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本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
【AIOライト 97日目 08:15 (満月・雨) 囲いの山脈】
「さて、そろそろ出発するか」
「はい、マスター」
翌日。
テキオンの果樹園で回収出来るだけのアイテムを回収し、ヘスペリデスのサイロに収納した俺たちは、昨日と変わらない輝きを保っているテキオンの果樹園を後にした。
「それにしても思いもよらない収穫がありましたね」
「そうだな。まさかこんなところで気温対策のお助けアイテムが手に入るとは思ってなかった」
さて、帰路であるが……まあ、特に行きとの違いは見られない。
満月なので全てのモンスターがアクティブになっていて、洞窟の狭さもあって容易には逃げる事が出来ないくらいであるが、それならばただ倒せばいいだけの話である。
「ところでマスター?どうしてテキオンがあんな場所で栽培されていたのかは分かりますけど、プレイヤーの方はどうしてテキオンの存在に気づいていないんでしょうか?」
「んー、そうだなぁ……」
と言うわけで、プレンスコーピオンLv.27一体ぐらいが相手ならば余裕があるので、俺はシアとの雑談に興じつつ戦う事にする。
「考えられるパターンとしては二つかな」
「二つですか?」
「スコピオオオォォ!!」
「一つは単純な探索不足。なんだかんだで移動だけで丸一日かかる場所に植わっているからな。途中の洞窟含めて、発見する難易度はそれなり以上に高いと思う」
「なるほど。あ、『癒しをもたらせ』です」
「ありがとうな。もう一つは……見つけていたのに秘匿した。あるいはその有用性に気づかなかった。と言う所だな」
「んー、そっちだとちょっと嫌ですね」
「だな」
なお、テキオンの実について掲示板に上がっていないのは、まず間違いない。
と言うのも、当初俺はサハイで採れる雪などのアイテムを利用して暑さ対策のアイテムを作ろうとしていた。
だが、テキオンの青実があれば、その効果時間と効果の大きさ次第では新しいアイテムを作る必要など無くなってしまうし、そうでなくともテキオンの青実から暑さ対策のアイテムを作った方が、より有用なアイテムを作れる可能性が高いのだ。
つまり、掲示板に上がっていれば、それなりの騒ぎにはなっているはずなのである。
「有用性に気づかなかった可能性はかなり低いし、基本的には秘匿していた事になる。気持ちは分からなくはないが……『AIOライト』の状況を考えると悪手以外の何ものでもない」
しかし、一昨日の時点でそんな騒ぎがあった覚えはない。
『菫青石の踏破者』のギルド掲示板のように俺が覗けない場所で騒ぎになっていた可能性はあるが、それならば俺たち以外にもテキオンを回収しにくるプレイヤーが居る方が自然だろう。
よって結論としては秘匿か未発見になってしまうわけだな。
「スコピオ……」
「と、倒れたか」
と、ここでプレンスコーピオンのHPバーが尽きて倒れる。
うん、あっさりだったな。
なお、剥ぎ取りはプレンスコーピオンの甲殻、今となっては還元炉に入れるぐらいしか用途が無いアイテムである。
「気持ちは分からなくもない。ですか?」
「有用なアイテムなのは間違いないからな。金を稼ぐにしろ、ゲームの進行かギルドの立場で優位を得るにしろ、使い道は色々とあるはずだ」
「なんか嫌な話ですね」
「まあ、人の我欲を前面に押し出している話だからな。俺としては秘匿してバレた後のデメリットまで考えたら、絶対に採らない選択肢だ」
「なるほど」
HPバーには何の問題も無いので、俺たちは移動を再開する。
「ま、ここは素直に未発見で見ておいていいと思うぞ。ウハイから一日の距離ってのはやはり大きい」
「そうですね。そうかもしれません」
「それにテキオンの実自体が有用でも、早々量産が出来る代物じゃないからな。秘匿していても、たぶんそんなに上手くはいかない」
「でしたね」
実際のところ、テキオンの量産はそれ専用の携帯工房か、ヘスペリデスのような特別な携帯工房のいずれかが必要になる。
種を見つけて喜び勇んで持ち帰ったら、日光を浴びせてしまって愕然とするところまでは割とGMの想定している流れだろう。
と言うか、俺たちもヘスペリデスが無ければたぶんそうなってた。
「そう言えばマスター?ふと思ったんですけど普通のテキオンの種に日光に弱いとかって記載は……」
「最初は無かった」
俺は後で説明をする為にインベントリに入れておいた普通のテキオンの枝の詳細をシアに見せる。
△△△△△
普通のテキオンの枝
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
テキオンと呼ばれる特殊な樹の枝。
周囲の気温と湿度を適切な値に調整する力があるとされている。
注意:一部の光が当たると耐久度が0になります。
▽▽▽▽▽
「最後に書かれている注意の部分が出たのは、一通りの検査が終わったタイミングだった。たぶん、自分で調べるか、何処かで情報を得ないと表示されない項目なんだと思う」
「え、エゲツないですね……」
「ま、あのGMだしな」
と言うわけで……見事という他ない罠が仕掛けられていたわけである。
まあ、あのGMの意地悪さは最近隠れていた気がするからな。
そう考えたら、時々来る不意討ちとして妥当な罠だろう。
「さ、早いところウハイ支部まで帰って、入手を確定させてしまおう」
「分かりました。マスター」
そうして特に何事もなく俺たちは移動を続け、夕方ごろになってようやく錬金術師ギルド・ウハイ支部に辿り着いたのだった。
 




