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本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 99日目 10:27 (4/6・晴れ) 同盟街・ウハイ-ヘスペリデス】
「さて次は……」
テキオンを育てているサイロを後にした俺は、最近の掲示板では世界樹とも呼ばれているらしいヘスペリデスの大樹へと向かう。
「森の中は……目立った変化は見られないか」
当然、その道中では森の中を通る事になるので、森に変化が起きていないか確かめつつ移動する。
で、森の変化だが……。
「ご主人様にとってはー目立ってないんですかー?」
「これぐらいなら別に目立っているとは感じないな。正常な変化だろう」
全体的に森の木々が成長し、地面から梢までの距離が伸びている。
また、採取ポイントの数もだいぶ増えている。
それからこれはラードーンが用意してくれた採取アイテムの一覧からだが、取れる果物や木の実の種類もだいぶ増えているようだった。
で、これらの情報を元に思い返してみれば……うん、ヘスペリデスでの食生活はかなり改善されていると言うか、進化していたな。
それこそ普通にフレッシュジュースやデザートの類が朝食に出てくる程度には。
変化がシームレスだった上に、今となっては当たり前すぎて認識できていなかったが。
まあ、真っ当な変化なので問題はない。
「池は……変化なしだな」
「どうせならー、フィッシュ種でも飼ってみますかー?」
「モンスターを飼うのは無理があるから無しだ」
「そーですかー」
溜め池は変化なし。
綺麗な水のままである。
植物と違って動物が自然発生するのは色々と問題があるし、それを考えたら当然の話ではあるが。
「さて、ヘスペリデスの大樹だが……」
そうこうしている間に俺はヘスペリデスの大樹に着く。
実のところ、毎晩カプノスを使った後にヘスペリデスの黒葉を回収しに来ているので、今日の分のヘスペリデスの黒葉が落ちている以外の変化が無いと着くまでの俺は思っていた。
が、どうやら今日採取できるのはヘスペリデスの黒葉だけでは無いようだった。
「とりあえずカプノスで今日の分は使っておいて……だ」
俺はカプノスで一服して、戦闘能力が大して上がらない代わりに解除後に負担がかからないような変身をしつつ、ヘスペリデスの大樹の根元にある二つの採取ポイントからアイテムを採取する。
採取できたアイテムの片方は予想通りヘスペリデスの黒葉。
そしてもう一つはヘスペリデスの白果と言う見知らぬアイテムだった。
「あ、今日は取れたんですねー」
「今日は?どういう事だ?」
俺はヘスペリデスの白果をインベントリから取り出して左手に持ちつつ、白いリンゴと評すべき外見をしているそのアイテムの詳細を見てみる。
△△△△△
ヘスペリデスの白果
レア度:PM
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
『ヌル(存在しないはずの物質)』
携帯工房・ヘスペリデスに生える巨木から数日に一度採取出来る白色の果実。
純粋な魔力が果実と言う形で結晶化したものであり、純粋であるが故に他の魔力からの影響を受けやすい。
『ゲーム上の効果は満腹度を回復するのみである』
※倉庫ボックスへの移動不可能
▽▽▽▽▽
「でもマスター、そのアイテムは……遅かったですねー」
「ん?うおっ!?」
そうして、詳細を見ている時だった。
俺の左手の中でヘスペリデスの白果の形が捻じ曲がっていくと同時に、血のような赤色に染まっていく。
もしかしなくてもヘスペリデスの白果が俺の魔力の影響を受けた結果なのだろうが、俺がその事実に気づく頃にはヘスペリデスの白果の姿は大きく変わり、名称もまた変わっていた。
△△△△△
ヘスペリデスの捻血果
レア度:PM
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
『ヌル(存在しないはずの物質)』
ヘスペリデスの白果がプレイヤー名:ゾッタの魔力の影響を受けて変質した姿。
血のように紅く、捻じ曲がったその実の内には、変質させたものの魔力に類似した膨大な量のエネルギーが秘められている。
『ゲーム上の効果は満腹度を回復するのみである』
※プレイヤー名:ゾッタ以外の所持不可能
▽▽▽▽▽
「なんか一気に変わったな……」
「そうみたいですー?」
ヘスペリデスの捻血果は詳細に記されている通り、林檎を捩じったような姿をしており、その内部には俺のものによく似た魔力が大量に秘められているようだった。
使い道は……それこそ幾らでもあるだろう。
俺の魔力によく似たエネルギーになっただけで、量自体は変わらないのだから。
素材としても、魔力の補給手段としても有用だ。
注釈が変わったおかげで倉庫ボックスにストックすることも可能になっている。
「まあ、とりあえず回収だな」
「そーですかー」
そして、今回回収したヘスペリデスの捻血果に限って言えば、繋がりが見えている。
つまり、その使い道は既に決定されていると言っても過言ではないだろう。
と言うわけで、ヘスペリデス内の適当な場所で保存しておくことにする。
「ところでラードーン?」
「はいー?」
で、俺は一つ気になった事があるので、ラードーンに質問することにする。
「さっき、今日はと言ったな」
「……」
「これまでに手に入れたヘスペリデスの白果はどうした?」
「……」
俺の質問にラードーンは全力で視線を逸らしている。
なお、カプノスによる変身は敢えて維持したままである。
「命令だ。質問に答えろ」
「ゲ、GMがサンプル用にと持っていったのが一つあるだけで、後は全てアンブロシア様がパイのフィリングにしています。今も一つか二つぐらいは蜜漬けの状態で厨房に置いてあるかと」
「俺に報告が無かったのは何故だ?シアもこれについて話した事はないぞ」
「こ、こちらもGMから言われまして、ご主人様が気づくまでは話さないようにと言われてしまいましてー……」
「ほほーう……」
「お、お許しを……」
ラードーンは酷く怯えている。
まあ、俺を裏切ると言う行為に対して恐れが無いはずがない。
ラードーンにとって俺はご主人であり、リアフ・ラードーンとして見てもこちらの方が圧倒的に上位の存在なのだから。
「まあいい、今回は許す。今後もシアが加工する分には咎めない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ」
が、ラードーンは『AIOライト』の仕様に沿った存在でもあり、GMに逆らえる立場にない。
そして今まで気づかなかったのはヘスペリデスの管理をおざなりにしていた俺にも原因がある。
そう考えたら……まあ、怒るわけにはいかないだろう。
「ただし、つまみ食いの類をしたら分かっているな?」
「は、はいっ!それは勿論でございます!」
勿論、釘は刺しておくが。
「さて、次に行くか」
「わ、分かりましたー……」
俺はカプノスによる変身を解除すると、まずはヘスペリデスの捻血果を倉庫ボックスに置くべく、ミデンのある神殿へと向かった。




