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本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 100日目 12:19 (半月・晴れ) RS1・『いたわる凍土の塔』】
「倒したぞー」
「いや、倒したぞじゃないわよ。ゾッタ兄……」
「マスター、今回のは流石にGMから怒られそうな気がするんですけど……」
戦闘終了後。
剥ぎ取りを終えた俺はシアたちの居る場所に戻る。
戻るが……揃って微妙そうな表情をしている。
「心配しなくてもこれで怒られるのなら、もっと前に怒られている」
「いや、師匠、それでも今回はちょっと説明が欲しんだけど。一体何をやったのさ……」
「何と言われてもだな……」
うーん、ちょっと試してみたい事があったから試してみて、そうしたらそれが予想以上にうまくいってしまっただけの話なんだが……そうだな、シアも不安そうにしているし、種明かしはしておくべきか。
「簡単に言ってしまえば、目に写らない程に細くしたネクタールを自分の周囲に張り巡らせておいた、ただそれだけの事だぞ」
「「「!?」」」
俺はそう言うと自分の周囲に張り巡らせておいたネクタールの身体を蜘蛛の糸並に細い状態から、紐程度の太さにまで太くする。
「範囲は……現状だとだいたい10から20メートルといったところか」
「た、ただそれだけであんな事が……はっ!?」
「ああ、なるほど。そう言う事なのね……」
「マスターがまたとんでもない事を……」
俺の周囲に紐程度の太さになったネクタールが複雑な蜘蛛の巣のような模様を描きつつ地面に転がる。
まあ、流石にこの太さでは宙に漂う事は出来なくて当然だな。
「ま、既に何人かは気付いているようだが、後はネクタール自身の能力と俺の装備の組み合わせの応用だな」
さて、今回俺がやったことを改めて説明するとだ。
まず、俺は自分の周囲にちょっとした風で宙を舞い、よく目を凝らさなければ決して見えない太さにしたネクタールを立体的な網のような形で漂わせた。
戦闘中に起きる程度の風で宙を漂うような太さの糸であるため、当然ながら拘束能力はなく、触れれば即座に切れてしまうような強度しかない。
だが糸が切れると言う事はダメージを受けると言う事、それが極僅かな上に即座に治ってしまうような傷であってもだ。
「師匠の防具、ダメージを受けると状態異常:ポイズンの反撃をするんだっけね……」
「そしてネクタール様はゾッタ様と繋がっているのじゃ」
「つまり、この糸の範囲内で行動するだけで常に状態異常:ポイズンの判定が発生するって事になるんやね……」
「そう言う事だ」
そして今の俺の防具は『狂戦士の多頭蛇の王』の骨を使った防具であり、その効果には被ダメージ:状態異常:ポイズン付与と言うのがあるのだが、この効果は俺とHPバーを共有しているネクタールにも適用される。
結果、ボンピュクスさんの言うとおり、ネクタールの糸の範囲内で行動することは、そのまま常時状態異常:ポイズンが付与されるかどうかの判定を行う事に繋がり、相手に消耗を強いることが出来ると言うわけである。
「そしてネクタールは自分の身体なら何処からでも武器を自由に出す事が出来る」
「となると、あの赤黒い炎のようなエフェクトは師父が主導しているように、あるいは元々そこにネクタール様の身体があったと思わせないように見せかけるためのフェイント、と言う事ですか」
「大正解だ。ちなみにエフェクトは特性:バーサークの効果を示している奴だから、まったく意味がないわけでもない」
後はまあ、グランギニョルたちの言った通りだな。
ネクタールの身体の一部がそこにある以上、後は武器を取り出すだけの面積さえあれば、範囲内の何処にでもネクタールは自由に攻撃を行う事が出来る。
糸の状態を維持するネクタール自身のスタミナの問題もあるから、攻撃の頻度はそこまで高められないが……不可解極まりない上に回避が困難なこのネクタールの攻撃を避けるのは至難の技になるだろうし、解き明かす事も俺たちの事を良く知らなければ容易ではないだろう。
「はぁー……とんでも極まりね。こんなの防ぎようがないじゃない」
「でもマスター、この技術って……」
「まあ、欠点が無いわけじゃない。とりあえずPTで戦っている時に使うのは無理があるな」
勿論、問題もある。
まず第一にFFの関係でPTで戦っている時だと、味方まで状態異常:ポイズンにしかねない。
第二に範囲攻撃及び攻撃の度に追加効果の判定が発生するタイプとの相性が致命的に悪い。
第三に展開中に迂闊に味方が補助魔法を俺にかけようとすると、俺自身の身体に当たる前に魔法が発動すると言う奇妙な姿が見えて、何かをしているのがバレる。
第四にこの形態を維持することはネクタールにとっても決して楽な事ではない。
とまあ、むしろ問題だらけな新技術でもあるわけである。
「それでも十分すぎるから」
「そうか?」
「そうよ」
よ、ここでGMからのメッセージが届いたので、俺は視界の隅で一読。
どうやらログを追うのと効果を固定化するために何かしらの名前を付けろとの事だった。
「そう言えばマスター、これだけのものになると『ドーステの魔眼』のように名前を付ける必要があるんじゃないですか?」
「ん?そうだな。GMからも丁度名づけるように来たし、名前は付けておくか。そうだな……」
まあ、今後、俺とネクタールの装備が強化されれば、こちらもまた強化される技術である。
名前を与えておいても損はないだろう。
それで肝心の名前だが……そうだな、こうするか。
「『楽園の裏側』。そう名付けておくか」
ネクタールは楽園の入り口であると同時に、外と中を分ける境界でもある。
そのネクタールが楽園とは真逆の様相を示すのだから、この名前が一番相応しいだろう。
だから俺は軽く笑みを浮かべつつ、そう名付けた。
「「「……」」」
すると何故か全員が俺から一歩退いていた。
「ん?どうした?」
「いえ、何でもないです。マスター」
「何でもって……」
「何でもないです。マスター。そうしておいてください」
「まあ、それなら別に構わないが……」
そして何故かシアに気にしないようにと押し切られてしまった。
まあ、本人たちが何でもない事にしておきたいなら、俺からとやかく言う事ではないのだが……まあいいか。
俺に問題があるわけじゃないからな。
「さて、次のモンスターが来たぞ。ソフィア」
「そうですね。ふふっ、師父の後だと見劣りする未来しか見えませんが、頑張らせていただきますわ」
そうこうしている間に俺たちが居る場所へ次のモンスターが近づいて来たため、ソフィアがネリーとフローライトの二人とともに前に出る。
さて、お手並み拝見だな。
09/18誤字訂正




