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【AIOライト 100日目 10:45 (半月・晴れ) RS1・『?凍土の塔』】
「さて、次は僕の番だね」
ロラ助の戦闘が終わってしばらく。
探索を続ける俺たちの前に再びモンスター……空っぽの全身鎧である『?リビングメイル』Lv.31と水色と白で彩られた鱗を持つ蛇の『?スネーク』Lv.28と31が現れる。
対するこちらからはシュヴァリエとシュヴァリエのホムンクルスであるヴィオレエクレールとバルテンペッタが前に出る。
ただまあ、現れたと言ってもまだ彼我の距離は30メートル近くあり、『?リビングメイル』たちもまだ距離に余裕があるからか、こちらの様子を窺いつつも武器に手を付けてはいない。
見逃す気はないだろうが、事前の準備はお互いに出来ると思える距離があった。
だが、シュヴァリエ相手にその認識は間違っていた。
「じゃ、行くよっ!」
「キュイ!」
「カァ!」
俺たちの前に居たはずのシュヴァリエの姿が消える。
「せいやっ!」
「ーーー!?」
「「シャガ!?」」
そして次の瞬間にはレイピアによって二体の『?スネーク』に一撃ずつ与えて怯ませつつ、『?リビングメイル』の首、鎧と兜の僅かな隙間にレイピアを刺し込んでいた。
勿論、『?スネーク』も『?リビングメイル』も受けたダメージは致命傷には程遠い。
『?リビングメイル』に至っては鎧の方が本体なので、受けたダメージはレイピアに込められた魔力によって鎧内部に貯め込まれている身体を動かす力が削がれた分だけだ。
だが、自分たちの想像外の素早さに『?スネーク』も『?リビングメイル』も初動が遅れた。
その初動の遅れをシュヴァリエは見逃さない。
「とうっ!」
「ー……!?」
「「ジャガアァッ!?」」
距離があるのもあってシュヴァリエが何をしているのか、詳しい事は分からない。
だが、少なく見積もっても三体のモンスターに対して十回以上は攻撃を行っている。
「ーーー!」
「「シャアアァァァ!!」」
と、此処で遂に『?リビングメイル』たちが反撃に出ようとする。
どうやら『?リビングメイル』は背中の大剣を振り下ろそうとし、『?スネーク』は片方が噛み付きを、もう片方が巻き付きをしようとしているようだった。
「キュイッ!」
「ーーー!?」
「カアッ!」
「「ジャガッ!?」」
「ナイスだよ。ヴィオ、バル」
だが、攻撃が行われるよりも一瞬早くヴィオの電撃によって『?リビングメイル』は一瞬の硬直を与えられ、バルの放った螺旋状の風によって『?スネーク』たちも攻撃が少しだけ遅れた。
そして、その僅かな隙の間にシュヴァリエは彼らの攻撃範囲外に離脱。
攻撃したくても出来ない位置に移動して見せた。
「なんつー速さや……」
「シュヴァリエは瞬発力特化と言っていいビルドだもの。自分の速さに思考が追いつけるなら、あれくらいは出来て当然よ」
「装備品も自分が使っているのより一段はいい感じですしねぇ」
そうして無事に攻撃を避けて見せたシュヴァリエは再び『?リビングメイル』に接近。
目にもとまらぬ速さでレイピアによるラッシュ攻撃を行い、『?リビングメイル』と『?スネーク』が攻撃の体勢に移るのと同時に離脱。
時折ヴィオとバルの援護を受けつつ、その流れを何度も繰り返していく。
「むう、妾の眼では追い切れないのじゃ」
「心配するなリュドミラ。俺も殆ど分からない」
「あの速さでも多少は分かる辺り、流石は師父とも言えますけどね」
「ですよね。たぶん、この中だと少しだけでも見えているのはマスターとギニョールの二人だけだと思います」
仮に先刻のロラ助の戦い方を水や風、空気と評すのであれば、シュヴァリエの戦いは台風や稲妻、嵐に炎といったところだろうか。
両者とも刃物を武器とすると言う点では同じであるのに不思議な物である。
それとシア。
俺とグランギニョルは確かにシュヴァリエの動きが見えているが、ロラ助も見えていないだけで対処は出来ると思うぞ。
「うんうん!いい感じだね!この感じは確かに久しぶりだし忘れてた!」
そうしている間にシュヴァリエのスピードは更に上がっていき、『?リビングメイル』と『?スネーク』をその圧倒的なスピードで翻弄しつつ確実に手傷を加えていく。
と言うか、俺の目が確かなら、今のシュヴァリエはもはや壁も床の延長線として使っているように見えるのだが……いや、うん、流石にそれは目の錯覚と言うか勘違いだよな、たぶん。
「それじゃ……断ち切れ紫電一閃」
「!?」
と、何時の間に握っていたのか、栗鼠に似た姿から刀の姿に変形したヴィオを手にしたシュヴァリエは、両手で握ったヴィオを『?リビングメイル』に向けて振るい、兜の頭頂部から鎧の股間までを一直線に切り裂き、『?リビングメイル』のHPバーをゼロにする。
「シャシャアアァァァ!」
「ジャガ!?」
「毒霧、範囲攻撃だね」
対する『?スネーク』ももはや破れかぶれなのだろうか、味方を巻き込むことを厭わずに紫色の煙を口から吐き出して、シュヴァリエに攻撃しようとする。
「軽き災いなど返してしまえ。弾丸の嵐」
「「!?」」
だが、『?スネーク』が毒霧を吐き出し切った時には既にシュヴァリエは毒霧の範囲外に逃れており、その左手にはバルが変形したライフル銃が握られていた。
そして、バルから放たれた黄色い風の弾丸は宙でその進路を変え、二体の『?スネーク』を取り囲むように地面に着弾、毒霧と二体の『?スネーク』を閉じ込めるように風の結界のような物を生成。
バルの攻撃の影響を受けた時点で、『?スネーク』は放った自身も含めて毒霧でダメージを受けるようになっており、これまでの戦闘で負った傷も浅くはなかった。
結果。
「「ジャ、ジャガ……」」
「よし、これで終わりだね」
『?スネーク』のHPバーは底を突き、この戦闘はシュヴァリエたちの勝利に終わるのだった。




