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【AIOライト 110日目 12:37 (5/6・晴れ) BL1・『狂戦士の火山の城』】
「ズドラアアァァッ……」
「はぁはぁ、よし!」
昼過ぎ。
遂に一本目の首のHPバーが底を突き、千切れる。
勿論、『エファス・フォティア』を使って炎を纏った斧による攻撃で倒しているため、傷口から新たな首が生えてくるような事にはならない。
「ヒュドラアァァッ!」
「ギドラアアァァッ!」
「ふんっ!ぬんっ!」
他の首のHPバーは残り60%ちょっと、本体のHPバーは50%を少しだけ上回る程度。
一本目の首のHPバーが50%を下回った時含めて、今までに攻撃パターンの変化が見られない事を考えると、本体のHPバーあるいは残りの首の本数で変化が生じると考えるべきだろう。
となれば、此処は一度退くべき所だな。
武器の耐久度は60/100程度で、満腹度も怪しくなってきている。
上手く小休止を入れなければ、この先に対応できないだろう。
「『エクナック・アネモス』!」
「「「!?」」」
俺は一本減った『狂戦士の多頭蛇の王』に対する牽制を開始。
少しずつ距離を取り始めていく。
そして十分に距離が取れたところで物陰に移動する。
「ふううぅぅ……」
「「「ブシュルルル……」」」
『狂戦士の多頭蛇の王』がこちらにむかってゆっくりと近づいてきている中で、俺は一度大きく息を吐き出す。
そしてすぐに次の行動を始める。
「錬金開始、修理結晶使用……」
『8atTletyU2 5yur1t0Ha saSUgani hArd3taidEsune sHeteyAttar1deAth』
それと同時に状況も整理する。
戦闘開始から二時間ほど経った頃からそうではないかと思っていたが、どうやら既に『リアフ・ネロ』による視界の遮りは効果が無くなっているらしい、『狂戦士の多頭蛇の王』が警戒しつつも真っ直ぐこちらに向かってきている事からして、それは間違いない。
「保存食使用……ゴクン、よし。『リアフ・ネロ』……よし」
残りの首は六本、それはそのまま『狂戦士の多頭蛇の王』の手数の低下も意味する。
途中から一本の首に対して集中攻撃を仕掛けるようにしたからこそ出来た事であり、首の数が行動に影響を与えないのであれば、もう二本か三本は落としておきたい所である。
「状態異常、HP、MP、異常なし。よし」
問題はHP低下による行動の変化だが……こればかりは出た所勝負しかない。
なにせヒュドラ種のボス個体など、俺が以前に倒した『呑気な多頭蛇の王』含めて十体しか未だに確認されておらず、討伐された個体に至っては低レア度のものだけの上に三体しかいないのだから。
そう、情報などまるでないのである。
だから、その場で対応するしかない。
「戦闘再開!『エクナック・アネモス』!」
「「「ヒュドラアアァァァ!!」」」
準備を整えた俺は物陰から飛び出すと、『狂戦士の多頭蛇の王』に再び接近。
戦闘を再開する。
「ふんっ!これで……」
「ヒュゴッ!?」
そして戦闘を再開してほどなく、『狂戦士の多頭蛇の王』の残りHPは50%を下回る。
直後。
「「「ヒュウウゥゥドラアアァァ!!」」」
「っつ!?」
俺の身体は『狂戦士の多頭蛇の王』の尾によって薙ぎ払われ、多少のダメージと共に大きく吹き飛ばされる。
そして、その中で見る。
『狂戦士の多頭蛇の王』の口から紫色の煙が漏れ出すと共に、周囲に立ち込める『リアフ・ネロ』の赤黒い霧をほんの僅かにではあるが紫色に近づけていくのを。
『狂戦士の多頭蛇の王』の牙から紫色の液体が染み出し、岩の床に触れると嫌な音を伴って床を溶かしていくのを。
どんな効果を秘めているかなど考える必要もない。
前者は『狂戦士の多頭蛇の王』に近づいた物に対して何かしらの状態異常を与えるもの、後者は噛み付きによる攻撃を強化すると共にただ首を振り回すだけでも脅威を撒き散らせるようになったと言う事だ。
だがそれだけではない。
「ギドラアッ!」
「ぬぐっ!?」
『狂戦士の多頭蛇の王』の首の一つが吠える。
それと同時に『狂戦士の多頭蛇の王』の瞳から魔力が飛ばされ、俺に一つの状態異常を与える。
表示された状態異常の名称は状態異常:ディレイ。
あらゆる動作が遅くなるために、単独行動時においては状態異常:スリープや状態異常:パライズに続く程に危険な状態異常である。
「「「ヒュウウゥゥドラアアァァ!!」」」
『狂戦士の多頭蛇の王』が素早くこちらに向かって突っ込んでくる。
「まさかここまで強化されるとはな……だが」
首まで残り3メートルの時点で状態異常:ポイズンがより強力なもの……『リアフ・ネロ』によるものから『狂戦士の多頭蛇の王』がバラ撒いているものに変わり、回復し続けていた俺のHPバーの回復が停止する。
「『レウ・ギィ』!」
「ヒュドラアアァァ!」
「ビュドラアアァァ!」
「バドラアアァァァ!!」
状態異常:ディレイが回復する。
俺の体重が『レウ・ギィ』によって重くなる。
十分に接近した『狂戦士の多頭蛇の王』の首が大きく口を開けながら殺到しようとし……
「ぬおらああっ!」
「「「!?」」」
全ての首が伸びようとした、その一瞬だけに出来た隙間を突く形で俺は『狂戦士の多頭蛇の王』の懐に飛び込む。
そして、首の一本に対して全力の一撃を叩き込んだ。




