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AIOライト  作者: 栗木下
9章:双肺都市-後編

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511/621

511:98-6

【AIOライト 98日目 15:32 (5/6・雨) 同盟街・ウハイ】


「それにしても見事にやられたものだな」

「本当ですね」

 『暗闇見る森の庭園』でナイトビュアラクネたちによって死に戻りさせられた後、俺たちは失ったアイテムの幾らかを購入で補給すると、ウハイに戻ってきた。

 そして、ウハイの錬金術師(アルケミスト)ギルド・ウハイ支部の片隅に置かれている椅子に腰かけると、息を大きく吐き出す。

 なお、死に戻りによって失われたアイテムの内容については既に確認済みであり、『暗闇見る森の庭園』で手に入れたアイテムで残っているのはナイトビュスコーピオンの眼だけだった。


「あの、マスター。どうしてあの時ナイトビュアラクネの仕掛けた罠にかかったんですか?普段のマスターならあっさりと避けていた気がするんですけど」

「あー、それな……」

 さて、一息吐いたところで反省会である。


「簡単に言えば俺の処理能力の限界だな」

「処理能力の限界、ですか」

「ああ、事前に特性:ワクチンの防御は剥されていただろうし、ネクタールの装備しているワクチンハルキゲニアクローピアスにも状態異常:バインドの耐性はあるが、一番の原因は俺の処理能力の問題だな」

 何がいけなかったのか、どうしてやられたのか、それは次に同じ事態に遭遇した時に、あるいは同じ事態に遭遇しない為にも反省会はしなければいけない。

 が、今回の反省は……前回の『秘匿する竜の王』のブレスと違って少々難しい。


「勿論、レベルに見合わないレア度の自動生成ダンジョンに挑んだとか、敵の組み合わせが凶悪だったというのもある。PTを組まなかった事もそうだな」

「でも、それ以上にマスターの処理能力に問題があった……と」

「ああそうだ。ちゃんと情報の処理が出来ていれば、少なくともあそこでナイトビュアラクネの罠にかかる事は無かった。ナイトビュアラクネと罠の間には、罠を仕掛けたと言う繋がりが確実に有ったはずなんだからな」

 なにせ最大の原因がGMの敷いたシステムの管理外にある特殊知覚部分にあるのだから。


「さて、そうだな。いい機会だし、一度しっかりと確認をしておくか」

「確認……ですか?」

「ああ、確認だ」

 俺は錬金術師ギルド・ウハイ支部の中を見る。

 プレイヤーとホムンクルスの数はウハイ支部所属のNPCを含めても10人ほどで、俺に対して特に注意を払っている様子はない。

 そんな中、俺は左手の指を鳴らす態勢を取りつつ、意識を切り替えるスイッチとして右手で自分のこめかみを軽く叩く。

 普段は見ないようにしているものまで、限界ギリギリまで見れるようにと。


「さて……」

 その瞬間、俺の目に映る世界が大きく変わる。

 壊れかけで人影も疎らな錬金術師ギルドの中であるにも関わらず、ありとあらゆる色彩の光が夥しいと言う表現でも足らないような数で輝き始める。


「これが全て……いや、今の俺が認識可能な繋がりの全てか」

 単純な空間の繋がり。

 過去と未来と言う時間の繋がり。

 平行世界と言う次元の繋がり。

 大きな領域での繋がり。

 小さな領域での繋がり。

 精神と魂魄の領域での繋がり。

 思想、感情、悪意、善意、策謀、関心、無関心……いやはやとんでもない量の繋がりだな。

 そして、この繋がりを正しく解釈する事が出来れば、それこそ、この世の全てを知覚出来るだろう。

 それだけの情報でもあるから、普段は無意識にフィルターをかけて見ないようにしている物だが、もしもこれを人の頃に……いや、零の真理を見出さずに見てしまったら、人であるか否かなど関係なく、膨大な量の情報に押し流され、今頃俺の精神は焼き尽くされているだろうな。


「そして、この量の情報の処理となると……遅々として進まないな。まだ左手の音が鳴らない。いや、下手をすると視覚以外の感覚が遮断されているかもな」

 俺は光の洪水の中でゆったりと佇みながら、この状態を終わらせる条件として規定し、この状態に入る直前にやり始めた左手の指を鳴らす動作を待つ。

 そして待ちながら見る。

 今ここに居るプレイヤーがどうして此処に居るのか、これからどうなるのか、ホムンクルスとの関係性はどうなのか、他のプレイヤーとはどうなのか、装備は誰が作ったものなのか、アイテムは、レア度:PMは、イベントの進行具合は、宿命は、因果は、幾重にも分岐し、絡み合い、重なり合った未来と過去と現在はどうなのかと。


「いだっ!?」

「マスター!?」

 と、ここで左手の指で音を鳴らした感覚が来ると共に、GMによる俺の精神に対する直接攻撃……後頭部を鈍器で殴られたようなダメージを与えてくる。


「マ、マスター……何が……」

「あー、大丈夫だ。問題ない。ちょっと特殊知覚を使い過ぎただけだ。もう問題ない」

「そ、それならいいんですけど……」

 直後、俺にだけ見える形でGMからのメッセージが届く。

 そこには『特殊知覚は私の管轄外ですが、人間が見ていいレベルを超えた範囲まで見ないでください。契約での規制対象です』と書かれていた。


「まあ、そうだな。このレベルで見る意味はないか」

「は、はぁ……よく分かりませんけど。マスターが納得されたなら私は問題ないです」

 どうやら俺がGMと交わした契約による規制の対象にまで踏み込んでしまったらしい。

 次にもう一度踏み込んだら……まあ、警告では済まないだろうな。

 そして、俺の処理能力と見た物が戦況に及ぼす影響を考えたら、そこまで見る意味もない。


「まあ、俺の特殊知覚にも抜け穴はあるって事だな。繋がりと言う形で見るのはともかく、俺の処理能力だとこの世のすべてを見る事は出来ないし、悪意や害意に限って見るにしても限界がある」

「なるほど……」

 いずれにしても調整と言うかチューニングが必要だな。

 それも状況に応じて見るべき物を見れるように。

 問題はどうやってチューニングをするかだが……これは慣れるしかないな。

 レア度:PMでもどうにか出来るかも怪しい範囲だしな。


「さて、後は特殊知覚以外の反省点についてか……」

「そうですね。そうしましょうか」

 その後、俺たちは日が暮れるまで、錬金術師ギルド・ウハイ支部で反省会を続けたのだった。

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