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【AIOライト 102日目 08:12 (1/6・晴れ) ドウの地・南の砂漠】
翌朝。
ヘスペリデスで目覚めた俺は朝食を摂り終えると、ヘスペリデスの外に出てエヴァンゲーリオ・ハルモニアーを発動。
シアを背負うと早速東に向かって移動を始める。
「同盟の彩砂は使わないんですね」
「ああ、今日はその日じゃないみたいだからな」
さて、移動だが……まあ、メンテナンス前にあった先遣隊の報告が報告だったしな。
今日の内に何か変化が有れば儲け物と言う所だろう。
「その日じゃない……ですか」
「必要なアイテムについては揃っているんだがな。どうにも時がよくないようだった。あの感じだと……たぶん、作るべきは明日だな」
「なるほど」
そんなわけで今日も一日移動だけをする事になるので、俺はシアとの会話をしつつ東に向かって滑り続ける。
なお、同盟の彩砂(黒)と合わせる予定のアイテムとしては、ヘスペリデスの捻血果、トリゴニキ・ピラミーダ、四つの黒輪、それにエヴァンゲーリオで、合わせると8個のアイテムを同時に錬金することになる。
なので、昨日も言った気はするが、錬金する際には分体ではなく本体で行うことになるだろう。
分体では一部のスペックが足りない。
「それにしても本当に広い砂漠ですよねぇ……」
砂漠の変化は……ああ、少しだけ始まったかもしれないな。
「だが全く変化が無いわけではないらしいな」
「そうですね。ちょっと変わってきました」
今日の移動開始から3時間ほど。
少しずつだが砂漠を構成する地形の割合の内、砂の割合が減り、岩の割合が増える。
だが、変化したのはそれぐらいで、出現するモンスターに変化は見られず、戦闘も未だになしである。
「でもマスター。これだけ砂漠が広い意味ってあるんですか?」
「そうだなぁ……」
と言うわけで、自動生成ダンジョンの入口である扉を横目に捉えつつも俺たちは移動を続ける。
「一応、今の『AIOライト』には6万人のプレイヤーが居ることになっている」
「そうですね」
「その6万人のプレイヤーが全員でホムンクルス2体ずつを召喚したとして……まあ、18万人分のスペースは必要になるな」
「改めて言われてみると凄い数ですね」
なお、実際にはグランギニョルのように3体以上のホムンクルスを使役するプレイヤーが居るだろうし、ネクタールのように本体が出て来れば途方もない大きさのホムンクルスも居るだろう。
逆にシュヴァリエのヴィオとバルのように人間よりも小さなホムンクルスも居るが……まあ、小さい分には特に考慮しなくてもいいだろう。
「それらが一つのエリアに集まって自由に立ち回り、モンスターと戦う事を考えたら……まあ、この南の砂漠のような広大なエリアが必要になるんだろう。一応」
「ああ、なるほど。理屈としては納得できますね」
それに、戦闘面を考えた場合、シュヴァリエなどはその立ち回りと素早さを考えたら普通のプレイヤーの数倍のスペースが居るだろうしな。
結局のところ、各個人が必要とするスペースの量に大した差はないだろう。
「尤も、現実にはそんな数のプレイヤーが一ヶ所に集まる事は有り得ないけどな」
「たぶんですけど、そうなったらマスターとかは真っ先に別のエリアに行きますよね」
「別の所に行くな。初日の南の森林でさえも大概だった覚えがあるし」
ま、現実として有り得ない話である。
GMも一応考えている程度だろう。
「実際の所は設定ミス……はないか」
設定ミス説についてはGMから刺すような視線が飛んで来たので違うだろう。
どうやら意味があってこの広さになっているらしい。
「後考えられるのは……まだ開示されていない何かしらの情報が絡んでいるんだろうな」
「開示されていない情報……ですか」
俺の言葉にシアは悩む様子を見せる。
「その、マスター。今更な話になりますけど、この世界って一体なんなのでしょうか」
シアが真剣な声音で俺に話しかけてくる。
「賢者の石の作成以外にもGMに何かしらの目的があって、その目的を果たす為にこの世界があるのは分かります」
「そうか」
「そんな目的の下で『AIOライト』が始まった頃、マスターにギニョール、シュヴァリエと言ったプレイヤーの皆さんにとっては『AIOライト』の世界はゲームの中の世界と言う認識だったと思います」
「……」
「今となっては『AIOライト』は現実に多くの影響を与えていて、ただのゲームであるとは言えなくなっていますけど、それでも本当の意味での死が無く、色んな人が自分のやりたい事をやっている、と私は思っています」
「そうだな」
「でも、どうしてこんな世界をGMは造り上げたんでしょうか?色んな人に色んな行動を取らせて、それを観察しているのは分かりますけど、一体何が目的でGMは『AIOライト』と言う世界を運営しているんでしょうか?肝心のGMの目的と、どうしてこんな世界を造り上げる必要があったのかは分からないままですよね」
「そう……だな……」
はっきり言ってしまえば、俺はGMの目的を全て語る事は出来る。
GMがゲームクリアの目的として賢者の石を作らせようとしているのも、賢者の石の副産物が非常に重要なものであるからだ。
だが、賢者の石を作るにあたっては、俺のような例外的存在は別だが、普通の人間が造り出そうと思ったら一人一人で異なる上に膨大な量の手順を踏む必要がある。
だからこそGMは『AIOライト』と言う広大な世界を用意し、プレイヤーをこの世界に閉じ込める事で賢者の石を作らせることに専念させた。
全ては賢者の石とその副産物を作り上げる為に。
「マスター?」
では、賢者の石とその副産物が出来上がった後は?
俺は勿論そこも把握している。
あのGMが三千世界の興亡と存続を目的としている事を考えれば、そこまで難しい疑問ではない。
しかし、これは語ってはいけない物だろう。
何故ならば。
「いや、この件については俺は既に答えを握ってはいる。が、俺の答えをシアに聞かせるのは良くないと思ってな」
「良くない……ですか」
「ああ、これは自分で答えを見出さなければ意味が無い問題だからな。何故この世界があるかは、それだけ重要な問題になる」
「……」
「興味があるなら、シアが賢者の石を作ってみればいい。そうすれば……きっと理解できるだろうさ」
「はい、マスター」
俺は既に賢者の石を作る意味を失っている。
この世界が何故存在しているのかも知っている。
GMが何を求めているのかも知っている。
そして、それら全てを知った上で、俺は既に選択を見守る側に立つ事を選択している。
だから、余計な茶々は排除するが、それ以上の事をこの件でするわけにはいかない。
「さて、少しずつだが緑が増えて来ているな。これなら明日には新しいエリアに突入できそうだ」
「言われてみればそうですね」
「ま、今日はもうすぐ日が暮れるから休みになるがな」
そうして、周囲の風景に少しだけ緑が増えてきた頃。
俺たちは日が暮れた為にその日の移動を切り上げたのだった。
10/04誤字訂正
 




