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本日は二話更新です。
こちらは一話目です。
「『楽園の裏側』最大展開」
「ーーーーー!」
俺は赤黒い風の衣に乗せてネクタールの繊維を砂漠の全域……それこそ地上、空中、地中の端々にまで広げていき、世界全体をネクタールで覆っていく。
勿論、本来のネクタールの体積では出来る事ではないが、今のネクタールは俺の影響を受けて大幅にその体積を増やしており、今ならば現実世界の日本一つぐらいならば余裕を持って覆えるだろう。
「……」
そうして俺がネクタールで世界を覆っていく間にも、エフィルの放つ水晶の矢は俺の脇腹の少し上、かつて肋骨が有った場所に突き刺さり、爆発を起こしている。
だがもはや水晶の矢で俺が動じる事は無い。
攻撃と攻撃の間隔を引き延ばし、回復する時間を十分に得ている俺には効果が無いからだ。
「さあ……」
やがてネクタールは世界を覆い尽くし、空も地平線も赤黒いネクタールの身体で覆われ、空気も同じ色を僅かばかりに帯びるようになる。
その状態で俺は『緋色の狩人』のギルマスに対する怒りを込めつつ、目の前に向けて左手を伸ばす。
「行くぞ!」
そしてエファス・フォ・エフィルの黒輪を中心として赤黒い炎を発生させ、俺とネクタールの全身へと纏わせていく。
そう、世界全体を覆っているネクタールの全身へだ。
「ーーーーー……?」
「いいや、これでいい。これでいいんだ」
世界全体が燃え上がる。
それも俺の炎によるものだけではなく、俺の魔力に反応して砂に混じっていたエフィルが起こす爆発も含みながら。
激しく、激しく、世界に存在するすべてを焼き尽くすような勢いでもって。
だが、世界が燃え尽きるような事は無い。
当然だ、今ここに居るエフィルたちはどのエフィルたちよりも力に飢えているのだから。
そこへ俺の感情を込めた炎を放てば、それはエフィルたちにとっては格好の餌でしかないだろう。
そして、それこそが俺の狙いでもあった。
「さあ……来たぞ」
「オ腹ガ……空イタヨ……」
「喉ガ……乾イタヨ……」
「光ガ……欲シイヨ……」
燃え盛る世界の至る所から人の形をしたものが起き上がってくる。
肌は白色で、頭と爪は真紅、頭に付けられた黒い輪はゆっくりと回転しつつ青白い炎を起こしている。
身長については子供ほどの大きさから、3メートルを超すような巨人も居るし、モデルについても男女どころか人の形をしていないものも居たが、間違いなくエフィルたちである。
「ーーー!?ーーーーー!?」
「温カイナァ……」
「デモ、満タサレナイナァ……」
「足リナイナァ……」
そう、俺の炎を喰らってエフィルたちは成長している。
成長して、砂粒一つにしか憑けないような大きさから、肉体を持てるような大きさになっている。
「「「満タソウ、満タソウ……」」」
「ー、ーーー……」
「ま、少し待ってやろうじゃないか」
やがてエフィルたち同士の共食いが始まり、無数にいたエフィルたちは一体へとまとまっていく。
その光景はまるで寒さの中で温もりを求めて群れ集う人々の様であると同時に、己の生存の為に他者を喰らう蠱毒のようでもあり、新たな星が生まれるべく重力で潰れていく姿のようでもあった。
そうして最終的には赤黒く燃えるこの世界の中で唯一青白く燃える太陽のような球体と化した。
「アア、満タサレル。ケレド、満タサレナイ」
その球体の一部が盛り上がり、形を成し始める。
「私ハ飢エテイル。私ハ飢エ続ケテイル。私ハ……レウ・フォ・エフィル。ホンノ少シノ 良キ ヲ奪ワレテ来タ者」
それは……レウ・フォ・エフィルと名乗った存在は全体的に細身ではあるものの、女性の姿をしていた。
そしてレウが出てくる程に青白い球体は縮んでいき、成人女性並みの身長しか持たないはずのレウの全身が出てくるころには青白い球体は完全に消滅をしていた。
「貴方ハ私ヲ満タシテクレタ。ケレド、貴方ガ居タカラコソ、私ハ満タサレナカッタ」
裏を返せば……レウの肉体には先程までの青白い球体を構成するのに必要なエネルギーの全てが集まっていると言う事でもある。
「私ノれぞんでーとるハ貴方ヲ滅ボシテ、怨ヲ晴ラス事。ダカラ嘘吐キモ私ニ武器ト知恵ヲ教エタ。ダカラ私ハ貴方ヲ襲ッタ」
レウの両手にそれぞれ一本ずつ、『緋色の狩人』のギルマスが用意したであろう煌めきを纏った水晶の槍が握られ、頭の黒輪の周囲には無数の水晶の矢が浮かび、その胸の窪みからは青白い光を煌々と発している。
「デモ、貴方ハ私ヲ満タシタ。ソレハ間違イナク恩。恩ハ返サナケレバイケナイ。ソレコソガ次ノ 良キ ヲ招クノダカラ」
俺は武器を構えず、レウの言葉に耳を傾ける。
ネクタールにも手を出させず、そのまま待つ。
「ダカラコソ問イタイ、私ハドウスルベキ?」
レウは明らかに迷っている。
己の中の知識と存在意義が相反している為に。
その迷う姿は……そのまま、俺が負うべき悪しきでもある。
「好きにすればいい。去れば俺は追わないし、来るならば討つ。神足る身、創造主足る者として生み出したものの決断そのものは如何なるものであろうと尊重する。そして、この上なく勝手な事ではあるが、その決断が俺の身に害成すものであれば罰を与える。俺はそう言うものだ」
「ソウ……ソウナノ……」
俺はゆっくりと武器を構える。
レウもゆっくりと武器を構える。
「ナラバ私ハれぞんでーとるヲ果タシマショウ」
レウの姿が更に変貌する。
胴は幾つもの蕾の装飾が施された白色の鎧と化し、黒輪は頭から外れて天使の輪のようになり、顔は赤い表皮が崩れて、その下から俺もネクタールも良く見知った、けれど全く別物の顔が輝く金色の長い髪と共に現れる。
「私が咲く為には、この飢えが満たされなければなりませんので」
「ああ来い。俺はその意思を尊重し……その上でお前を倒そう!」
そしてシアの顔をしたレウ・フォ・エフィルは槍を振りかぶりつつ俺に向かって跳躍した。
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