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AIOライト  作者: 栗木下
9章:双肺都市-後編

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504/621

504:96-2

本日は二話更新です。

こちらは一話目です。

【AIOライト 96日目 17:21 (5/6・晴れ) 囲いの山脈-ヘスペリデス】


「お帰りなさいませー、ご主人様ー」

「おう、ただいま」

 ヘスペリデスに移動した俺たちをいつものようにラードーンとミニラドンたちが出迎えてくれる。

 さて、普段ならばここからシアは夕食の準備に、俺はアイテムの整理に、ネクタールは休憩、ラードーンは女中の仕事に戻ると言う風に別れて行動するのだが、今日はまずラードーンに渡す物がある。


「ラードーン、ちょっと育ててみて欲しい種が有るんだがいいか?」

「いいですよー」

 と言うわけで俺はインベントリからテキオンの種を取り出してラードーンに渡そうとした。

 だがしかし。


「は?」

「へ?」

「ーーー!?」

「ご主人様ー?育てろと言われても腐った種を育てるのは無理ですよー?」

 掌を開いて普通のテキオンの種をラードーンに見せようとした瞬間。

 テキオンの種は俺の掌の上であっという間に腐り、そのまま耐久度が0になったアイテムとして消滅してしまった。


「シア、ちょっと悪い。夕食前に少し確かめないといけない事が出来た。行くぞネクタール、ラードーン」

「はい、分かってます。美味しい食事を作って待っていますね」

「ーーー!」

「承知しましたー?」

 俺は即座にインベントリの中のテキオン関係のアイテムの状態を確かめる。

 だが、どれも耐久度は減っていなかった。

 つまり、インベントリから取り出した瞬間に普通のテキオンの種の耐久度は0になった事になる。

 そして、この情報は何故テキオンが特殊な樹とされているのか、何故あんな場所で育てられているのか、それらの特殊性を俺に理解させるのに十分すぎる情報だった。



----------



【AIOライト 96日目 18:56 (5/6・晴れ) 囲いの山脈-ヘスペリデス】


「それで調査の方はどうでしたか?」

「まあ、色々と厄介な性質は分かったな」

 夕食。

 俺は食事を摂りながら、簡単な実験で得られたテキオンの情報をシアに説明していく。


「まずテキオンの果実以外の部分への日光、月光は厳禁だ」

 まず俺が調べたのは、どの部位がインベントリから取り出すと駄目になるのかだった。

 結果は明白で、橙実と青実以外の全てがインベントリから取り出すと即座に腐り落ちて駄目になってしまった。


「日光と月光……ですか?」

「ああ、どういう理屈かまでは分からないが、果実以外の部分がそれらに触れると、それだけで腐って駄目になる」

 ではなぜ腐るのか。

 俺はテキオンの樹がわざわざ洞窟で育てられている点から、原因の第一候補に光を考え、それは正解だった。

 具体的に言えば、テキオンの樹は日光と月光に僅かでも触れると腐る。

 だが松明の火やニフテリザの照明ならば問題はない。


「そうなると運搬もかなり難しそうですね」

「ああ、完全密封に近い状況にしないと駄目みたいだ」

 インベントリや完全に密封したボックス、ネクタールの身体で全方位を完全に包み込むなどすれば、運搬は出来る。

 しかし、先にも言ったように僅かな光で腐るため、運搬先で取り出すにあたっても外部からの光が一切入り込まない部屋で取り出す必要がある。


「そうなるとヘスペリデスの中で育てるならば……」

「専用の設備が必要になりますねー」

「まあ、そう言う事になるな」

「厄介ですね」

 つまり、普通の環境ではどうやっても量産が出来ない植物、という事になる。


「ま、夕食の後にでも専用の設備と道具を作っておくから、量産できないか試してみてくれ」

「分かりましたー」

 ただ、幸いにして俺たちにはヘスペリデスがある。

 そしてヘスペリデスには専用の設備を建てるだけの土地もエネルギーも存在している。

 最初からうまくいくとは限らないが……それでもテキオン素材の量産に成功した時の美味しさを考えれば、色々と試す価値はあるだろう。


「料理には使えませんけど、ちょっと期待ですね」

「だな」

 そうして俺はシアの料理に舌鼓を打つ事に専念し始めた。



----------



【AIOライト 96日目 20:32 (5/6・晴れ) 囲いの山脈-ヘスペリデス】


「んー、だいたいこんなものか?」

 夕食後。

 俺はヘスペリデスの北西部、林になっている部分に三つの塔……いや、サイロのような物を建てた。

 高さは10メートルほど、直径もだいたい同じようなもの。

 屋根は普通の円錐で、外観は一応本館部分との調和がとれるようになっている。

 尤も、窓のない三つのサイロと言うだけで、多少の目は惹くし、違和感も生じてしまうのだが……まあ、昔の土蔵みたいな外見になっているから、大丈夫か。


「エアロックは……ちゃんと働いているな」

 さて、三つのサイロだが、中心部分に三つのサイロに繋がるエアロックが置かれており、ここはゲームのシステムを利用して、外への扉とサイロへの扉はどちらか片方ずつしか一度に開かないようになっている。


「中も……問題なし、と」

 サイロの中はテキオンを育てるために一切の光が射さないようになっている。

 だがこのままでは内部の気温が高まり過ぎてしまうし、空気も滞ってしまう。

 なので、横倒しにしたS字トラップのような通気口を複数設ける事で、空気が流れるようになっている。


「水も……大丈夫そうだな」

 また、あの果樹園では河から直接水を引き込んでいるようだったので、ヘスペリデスのエネルギーを消費して大量の水を生み出せる設備も用意しておく。

 ちなみに風呂の設備を流用しているので、冷水から熱湯まで出せるようになっている。


「固定のボックスに器具もあるから……後はテキオンの育成に硫黄が必要かどうか、と言うところぐらいか」

 それから、万が一にもサイロの外にテキオンの根が出たりしないように、サイロの壁は地下部分まで伸びていて、サイロ内部の土は外部の土と一切触れないようになっている。

 それと内部には今回の為に余っていた素材類から作った一通りの器具が用意してあるが、これはサイロの外に持ち出すのは禁止である。

 何が影響するか今はまだ予想できないからな。


「ご主人様ーそれではー」

「ああ、後はよろしく頼む。困ったことが有ったら言ってくれ」

「かしこまりましたー」

 こうしてテキオン専用の栽培設備は完成した。

 後は上手くいくことを望むのみである。

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