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【AIOライト 103日目 06:15 (新月・晴れ) ドウの地・南の砂漠-ヘスペリデス】
「おはよう、シア、ラードーン」
「おはようございます。マス……ター?」
「おはようございますーご主人様ー」
翌朝。
俺はいつも通りに食堂に行き、朝食の準備をしているシアとラードーンに話しかける。
すると俺の姿を見た瞬間にシアが微妙に硬直し、ラードーンも微妙に遠い目をし始める。
「……。マスター、左手のそれは何ですか?」
「ああこれか?グリスィナ・スィンバシ。俺の錬金術師ギルドである『藤の契約』の象徴で、今朝、日付が変わったところで作った」
「詳細を見せてもらってもいいですか?」
「別に構わないぞ」
どうやらシアたちが妙な反応をした原因はグリスィナ・スィンバシに有ったらしい。
と言うわけで、俺はシアとラードーンにグリスィナ・スィンバシの詳細を見せる。
どうせ特に問題のある文章についてはGMが俺以外には見えないように加工を施してあるしな。
「と、今日の朝食はアップルパイか」
「あ、正確にはヘスペリデスの白果の蜜漬けと各種フルーツを使ったパイですね。それと……折角だから、これも食べてみてくれますか。マスター?」
「ん?」
俺はグリスィナ・スィンバシの詳細を二人が見ている間に席に着く。
そしてミニラドンが持ってきた二つのパイに目をやる。
片方は……シアの説明通りにヘスペリデスの白果を含んだフルーツパイであり、とても美味しそうに見える。
もう片方は……ああうん、これはもしかしなくてもシアは怒ってますね。
詳細がこんなのだし。
△△△△△
エヴァンゲーリオの蜜漬けパイ
レア度:3
種別:道具-食料
防御力:100
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
レイシュア(行動がとても遅い)
ナイトビュ(光無き空間を見通す)
エンデュ(持久力を強化する)
ヘスペリデス内にのみ自生する毒草、エヴァンゲーリオの赤黒い根と葉を茹でて蜜漬けにしたものをフィリングにしたパイ。
食べ物とは思えない程に強い滋養強壮作用を持つが、それは同時に強力な毒にも成り得る。
普通の成人男性の場合、一日につき1ピースが適量。
▽▽▽▽▽
「試しに作ってみたら妙な事になってしまって……どう処分しようか困っていたんです」
「そ、そうなのか……」
俺は自分の目の前に置かれている全体的に赤くて苦そうなパイ型の薬と言った方が正しそうな食べ物を改めてみる。
「マスター、レア度:PMのアイテムを作るなとは間違っても言わないですし、マスターに常識が無いのも分かっていますけど……携帯錬金炉に使えと言われたアイテムで装飾品を作った上に、装備品としても十分を遥かに超えるスペックを持たせるのはやり過ぎだと思います」
「お、おう……」
「マスターが使った同盟の彩砂は死すら招きかねない禁忌の品と書かれるような危険なアイテムだったんですよ。そこに無茶を重ねるとか、何かが有ったらどうするつもりだったんですか」
「あはははは……」
実際のところ、今回のグリスィナ・スィンバシにあたって俺は無茶と言うものを一切していない。
と言うか本体で錬金をする以上は、ほぼ全てのレア度:PMの錬金は危険な物ではない。
虚無から自分の肉体を作りだす事以上に危険な錬金など早々あるはずがないのだから。
が、そんなのは俺とGMしか知らない話であり、どうやら追加されている諸々の効果から相当な無茶をしたのだとシアは判断、結果として俺に対して怒ると共に心配もしているようだった。
「そう言うわけで食べてください。どれぐらいの滋養強壮効果があるのかは分かりませんが、少しは無茶をした分が補われると思いますから」
「わ、分かった」
と言うわけで、俺は大人しくエヴァンゲーリオの蜜漬けパイを食べるのだった。
なお、味については……甘苦かった。
どうやら、シアの料理の腕前をもってしても、エヴァンゲーリオの毒草としての力は打ち消し切れなかったらしい。
それでも俺のために作られた物なので、一枚丸々食べきったが。
「で、マスター。問題はないんですか?」
「問題?」
さて食後である。
俺はヘスペリデスの何処かで栽培されているらしい茶葉からラードーンが淹れた緑茶を飲みつつ、シアとの会話をする。
「グリスィナ・スィンバシの特性です。特性:レイシュアが含まれていましたよね。特性:レイシュアって装備品に付いた場合には使用者の挙動が遅くなると言う話だったと思うんですけど」
「ああ、その事か」
どうやらシアはグリスィナ・スィンバシについて色々と気になる事があるらしい。
時間の都合上、俺もまだ詳細は確かめていないし、折角だから幾つか確認しておくか。
「そうだなぁ……」
と言うわけで俺は繋がりを見る目の対象を絞った上でグリスィナ・スィンバシを観察。
その能力の詳細や特性がどう表れているかを確認していく。
「特性:レイシュアの影響は……俺の挙動は挙動でも、状態異常方面に特化する形で現れているみたいだな」
「状態異常方面ですか?」
「ああ、具体的に言えばバフデバフお構いなしに、状態異常とステータス変化の効果が長引くようになっている」
実際にどの程度延びるかまではこの場では読み取れない。
だが、レア度:PMだけあって、相当な効果量にはなっていそうである。
「あの、マスターの回復力だと状態異常の効果時間が多少長引いても大差無い気がするんですけど……」
「そうか?この前のナイトビュアラクネの状態異常:バインドとかだと、どうしようもなくなるぐらいに延びるぞ?」
「でも他の状態異常は一瞬で治してましたよね」
「接戦だと、治るのかかる一瞬が二瞬になったら結構な差だと思うがなぁ……」
「あーはい、なんか平行線っぽい感じがするので、この話題はこれくらいにしておきます」
うーん、それにしても状態異常にかかっている時間が倍以上になる……か。
シアは問題ないと言っているが、案外怖いかもしれないな、これは。
「あ、それと特性:ワクチンの使用間隔と特性:ナイトビュが発動するまでの時間も特性:レイシュアの影響で延びているみたいだな。それに特性:バーサークの発動も一瞬遅れそうだ」
「あ、そっちは素直にデメリットですね」
「だな」
なお、特性:レイシュアの影響は様々な場所に及んでいるようで、幾つかの特性にもその影響は及んでいるようだった。
これは……ちょっと確かめないと拙いかもな。
「シア、グリスィナ・スィンバシの効果を一通り確かめたい。そんなわけで今日は一日ヘスペリデスでの活動になるが、いいか?」
「はい、分かりました。マスター」
そんなわけで、今日の俺はヘスペリデスの中だけで活動する事に決めた。
ま、本体の所にGMが来ていて、そちらのやり取りにある程度以上集中する必要がある事を考えれば、こちらの方がいいだろう。
そして俺は緑茶を飲み干すと、行動を開始した。
 




