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AIOライト  作者: 栗木下
9章:双肺都市-後編

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512:99-1

【AIOライト 99日目 07:32 (4/6・晴れ) 同盟街・ウハイ-ヘスペリデス】


「さてマスター、今日はどうしましょうか?」

「そうだなぁ……グランギニョルのメッセージに依れば、今日の午後、遅くても日暮れから一時間以内にはウハイに着くって話なんだよな」

 翌日。

 俺たちはいつも通りにヘスペリデスの中で朝食を摂る。

 そして、いつものように今日の予定について話し合うわけだが……


「とりあえず自動生成ダンジョンや囲いの山脈の探索は無しとしてだ」

「当然ですね」

 今日についてはグランギニョルたちが錬金術師(アルケミスト)ギルド・ウハイ支部に着くそうなので、時間のかかる行動は無しである。


「そうだな。錬金術師ギルド周辺の雑魚狩りとヘスペリデス内の調査なら、ヘスペリデスの調査の方が重要で有用か」

「ヘスペリデスの中の調査……ですか?」

「ああ、ここしばらく外に出てばっかりで、ゆっくりとヘスペリデスの中を調べる機会が無かったからな。丁度いいし、今日一日使って調べてみてもいいだろう」

「なるほど」

 そんなわけで、今日の行動はヘスペリデスの中の探索に決まった。

 自分の携帯工房なのに探索と言うのも少々おかしい感じはあるが……まあ、ヘスペリデスの広さとラードーンたちの活動、外部からのエネルギー吸収にヘスペリデス自身の拡張性等々を考えると、探索と言う表現にならざるを得ないのだ。


「さて、そんなわけだからネクタール」

「ーーー」

 さて、活動方針も決まったところで、グランギニョルたちが来るのに備えて一つ手を打っておく。


「マスター、何をしたんですか?」

「ネクタールの一部を錬金術師ギルドの方に出現させて、グランギニョルたちが入って来れるようにした。これで何時グランギニョルたちが着いても、問題はない」

「なるほど」

 今、『AIOライト』の錬金術師ギルド・ウハイ支部には、何処からともなくテントのような物が出現したのが見えているだろう。

 勿論、それはテントの形になったネクタールであり、中に入った時点で俺の知覚領域に入る事になる。

 そして、テントが閉じられた状態で俺が許可を出せば、ヘスペリデスに転移できると言う仕組みである。

 なお、外が安全圏である錬金術師ギルドだからこそ出来る技なので、外では間違ってもやってはいけない。

 ネクタールがモンスターに襲われるだけである。


「じゃ、今日はヘスペリデス内で自由行動と行こうか」

「はい、マスター」

「ーーーーー!」

「かしこまりましたー」

 そうして、実質的には休息日と言っても過言ではない一日が始まるのだった。



----------



【AIOライト 99日目 08:15 (4/6・晴れ) 同盟街・ウハイ-ヘスペリデス】


「さて、何処から見るか……」

 朝食後、俺はヘスペリデスの本館をまずは適当にうろつく。

 が、正直に言うとヘスペリデスの本館には特に見るべき場所はない。

 シアやグランギニョルの私室は見てはいけない場所であるし、倉庫になっている部屋も特に変化の類は見られないからだ。

 食堂や浴場、中庭にミデンがある神殿についてもそうで、今更見てもと言う奴である。


「んー、テキオンの方を見に行ってみるか」

 なので俺はラードーンに育成を任せたテキオンの樹があるサイロの方を見に行くことにした。


「……」

「こちらが今のテキオンですねー」

 で、きちんと手順を守ってサイロの中に入り、テキオンの生育状況を見た俺は思わず大きく口を開いてしまっていた。


「……。ラードーン、何でもう膝くらいまでテキオンが伸びているんだ?」

「さあー?昨日には芽が出て、今朝にはもうこうなってましたよー」

「竹……程ではないにしてもとんでもない早さだな……」

 松明の灯りに照らし出されたテキオンの樹は、三日前に種が蒔かれたとは思えない速度で成長し、既に俺の膝ぐらいの高さにまで丈を伸ばしていた。

 『AIOライト』の仕様とヘスペリデスの力が組み合わさった結果なのだろうが、それでも俄かには信じがたい成長速度である。


「しかし、このスピードで成長するとなると……囲いの山脈で目にしたテキオンの樹ぐらいになるまでに1週間から2週間と言う所か?」

「楽しみですねー」

 まあ、ゲームの中でそんな何年も成長に時間を割く事は出来ないからな。

 質に影響しないのであれば、早く成長するのに越したことはないだろう。


「ちなみにご主人様ー?」

「なんだ?」

 と、ラードーンから何か報告があるらしく、俺はラードーンに連れられて他二つのサイロも見ることになる。

 そこで俺は……


「どうにも使う水の温度で成長のスピードがかなり変わるみたいですよー」

「……」

 お湯ぐらいの温度の水を注がれ続ける事で既に俺の胸の高さくらいにまで成長しているテキオンの樹と、氷水並の温度の水を注がれ続けたためにまだ俺の膝下に届くかどうかぐらいまでにしか成長していないテキオンの樹を見ることになった。

 そして不思議な事に……どちらのサイロの気温も扱っている水の温度の影響をまるで受けていないと言う事だった。


「ああなるほど。囲いの山脈でもそうだったが、テキオンの樹があるとそこは適温に保たれる。そしてその際の反応は余分な熱を吸収するか、生成した熱を放出するかって事なのな」

「つまりー?」

 一瞬困惑したが、まあ、理由については少し考えれば何となく分かる。

 テキオンの樹が周囲の気温を適温に保っていると言う事だろう。

 自分を成長させるエネルギーとして利用しつつだ。


「とりあえずこのまま育ててくれ。この分だと他にも変化があるかもしれない」

「受け賜りましたー」

 しかし、こうなってくると違う温度の水を利用する事による変化が他にも生じるかもしれない。

 そう判断した俺は、このままテキオンの樹を育てるようにラードーンに指示を出すと、サイロを後にしたのだった。

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