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本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 100日目 11:12 (半月・晴れ) RS1・『?凍土の塔』】
「さて、次は私の番ね」
シュヴァリエの勝利から暫く。
広めのホールに足を踏み入れた俺たちの前にモンスターが現れる。
「「……」」
「「フシュルル……」」
「「「ギョッギョ」」」
ただし、少々数が多い。
『?リビングメイル』はLv.27とLv.31の二体。
『?スネーク』もLv.26とLv.29の二体。
二足歩行する魚といった見た目である『?サハギン』に至ってはLv.28、Lv.30、Lv.32の三体。
計七体ものモンスターが俺たちに向かってゆっくりと、臨戦態勢で迫っていた。
「大丈夫か?」
当然ながら特性は分かっていない。
傍目に見ていて特性が未だに分からない辺り、特効系か特殊な条件下で働くタイプか戦闘に大きく影響しない辺りに関係する特性なのだろうが……この数相手に特性が分からないと言うのは少々怖いところではある。
「ええ、この数なら問題はないわ」
だが、グランギニョルは平然とした様子で俺の言葉にそう応えると、俺たちの前に出る。
「来なさい。我が団員たちよ」
グランギニョルがホムンクルスを召喚。
リビングメイル種のホムンクルスであり、重装備でもあるアブサディット。
パペット種のホムンクルスであり、機動力と防御力を併せ持った装備を身に着けたサングラントとブラフ、機動力を重視した装備を身に着けたアクターとアクトゥリース。
小人型としか称しようのない姿で、身の丈ほどの弓、銃、杖などを持ったソテニアが10体。
そして……通常の物に比べれば一回り小さな、だがそれでも俺より頭一つ分は大きいゴーレム型の新たなホムンクルスが5体、金属で補強された手袋と足袋を身に着けた姿でそれぞれ現れる。
「ああ、ゾッタ兄とシア、それからソフィアには初めて見せるわね。これが私の新しいホムンクルス、ポープスよ」
既に自らの中身を身体から抜いて、全体を俯瞰視できる位置に浮かび上がらせたグランギニョルも合せて総計21人。
なるほど、これなら数の上では圧倒的にグランギニョルの方が有利……か。
と言うか、幾らなんでも多すぎるだろ、これ。
「では、開演と行きましょうか」
「「ーーー!?」」
「「フシュラァ!?」」
「「「ギョギョギョッ!?」」」
グランギニョルたちが一糸乱れぬ動きで『?リビングメイル』たちへと向かっていく。
対する『?リビングメイル』たちは微妙に動揺した様子で、それぞれに行動を起こそうとした。
そうして戦いが始まったわけだが……
「グランギニョルも大概だよな……」
「師匠がそれを言うのもどうかと思うよ」
「自分もシュヴァリエに同意です」
「そうか?」
「そうだって」
うん、既に一方的と言っていい展開になりつつある。
『?リビングメイル』たちの攻撃はアブサディットたち前衛役によって止められており、アブサディットたちが受けたダメージは直ぐに杖持ちのソテニアによって治されている。
そして隙が生じれば、グランギニョル自身あるいは弓と銃持ちのソテニアや、身のこなしが軽いアクターとアクトゥリースの攻撃が安定して突き刺さっている。
攻撃、防御、支援、その全ての動きが適切かつ的確に行われており、『?リビングメイル』たちにはまるで打つ手が無いようだった。
「アレを全部ギニョールが操っているんですよね。マスター」
「ああそうだ。まったくどうやっているのやら」
一糸乱れぬ統率のとれた動き、それは全ての個体をグランギニョルが操っているからこそ出来る動きである。
だがそれは例えて言うのであれば、十を超える数の腕をそれぞれ別に動かしてみせるような物であり、おおよそ人にこなせるような処理ではない。
と言うか、俺も錬金時限定で別に視線を浮かべる事は出来るが、複数の身体をあそこまで自在に操るのは、GMとの契約を抜きにしても出来るか怪しいレベルである。
こうなってくると、先ほどシュヴァリエたちに呆れられたばかりだが、グランギニョルもだいぶこちら側な気がしてくるな。
「でもなゾッタ君。本番はこれからなんや……」
「本番?ああなるほど」
と、ここで今まで『?リビングメイル』たちを取り囲み、包囲網から逃げ出すのを阻むような動きしか見せなかったポープスに一つの変化が生じる。
「ポープス!劇場を建てなさい!」
グランギニョルの言葉と共に五体のポープスが地面に両手を着くと、ポープス同士の間に魔力による繋がりが生じ、五芒星と正円を形成。
そこから更に細かい紋様を空間に描き出していく。
そうして紋様が描き上がり、青い光を放ちながら輝き始めた瞬間。
「「「!?」」」
「さあ、クライマックスよ」
『?リビングメイル』たちの動きが明らかに鈍くなり、反対にグランギニョルたちの動きが目に見えて良くなる。
「結界、という所か。相手の動きを遅くして、自分たちの動きを加速する。シンプルに強いな」
「流石はゾッタ様。普通に見切ったのじゃ」
「本当、流石は師匠だね」
「結界ですか……興味深いですわ」
それにしても結界とはな……ウハイまでの道中、どうやってPK連中をグランギニョルが退けたのか気になっていたが、恐らくはこれも退ける際に利用した技術の一つだな。
ポープスたちの動きの遅さは気になるが、完成してしまえばグランギニョルの独壇場だ。
で、結界……結界かぁ……ふうむ。
「終わり!」
「ーーー……」
と、俺が少し考え事をしている間にグランギニョルの攻撃によって戦闘は終了。
グランギニョルの側はソテニアの一体すらも失っていないどころか、マトモな手傷すらも負う事なく、剥ぎ取りを終えると共にこちらに帰ってくる。
「ふぅ、やっぱり時々でいいから全力戦闘はするべきね。鈍りが解れるわ」
「そうか、それは良かったな」
正に完勝と言って戦い方だった。
何と言うか、もはや他のプレイヤーの協力など要るのかと言うレベルである。
が、内容が内容なので流石に口には出さず、俺たちは探索を再開した。
 




