548:103-2
【AIOライト 103日目 08:25 (新月・晴れ) ドウの地・南の砂漠-ヘスペリデス】
「さて、この辺りならいいか」
朝食後。
俺はヘスペリデスの南西部、周囲には森と畑しか無いエリアにやってきていた。
で、そんなエリアで俺は軽く準備運動をした後に、グリスィナ・スィンバシについての確認を進めることにした。
「んー、使い方自体は……まあ、分かるな」
グリスィナ・スィンバシが持つ7つの起動文がどういう効果を持っているのかについては、現時点でも大まかには分かるようになっている。
が、レア度:PMである上に色々と『AIOライト』の外が混じっているからだろう、詳しい事までは分からないようになっている。
つまり、一つずつ効果を確かめなければならないと言う事だ。
「まずは一つ目」
俺は右手に斧を持つと、左手の親指を斧の刃の腹に軽く当てる。
「『エファス・フォティア』!」
そして刃の上で指を走らせつつ発声。
HPとMPをそれぞれの最大値の20%消費して効果が発動。
斧の刃が赤黒い炎に包まれる。
「おっ、ちゃんと熱いな」
『エファス・フォティア』の効果は単純に言ってしまえば装備品へのエンチャント。
その炎は普段の特性:バーサークに伴って生じるものと異なり、きちんと熱を放っており、火属性も有している。
加えてエンチャントを行った装備品の効果を高める効果もあるようだが……まあ、細かい部分は実戦で使って見ないと分からないな。
「よっ、ほっ、ふんっ!」
とりあえず炎を纏った斧で適当な木を斬りつけてみるが、普段より火力が出ている感じはあるな。
たった三回の攻撃で木が一本、伐採できた。
消費するHPとMPが最大値依存で、恐らくセーフティーの類がかかっていないのは少々不安ではあるが……まあ、しょうがないか。
なお、延焼の類については心配しなくていいらしく、攻撃後数秒経つと、自動的に火は消えていた。
「さて次は……」
俺は倒れた木に向けて左手の人差し指を向ける。
「『エクナック・アネモス』」
二つ目の起動文を発声。
HPとMPが最大値の5%消費されて効果が発動。
人差し指から赤黒い風の弾丸がレーザーのように放たれて、倒れた樹を貫通、その先の地面で魔力が解き放たれて強風が発生、長さが10メートル近い木を一瞬ではあるが浮き上がらせて見せる。
「俺の手札の中では割合手軽に使える遠距離攻撃の上に、威力では随一と言う所か」
『エクナック・アネモス』の効果は高い貫通性を持つ上に、着弾点で強風を発生させる遠距離攻撃。
相手の硬さ次第では体内で強風を発生させることになり、そう言う時には通常時よりも大きなダメージを与える事が出来るだろう。
早さと攻撃の阻止能力では『ドーステの魔眼』に、ヘイト稼ぎでは『ディモス』に、一度に撃てる数ではリジェネミスリルクリスに劣るが……そこは適材適所、性質が違う遠距離攻撃として運用するべき点だな。
少なくとも『エクナック・アネモス』が与えるダメージについては、威力が増す条件を満たさなくても他の三つの遠距離攻撃より確実に大きい。
「では、少し休憩して……」
さて三つ目だが……少し消費が大きいようなので、俺はHPとMPが十分に回復するのを待つ。
また、待っている間にネクタールを呼び寄せ、きちんと装備もしておく。
「『リアフ・ネロ』」
準備が整ったところで三つ目の起動文を発声。
HPとMPが最大値の50%消費されて効果が発動。
小指の黒輪から赤黒い霧が生じて、周囲に立ち込めていき、視界が瞬く間に悪くなっていく。
それと同時に空が陰り、血のような色合いの雨も降り出す。
「天候変化、所謂フィールド対象の魔法と言う所か」
「ーーー……」
「そうだな。これを使う時は味方に予め対策を教えておく必要があるだろう」
『リアフ・ネロ』の効果は赤黒い霧と雨を生み出す事。
当然ながらこの雨の中、雨具なしで活動すれば、ペナルティを受けることになるし、霧と雨雲による視界の悪さに対処するためには、灯りか暗視は必要になる事だろう。
勿論、味方も巻き込むので、ネクタールに言った通り事前通知は必須である。
「と、回復が始まったな」
そして、『リアフ・ネロ』の霧と雨はただの霧と雨ではない。
効果範囲内に居る存在には等しくHPとMPに対する自然回復効果、状態異常:ポイズン、それからMP版の毒とでも言うべき状態異常:リーカジと言う聞き覚えのない状態異常が発生する。
このため、俺やシアのように十分な回復力を持つ存在にとっては『リアフ・ネロ』の効果範囲内では普段よりもむしろ回復が早まるが、対策が無い上に回復力も足りない相手にとっては居るだけでHPもMPも削られる恐怖の空間となる。
うん、もしかしなくてもこれはPTプレイだと使えないな。
雨具ぐらいはみんな持っているだろうが、それでもなお使い勝手が悪すぎる。
「……。結構長引くな」
「ーーーーー」
なお、効果時間は一時間。
効果範囲は発動点を中心として直径100メートルほどになる。
そのため、これは後の話ではあるが、一部のミニラドンと農作物に被害が出て、シアに怒られる事になった。
やはり使い勝手が悪い起動文である。
「さて、雨も止んだし四つ目だな」
雨が止んだところで俺は四つ目の起動文を発動する。
「『レウ・ギィ』」
俺のHPとMPが最大値の20%消費されて、効果が発動。
そして効果が発動した瞬間……
「ぃ!?」
「ーーーーー!?」
俺とネクタールの体重だけが激増して、その場で動けなくなった。
「うぐお……」
『レウ・ギィ』の効果は自分の体重の増加。
より正確に言えば体積を変えずに、密度を上昇させ、自重を増加させると共に、増加した自重を支えられるだけの強化を施すと言うもの。
重量が増加した分だけ物理攻撃で与えるダメージも増えているし、敵の攻撃で怯んだり吹き飛ばされたりする事も少なくはなる。
だが……
「こ、これは……慣れるまでが……キツイな……」
「ー、ーーー……」
想像以上に身体が重い。
少なくとも今の俺の体重は、普段の倍以上には増えているに違いない。
おかげで動きそのものには問題なくても、ただ歩くだけで普段以上に精神と神経をすり減らす感じがある。
ネクタールなど、完全に体を引き摺っている状態である。
しかも一度使えば、効果時間が切れるまで勝手に続くタイプだから、自分の意思で解除する事も出来ない。
「これは……使いどころを……選ぶな……」
使いどころを考えれば肉体面全般のステータスが強化されるため、非常に強力な起動文ではある。
だが使いどころを考えないと……感覚が大きくずれて、敗着手になるな。
「と、とりあえず……効果切れを待つぞ……」
「ー、ーーー……」
なお、『レウ・ギィ』の効果時間はグリスィナ・スィンバシの特性:レイシュアの効果もあってかなり長く、2分間も続いた。
戦闘中に2分間も感覚がずれるのは……慣れておかないと拙そうである。
10/07誤字訂正、文章改稿




