535:100-19
【AIOライト 100日目 23:15 (半月・晴れ) 同盟街・ウハイ-ヘスペリデス】
「さて、寝る前に一仕事しないとな」
夕食も風呂も終わり、俺以外の面々が明日に備えて眠り始めた頃。
俺はヘスペリデスの黒葉を詰めたカプノスを吹かしつつ、中庭へと移動。
そして、中庭で咲いている花から目に付いた物を根から採取すると、そのままミデンが置かれている神殿の中へと入る。
『2ass0= to cU5uliw No tiGa1ha pO3erGa kNowsarEte1rucA sIlar3NocA』
「まずは……っと、随分と難しいな」
俺は今しがた入手した回復力溢れる藤色の花に、倉庫ボックスの奥の方で眠っていた『呑気な多頭蛇の王』の牙を付与。
特性:リジェネしかなかった所に特性:レイシュアを加える。
レア度:1同士にしては妙に難易度が高いのは……何故だろうな?半月である事を加味しても妙ではあるが……まあ、上手くいったなら問題はないか。
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回復力溢れる『呑気な多頭蛇の王』の花
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
レイシュア(行動がとても遅い)
携帯工房・ヘスペリデス内に自生している藤色の花を付ける植物。
『呑気な多頭蛇の王』の牙が付与された結果として僅かながらに毒性と薬効を有すると共に、花の形が口を開いた蛇の頭を思わせる形になっている。
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「うん、問題ないな」
俺は一応繋がりを確認。
回復力溢れる『呑気な多頭蛇の王』の花、ナイトビュスコーピオンの眼、エンデュホースの骨の間にはしっかりとした繋がりを感じ取る。
「それじゃあ、始めますか」
俺は自分がカプノスの効果で姿が変わったままである事を確認するとミデンの前に立つ。
そして回復力溢れる『呑気な多頭蛇の王』の花、ナイトビュスコーピオンの眼、エンデュホースの骨をミデンの中へと投入。
左腕を突き入れ、普段よりもさらに多くの魔力を流し込む。
「錬金術師ゾッタの名において告げる」
俺は静かに、俺以外の誰にも聞こえないような声量で呟く。
「名も知られず夜咲く藤色の花。楽園にて咲き誇り彩る癒しの花。多頭蛇の王の毒を受け継ぎし毒花よ。汝が名を持ち、一つの種となる時は来た」
俺の呟きに応じるように、ミデンの反応も通常の錬金よりも更に穏やかな物であり、藤色の輝きこそ放っているが、それ以外はまるで錬金術に使っていない時のような静かさだった。
「汝交わるは夜行きて命刺し穿つ狩人の瞳と絶えず駆け続けることを許された馬の精髄。それは汝に新たな力を与えるだろう」
本当に何処までも静かで、油断をしていたら、錬金している当人である俺でさえも反応が進んでいるのか分からなくなってしまうような反応。
だがこの反応は、これから俺が生み出そうとしているものを考えた場合、これ以上なく正しい反応と言えた。
そして、静かなのはここまでである。
「汝は秘める。昼夜関係なく駆け続ける力を。汝は与える。百里行こうとも絶えぬ生命を。汝は得る。楽園の一角にて繁栄する未来を」
少しずつ、少しずつミデンの中の液体が渦を巻き始め、藤色の光が柱のように立ち昇り始める。
「芽吹き、根を張り、葉を広げ、花咲かして、種を為せ。幾度も幾度も汝が主の終焉を遠ざけるように」
やがて光は神殿の天井をすり抜けてヘスペリデスの館の最も高い部分よりも高く舞い上がると、ヘスペリデス中に向けて藤色の光を散布していく。
「知恵無き者に汝の名と力は伝わらぬだろう。知恵有る者は汝の名と力を崇めるだろう。さあ、汝が名をこの世にて燻らせ、伝えよう」
そうして散布された藤色の光の一部は地面にまで到達し、種に変化し、芽吹き、根を張り、葉を広げ、茎を伸ばし、藤色の花を咲かせ、やがて幾つかの藤色の光を周囲に向けて放ち、消え去る。
「認めよ、改めよ、従えよ、静まれ、鎮まれ、調べ調和させ形を成せ。汝はこの世に新たに生まれ出づる花。果てなき旅を行く者たちへの福音である」
それを何度も何度も繰り返し、俺は大量の魔力消耗と引き換えにこの世に新たな種族を誕生させる。
「さあ、我が前に姿を顕せ。エヴァンゲーリオ」
俺がゆっくりと左腕をミデンの中から引き上げる。
そして手の中に在る複数の藤色の花を咲かす草を天高く掲げ、俺の身から溢れ出る赤黒い炎のような魔力でもって祝福する。
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エヴァンゲーリオ
レア度:PM
種別:道具-薬
防御力:100
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
レイシュア(行動がとても遅い)
ナイトビュ(光無き空間を見通す)
エンデュ(持久力を強化する)
ヘスペリデス内にのみ自生する毒草。
一つの種から複数の茎を伸ばし、夜の間にだけ藤色の花を一つの茎に複数個咲かせる。
その姿はまるで複数の頭を持つ蛇が口を広げているようであり、根の赤黒さもあって製作者の異常性を良く表している。
植物全体に強い滋養強壮作用が含まれているが、それは同時に非常に強力な毒でもあるため、取り扱いには細心の注意が必要となる。
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【ゾッタの錬金レベルが39に上昇した。錬金ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「よし、無事に完成したな」
俺はステータス画面を操作しつつ、神殿の外に出る。
ステータスについては上げるのは素材類にしておく。
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ゾッタ レベル36/39
戦闘ステータス
肉体-生命力21・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力40+20+10・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10・光属性7・闇属性10
分類-武器類20・防具類15・装飾品15・助道具20・撃道具15・素材類19
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「うん、いい感じだな」
そして神殿の外に出た俺は笑みを浮かべる。
何故なら……
「これならちゃんと根付いてくれそうだ」
神殿の外では今創り上げたエヴァンゲーリオがちょっとした花畑を生成する程度の量に増えていたからである。




