアに俺が入った瞬間。
「「「ラッ!?」」」
「ふんっ!」
俺は斧を真一文字に振り抜いて、『狂戦士の多頭蛇の王』の身体に残されていた三つの首を同時に切り落とす。
それに伴って『狂戦士の多頭蛇の王』のHPバーは底を突き、その場で倒れ込む。
切り落とされた首も胴体も暫くはその強靭な生命力によって蠢くも、傷口が炎で炙られていた為にやがては動きを止め、完全に沈黙する。
「よしっ」
そして、完全に動きが止まったところで俺は斧を軽く振って残った魔力を発散させ、それに伴う形で『リアフ・ネロ』の霧も、『狂戦士の多頭蛇の王』の毒の領域も霧散して消え失せる。
「勝った」
そうして最後には『狂戦士の火山の城』の姿そのものがまるで幻か何かであったかのように霞んで消えてしまった。
11/08誤字訂正
 




