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【AIOライト 101日目 17:00 (2/6・晴れ) ドウの地・南の砂漠】
「さて、きちんと戻って来れたな」
俺は『AIOライト』のドウの地・南の砂漠の大地へ無事に降り立つ。
そして直ぐにエヴァンゲーリオ・ハルモニアーを発動して脚だけ変身し、ネクタールを召喚してハンモック状態にする。
で、シアをネクタールのハンモックの中に召喚すると、俺は何事も無かったかのように移動を再開する。
「ネクタール。分かっていると思うが、さっきのことは……」
「ーーーーー」
「そうか。分かっているなら問題はない」
なお、ネクタールだが、肋骨を介して俺と繋がっているために、俺に引きずられる形でその力を大きく強めている。
そのため、本体とでも言うべき部分はヘスペリデス内に居る俺の本体にくっつく形で存在しており、今ここに居るのは俺のこの身体と同じで分体とでも称すべきものとなっている。
まあ、ネクタールの場合、限界サイズ以外は本体でも分体でも大して差はないし、元々部分的にこちら側に身体を出しているような存在だったからな。
今までとの違いは特にないだろう。
「さて、そろそろだな」
そうしてネクタールと適当に話しつつ砂漠を滑り続ける事約一時間。
もう数分で日が暮れようとした頃、俺たちは目標とする場所に辿り着く。
「シア、着いたぞ」
「ん、マスター……着いた……ですか?」
「ああ、着いたぞ」
俺たちが辿り着いたのは、夕陽に照らされて周囲一帯が橙色に染まる中、一切の光を反射せず黒い穴のようにも見える砂が集まっている場所だった。
「マ、マスター、これって……」
「同盟の彩砂だ。尤も、他の普通のプレイヤーが手にするのとはだいぶ毛色が異なるもののようだがな」
シアが微かに怯える中、俺は黒い砂へと近づいていく。
この砂だが、どうやら周囲に存在している他の砂と混ざらないように、直径5メートルほどの岩の囲いで分けられているようだった。
そして、採取ポイントは囲いの中心部に一つあるだけだった。
「ほう……」
俺は黒い砂の中に足を踏み入れる。
すると俺の侵入を拒むように状態異常:ペインに状態異常:イルネス、状態異常:ポイズンと次々に状態異常が表示されていく。
「い、『癒しをもたらせ』!」
「ありがとうな、シア」
シアの『癒しをもたらせ』に特性:バーサークによる強化、それに俺自身の回復力が組み合わさる事によってほぼ全ての状態異常は一瞬表示されるだけで大した効果は与えてこない。
だが、激痛に疲労感、それだけは確かに俺の精神に伝わっては来る。
何故これほどまでに入手を拒むのか、その理由は採取を終え、黒い砂場から出て詳細を見てみればすぐに分かった。
△△△△△
同盟の彩砂(黒)
レア度:4
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
同盟の彩砂と呼ばれる砂状の物体の一種。
色ごとに異なる形での結びつきを示し、補助するとされている神秘の砂。
正しい手順で用いることで、携帯錬金炉にギルドの機能を追加する事が出来る。
黒い同盟の彩砂。
何ものにも染まらぬ色を持つそれは最上位の契約を司ると同時に、死すら招きかねない厄災を含む禁忌の品でもある。
故に扱う者は心して扱わなければならない。
▽▽▽▽▽
「最上位の契約……って、なんですか?」
「そこら辺は捉え方次第だが……まあ、契約を破った者に対して死あるいはそれに類するペナルティを与える契約ってのは時々あるものではあるな」
「な、なるほど……」
最上位の契約。
神話などでよくあるものだと……神と人間が契約を交わし、人間が誓約と引き換えに絶大な力を得ると言うのがあるか。
誓約を破れば、逃れ得ぬ死が待っているという条件付きで。
そして恐らくだが、この同盟の彩砂(黒)はそのレベルの契約も交わす事が出来るアイテムなのだろう。
だからこそ、おいそれとは手に入れられないようになっているし、禁忌の品でもあるのだろう。
「……」
「マスター?」
「いや、なんでもない」
尤も、今の俺が使う場合だと、契約を結ぶはともかくとして、誓約については誓約をするではなく受けるになりそうな気がしなくともない。
これを錬金する時は繋がりの関係もあって本体の出番になるしな。
「まあ、とりあえずこれで目標のアイテムは手に入れた。同盟の彩砂については、後は自作ギルドを錬金するだけだ」
「そうですね。おめでとうございます。マスター」
「で、この後と言うか明日以降だが……」
さて、同盟の彩砂は手に入れた。
となれば問題はこの後どうするかだ。
「このまま東に向かおうと思う」
「ウハイには戻らないんですね」
「ああ、戻らない。既に普通のプレイヤーの足で四日分の距離を稼いでいるからな。このまま東に向かって、次を目指そうと思う」
俺は東の方角を向く。
東の空には既に月が昇っており、夜の闇によって冷え始めている砂漠が見えている。
だがそれだけだ、見えている範囲では目標らしい目標は何も見えず、ただ何処までも砂の海が広がっている。
「何かは……あるんですよね」
「ある。それは間違いない。何処まで行けばそれが見つかるかは分からないがな」
しかし、ウハイもサハイも終わり、囲いの山脈の洞窟では地下大河によって道を阻まれて船が必要となった現状、目指すべきはやはりビと言う名前の以前からずっと情報はあった都市である。
そしてビと言う都市はその名称からして、ドウの地の東の何処かにビがあると考えるのが当然だった。
「不安でもありますけど、楽しみでもありますね」
「そうだな。とても楽しみだ」
だが、そんな話を抜きにしてもまだ見ぬ世界と言うのは楽しみな物である。
そうして俺たちは明日以降の事を少し楽しみにしつつ、今日はもうヘスペリデスで休むことにした。
10/02誤字訂正
 




