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AIOライト  作者: 栗木下
9章:双肺都市-後編

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539:101-4-X2

「すぅ……はぁ……」

 俺はネクタールで全方位への警戒と防御をしつつ、自分の時間を操って加速した状態で情報の整理を始める。


「敵がエフィルたちなのは間違いない」

 まず第一に今俺に攻撃してきているのは、『反ミアゾーイ』の一派、エフィルたちの仲間である事は間違いない。

 ゲーム外の存在であると同時に、これだけの力を持っている存在で、かつGMが手を出さずに俺に対処を任せているのだから、それだけは間違いない。


「現状、使ってきている攻撃は二つ」

 二つの攻撃のうち、爆発の方は問題ない。

 純粋な物理攻撃であるために俺には効果が無いからだ。

 これで他のエフィルたちのように爆発に想念なり魔力なりを込めていてくれれば無効化どころか吸収も出来たのだが……いや、もしかしたらそこまで知っているからこそ、何も込めていないのかもしれないな。

 それならば、もう一つの攻撃が俺に通用している理由も見えてくる。


「光力溢れる水晶の矢……と言う所か」

 この敵の使うもう一つの攻撃は煌めきを纏った水晶の矢を放つ事。

 あの爆発の中で何の問題も無く飛んできた点からして、矢を飛ばす方法にはゲーム外の方法を用いているようだが、恐らくダメージ部分には一切手を加えていない。

 だからこそ、あの矢の与えるダメージ部分には俺とGMの交わした契約が適用され、この姿の俺に対しても十分なダメージを与えることが出来るようになっている。

 光属性と言うのも、俺の弱点を突く攻撃であるし、そう言う点でも俺の事をかなり調べて来ているのだろう。


「ぐっ……ああなるほど。だから、矢が刺さるのも此処と言うわけか……」

「ーーーーー!?」

「大丈夫だ。心配しなくていい……」

 と、一本目の矢が突き刺さった場所のすぐ横の部分に再び矢が突き刺さり、爆発する。

 それで俺は砂漠を幾らか転がされ……そうして転がっていった先々で意味はないが、大爆発が起きていく。


「ーーーーー!?」

「落ち着いて周囲を観察しろネクタール。何処かに敵は必ず居る」

 俺は爆発に巻き込まれつつも情報の整理を続ける。

 そう、矢が突き刺さる位置にも意味がある。

 肋骨には様々な役割があるが、その内の一つに肋骨内部の重要な器官を保護すると言う役目がある。

 だが、俺の肋骨はネクタールを生み出す時に一本失われている。

 それは即ち、肋骨一本分だけ守りが薄くなっていると言う事でもあり、ネクタールとのリンクを維持する以上は決して埋められない俺の弱点でもある。

 だから、この姿の俺に対しても問題なく矢が突き刺さり、効果的にダメージを与えられる。

 そして、飛ばす過程を何かしらの方法で誤魔化しているからこそ……ネクタールの防御を容易にすり抜けて来る事が出来る。


「すぅ……はぁ……」

 敵の攻撃の正体は一先ずこれで割れたと思っていい。

 だが、敵の能力の正体は分からない。


「『緋色の狩人(バルバロイ)』のギルマスは……ないな。アイツの趣味でも能力でもないだろ」

 『緋色の狩人』のギルマスは有り得ない。

 アイツもエフィルの一体ではあるし、俺の命を狙ってはいる。

 が、アイツの能力に過程の無視は無いと思うし、アイツの性格とやり口からして一人かつ自分で襲ってくるのも妙だ。

 コイツが使っている水晶の矢の出所が奴と言う事はあるだろうが……逆に言えばそれ止まりだろう。

 つまり、能力の正体は分からない。


「しかし、どうやってトドメを刺すつもりだ?」

 分からない事はまだある。

 この攻撃で削れるの主に俺のHPバーであって、俺の命ではない。

 『AIOライト』と現実の境界が曖昧になっているこの領域だからこそ、俺の命も削れているが、今のペースと両世界の肉体間の差異を考えると、このまま攻撃を受け続けても先にHPバーの方が0になって、ただ死に戻りするだけである。

 つまり、何かしらの方法でもって……最低でもトドメの一撃だけは俺の命を削り取るような攻撃を撃たなければならないはずなのだが……まあ、これについては頭の片隅に置いておけば十分か。

 そもそもそんな攻撃は撃たせないのが正解なのだから。


「ーーー……」

「……。来るか」

 だいたいの情報整理は終わった。

 だから俺は再び武器を構え、赤黒い風の衣にネクタールの繊維を織り交ぜつつ漂わせ、足裏の赤黒い雲の領域も広げ、関節から噴き出す赤黒い炎の勢いを増し、両目に魔力を集めておく。

 何時何処から何が来てもいいように。


「ぐっ……!?」

 矢が突き刺さる。

 全ての過程を無視して、俺の身体に刺さると言う結果が生じる。

 そして水晶の矢は俺の魔力の影響を受けて爆発。

 俺のHPバーと命の両方を幾らか削り取る。


「この繋がりは……」

 その一連の流れの中で俺は見ようとする。

 放たれた水晶の矢が持つ繋がりを。

 何処から、どのように放たれて、どうやって俺の身体に突き刺さると言う結果を導いているのかを。


「ぐっ……そういう……事か」

「ーーーーー!?」

 そして俺は理解した。

 水晶の矢が飛行中の可能性を分散する事によって、過程に存在するあらゆる障害を透過していると言う事実を。

 水晶の矢が放たれる始点はこの砂漠全域に散らばっていると言う事を。

 水晶の矢が放たれると同時に……過程の可能性を分散させる現象を起こす為に、射手の存在が消滅する姿を。


「全くもってむかつく事をしてくれる……」

 敵は確かにエフィルだった。

 だが、エフィルはエフィルでも自我すら持てないような矮小で小さな……それこそエフィルとは思えない程に純粋な存在だった。

 そう、このエフィルは自分の身に起きたちょっとした不幸や足りないと言う感情が集まったもの。

 本当に僅かな物で、その感情の原因がミアゾーイの影響であると言う自覚すらも無いような想念。

 塵が積もって山となってもなお、個にはなれず、己の内の満たされていない感情のままに動く存在。

 ある意味では最もミアゾーイの反存在として正しく、ミアゾーイを作り出した者として俺が受け入れなければならない概念だった。


「いいだろう。お前がどんな未来を見て仕掛けたのかは知らないが……」

 それに『緋色の狩人』のギルマスは手を加えた。

 武器を与え、策を与えた。

 策を実行すれば己が消滅する事を敢えて教えず、飢えが満たされると(うそぶ)いた。

 自身が愉悦を感じる形で勝利をするために。


「全力で相手をしてやる」

 この時俺は……はっきりと嫌悪を感じた。

 そして、この戦いをどう収めるのかも見据えた。

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