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本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
【AIOライト 100日目 11:57 (半月・晴れ) RS1・『?凍土の塔』】
「さて、お昼ご飯前に真打登場といったところかしらね」
「真打って、グランギニョル、お前人を何だと……」
昼前、探索を続け、次の階層に続く階段を発見した俺たちの前に次のモンスターの集団が現れる。
で、俺が戦うのは順番通りだから問題ないのだが、真打って何だそれは。
まるで人を別格と言うか上位種と言うか……いや、上位種ではあるのは事実だが、それでもその言い方はどうなんだ?
「いやー、だって師匠だし……」
「まだ私も残っていますが、師父ですからねぇ」
「ゾッタさんですし」
「ゾッタ様以上に期待できるはずがないのじゃ」
「ゾッタ君、少しは自覚してもええんよ?」
「マスターは普段の戦いを思い出した方が良いかと」
「ーーーーー!」
だが何故か俺の言葉は全員からの否定の言葉で潰されてしまった。
「……」
「ふふん」
グランギニョルがドヤ顔をしている。
「「「サハギョッギョ」」」
「「「コボッコボコボ」」」
「……」
こちらに接近してきている『?サハギン』三体……Lv.27、Lv.29、Lv.31と『?コボルト』三体……Lv.26、Lv.28、Lv.32にも何処となく笑われている感じがある。
『?リビングメイル』Lv.30は……元々感情を表す手段がそんなに無かったか。
「分かった。それなら期待に応えられるかは分からないが、一つ試したい事があるから、それを試しつつ戦ってみることにしようか」
俺は特性:バーサークを全力で発動。
全身から赤黒い炎のような魔力を噴き出し、ネクタールを揺らめかせつつ全てのモンスターのヘイトを俺にのみ向けさせ、両手に武器をしっかりと持ち、仮面の下で笑みを浮かべながらモンスターたちに向かって歩き出す。
そして、それらの陰で一つの指示をネクタールに与えて実行させる。
「ではマスター、『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』」
「助かる」
シアが何時ものように補助魔法を俺にかける。
これで俺の回復力は十分に高まり、戦闘の準備は整った。
「では行くとしよう」
「……」
俺はモンスターの群れに向かっていく。
対するモンスターの側からは『?リビングメイル』が巨大な剣を振りかぶりながら前に出てくる。
「ふんっ!」
「ーーー!」
俺の攻撃と『?リビングメイル』の攻撃がぶつかり合う。
「「「サハギャッ!」」」
「「「コボルッ!」」」
「ネクタール!」
「ーーー!」
『?サハギン』が口から水の弾丸を放ち、『?コボルト』は手に持った弓から矢を放つ。
俺はそれらをネクタールに迎撃させると共に、位置を調整することで『?リビングメイル』に当てさせる。
これで微々たるものであってもFFによってダメージを稼げる。
そう考えての行動だった。
「ーーー!」
「ちっ、そう言う特性だったか」
だが、『?リビングメイル』はダメージを受けないどころか気にした様子も見せずに、俺に向けて剣を振るい、俺はそれを短剣と斧で受け止める。
何が起きたのかは……考えるまでもない。
この階層の特性がFFを防止する特性:シンパシィであった、ただそれだけの話である。
そして、俺の思考が正しかった事を示すように、モンスターたちの名前から鉤括弧が外れると共に、シンパシィリビングメイル、シンパシィサハギン、シンパシィコボルトに変化する。
「だがそれなら……だっ!」
「サハギッ!?」
「ゴボッ!?」
俺はリジェネミスリルクリスの投擲と『ドーステの魔眼』で後衛の攻撃を牽制しつつ、シンパシィリビングメイルと切り結ぶ。
勿論、ただ切り結ぶだけでなく、隙を見せたならば容赦なくシンパシィサハギンとシンパシィコボルトにも切りかかる。
そうして戦っている間に、武器と防具の効果によって状態異常:ポイズンを始めとした各種状態異常が全てのモンスターに行き渡り、俺に対して有利な環境が少しずつ出来上がっていく。
「ーーー!ーーーーー!!」
「悪いがお前の攻撃をまともに受ける気はない」
普段より派手なエフェクトを発しつつ放たれる俺の攻撃によって、少しずつ前衛であるシンパシィリビングメイルのHPバーは減っていく。
対するこちらのHPバーはシアの支援もあって、まだまだ余裕がある。
後衛であるシンパシィコボルトたちは状態異常の対処に負われ、シンパシィサハギンたちの攻撃はネクタールの牽制によって捌けている。
また、そう易々と俺の周囲から逃げられないようにシアが『アルケミッククリエイト』によって氷の壁を形成し、移動できる範囲が制限されているのも、俺にとっては追い風となっている。
「コ、コボッ!」
「そろそろいいか」
そうやって戦っている間に、ずっと俺から逃げ回りつつ回復に回っていたシンパシィコボルトの一体のHPバーが残り10%を切る。
勿論、放置しておけば何度か回復はされてもやがては削り切れるだろう。
だが、隙無く仕留められるのであれば仕留めてしまった方が都合がいい残りHPでもある。
「ーーー!」
「ほうっ」
俺の考えを察してか、あるいは本能的な物か、シンパシィリビングメイルの攻撃が激しくなる。
なるほどこれでは俺の短剣と斧がシンパシィコボルトに向く事はないだろうし、俺がこの場に居る以上はネクタールの槍も届かないだろう。
普通ならば。
「ネクタール」
俺の呟きに応えるようにHPバーの減ったシンパシィコボルトの周囲に三つの赤黒い炎のようなエフェクトが生じる。
そして、俺以外の全ての者がそのエフェクトに違和感を抱き、行動するよりも早く。
「ーーー」
「ゴボッ!?」
「「「!?」」」
三つの赤黒い炎のようなエフェクトからネクタールの槍がそれぞれに突き出され、シンパシィコボルトを串刺しにし、HPバーを削り取る。
「さあ、これでまずは一体だ」
「ー、ーーーーー!!」
シンパシィリビングメイルの攻め手が一層激しくなり、俺とシンパシィリビングメイルの立ち位置は細かく入れ替わるようになる。
それこそ俺に僅かな余裕も与えてはいけないと言わんばかりに。
「「「サハギャア!」」」
「「コボルト!」」
そんな俺たちのやり取りに合わせるように残るシンパシィサハギンとシンパシィコボルトの動きも活発化する。
「ははっ、ははははは!いいぞ!そうでないとなぁ!!」
「「「!?」」」
だがそれこそが俺にとって最も都合のいい展開だった。
動き回れば回るほどにシンパシィサハギンとシンパシィコボルトにかかる状態異常:ポイズンは途切れなくなり、10%を下回れば虚空から現れたように見えるネクタールの槍でトドメを刺せるのだから。
ナイトビュアラクネたちに追い回された経験がある俺にとっては、シンパシィリビングメイルたちの攻撃では余裕など失われるはずがないのだから。
そうして後衛が壊滅した所で……。
「いい応用が見つかった。貴様等の犠牲に感謝しよう」
「ーーーーー!?」
訳が分からないと言った様子のシンパシィリビングメイルに俺の斧と虚空からのネクタールの槍による同時攻撃を叩き込み、絶命させた。




