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【AIOライト 101日目 11:15 (2/6・晴れ) ドウの地・南の砂漠】
「よっと」
エヴァンゲーリオ・ハルモニアーによって脚だけ変身した俺はウハイの街中を駆け抜け、ウハイの中と外を分ける洞窟も通り抜け、何処までも乾燥した砂の大地へと滑り出した。
「す、すごい速さですね……」
「いやー、そうでもないぞ?地図を見る限りでは時速にして40キロメートルちょっとと言う所しか出てない。現実世界なら普通の車でもこの3倍までは普通に出せるはずだ」
「そ、そうなんですか……」
「ちなみにシュヴァリエの奴は俺の目算が正しいなら、今の俺の5倍は出せると思う」
「あ、それは何となく分かります」
と言うわけで、現在俺はネクタールを安全ベルトにするような形で背中にシアを乗せ、ドウの地・南の砂漠に無数に存在している砂丘の上をスケートボードのような何かでもって滑るように疾走している。
そのスピードは俺が走るよりも確実に速くはあるが……まあ、車やシュヴァリエなんかと比べたらかなり遅いな。
「ま、地形もモンスターもお構いなしに一直線に休みなく進み続ける事が出来るのは、シュヴァリエや現実の車には無いメリットではあるな」
まあ、問題はない。
そもそもエヴァンゲーリオを使う最大のメリットはスピードではなく持久力の向上にあるのだから。
この分で行けば、それこそ今日中には目的地に着くだろう。
「確かにモンスターには襲われそうにないですね。私たちの事を見つけられないみたいですし」
「ああ、こっちがかなりの速さの上にネクタールの隠蔽があるからな。そう簡単には襲いたくても襲えないさ」
「ーーーーー」
なお、南の砂漠に出現するモンスターだが、こうして高速移動している中で見かけた限りでは、よく戦ったことのあるプレンスネーク、プレンスコーピオン、プレンカクタスの他は……
自分と同じ大きさの球体を転がしているプレンスカラベ。
戦闘が行われているのを感知して、こちらが弱体化するのを待って襲ってくるプレンヴァルチャー。
如何にも砂漠の盗賊と言う雰囲気なプレンバンディット。
何時も変わらず巨大なプレンワームなど、案外バラエティに富んでいる。
ネクタールの隠蔽のおかげでどれも完璧にスルー出来ているが。
「日差しは……この分だと今日一日は大丈夫そうですね」
「その為の気温対策アイテムだからな」
気温対策は囲いの山脈で入手した普通のテキオンの青実とヘスペリデス内で採り作った適当な小麦粉を錬金して作ったテキオンの青粉と言うアイテムを使っている。
詳細については……手持ちの一つはこんな感じだ。
△△△△△
回復力溢れるテキオンの青粉
レア度:3
種別:道具-薬
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
ディスペル(魔の力を打ち砕く)
テキオンと呼ばれる特殊な樹に実る青色の果実を粉状にしたもの。
服用あるいは塗布する事でおおよそ12時間、暑さに対する耐性を得る事が出来る。
ただし味はよくない。
▽▽▽▽▽
「これ一つで12時間でしたっけ」
「そうそう。つまり砂漠のように半日分の対策が有ればいい場所なら一日一つで足りることになる」
テキオンの青粉にしろ、寒さ対策版であるテキオンの橙粉にしろ、気温対策専用のアイテムだけあって、薬品にすると元の果実の状態よりも更に効果が高まるようになっている。
テキオンの果実は両方ともいずれはヘスペリデスで取れるようになるだろうし、小麦粉も同様であると考えると、今後の気温対策についてはそこまで心配しなくてもいいだろう。
実に素晴らしい事だ。
「ところでマスター?」
「なんだ?」
と、ここで少しだけ真剣な声音のシアが声をかけてくる。
「今回のハルモニアーに使ったアイテムってどんなの何ですか?」
「どんなのって……こんなのだが?」
俺はその事を少しだけ妙に思いつつも、エヴァンゲーリオの詳細をシアに見せる。
「……はぁ」
「ん?」
すると何故だかシアに溜め息を吐かれてしまった。
「どうしたんだシア?」
「いや、やっぱりマスターはマスターなんだなぁ、と。それから、このエヴァンゲーリオと言うアイテム、ギニョールたちが見たら色々と言いそうだなぁ、と、思っただけです」
「色々言いそう?」
「そうですよ、マスター。だって……」
それからシアがエヴァンゲーリオの何処がおかしいかを話し始める。
で、その話をまとめるならば……
・レア度:PMとして新しい植物の種を作ってしまっている
・強力な毒草と断言され、GMから生産者が異常と言われている
・特性四つなのに時間さえ経てば量産が可能
と言う点がおかしいらしい。
「マスター、これは間違っても他のプレイヤーが採取できるようにはしないでくださいね。色々とトラブルを招く予感がしますから」
「うんまあ、シアが言うなら気を付けるようにはしておく。とりあえずラードーンに中庭の外に有る物と、まとめて育成している場所以外で見かけたら回収しておくように言っておくか」
「お願いしますね。マスター。後、カプノスで使うのも今回みたいな場合でなければ控えてくださいね。どんな悪影響があるか分からないので」
「そうだな。気を付けておく」
まあ、アイテムの詳細にある通り細心の注意を払って取り扱うようにと言う事なんだろうな。
うん、気を付けるとしよう。
エヴァンゲーリオの毒がシアに向かったりするのは御免だしな。
「じゃ、昼までまだまだ飛ばすぞ」
「あ、はい。分かりましたマスター」
そうしてちょっとした会話をしつつも、俺は目的地に向かって上りも下りも関係なく、ひたすらに砂の上を滑り続けたのだった。




