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【AIOライト 96日目 13:27 (5/6・晴れ) 囲いの山脈】
翌日。
錬金術師ギルド・ウハイ支部に居るプレイヤーから若干訝しげな目を向けられつつも出発した俺たちは囲いの山脈へと真っ直ぐに向かい、最初の分かれ道で西へと向かった。
「何がありますかね?」
「さて、何があるだろうな。進路上には一応ケイカ東の火山があるが、アレの影響がモロに出るようなところまで移動するとなったらそれこそ丸二日くらいはかかるだろうしなぁ……」
出現するモンスターに変化は見られない。
プレンゴーレム、プレンアント、プレンミラー、プレンスコーピオン、プレンバットと言う洞窟を東に向かった時に現れるモンスターと同じだ。
「硫黄……ですよね」
「そうだな。これは……ちょっと還元炉で松明を作ってきた方が良いか」
「ガス対策ですね」
「ああそうだ」
だが変化が無いわけではなかった。
ほんの僅かにだが壁に黄色い結晶が見られるようになると共に、腐った卵の臭いと言われる硫黄独特の臭いを感じるようになる。
ケイカ東の火山の下に着くまではまだまだ距離があるはずなのだが、この時点で硫黄の臭いを感じるとなると、あの火山に属している範囲、あるいは地下にマグマが存在している範囲は想像以上に広いのかもしれない。
いずれにしても何かしらのガス対策はしなければならない。
「これでよし」
「では進みましょうか」
「だな」
と言うわけで俺は一度ヘスペリデスに移動すると、還元炉の機能で松明を作成し、左手に装備。
照明としての役割ではなく、酸素が存在するかどうかを検知する事を目的とするなら、下手な装備よりもよほど優秀だろう。
そうして俺たちは移動を再開した。
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【AIOライト 96日目 16:42 (5/6・晴れ) 囲いの山脈】
「気温がまるで下がりませんね」
「そうだな。東に向かっていたら、今頃は壁に霜の類が付き始めている頃だ」
戦闘を挟みつつ俺たちは探索を続ける。
向かう方向は北西だが、どちらかと言えば北寄りである。
で、東寄りの通路を進んだ一昨日から考えれば、既に気温は氷点下に近くてもいいだけの距離を歩いているが……気温が下がる気配は一向に見られない。
普通に考えれば火山の影響なのだろうが……これほど明確に差が出る物なのだろうか?
「と、外に繋がっている場所が来るみたいだな」
「じゃあ、警戒しないとですね」
「だな」
と、そんな事を考えていると、曲がり角の先の空間から橙色の光が漏れて来ているのが見える。
これで外に繋がっている場所、あるいは外そのものに出るのであれば、シアの言うとおり例のプレンアキアプテラ等に対する警戒をしなければいけない所である。
「コイツは……」
「なんですか?これ?」
だが、曲がり角の先にあったのは、俺たちがまるで予想していなかった空間だった。
「……」
そこは橙色の光を放つ果物を付けた樹が整然と並ぶ開けた空間。
一昨日、俺たちの行く手を阻んだ地下水脈から水を引き、正体不明の果物を自動で育てている無人の果樹園だった。
「えーと、マスター、これって……」
「普通に考えれば、ウハイが生きていた頃から稼働している施設。と言う事なんだろうな」
モンスターの気配はしない。
どうやらこの果樹園の中は錬金術師ギルドのような安全地帯になっているらしい。
そして、安全地帯にするための結界が生きているからこそ、今まで無事だったのだろう。
光源が無いのに植物が生育できる点については……まあ、この植物が普通の植物ではないからなのだろう。
「ふむ……」
と言うわけで、俺は樹の一本に近づいて、少し観察してみる。
まず、一つの樹には二種類の外見が異なる果物が実っている。
一つは橙色の光を放つ丸い果物であり、もう一つは青みがかったナシのような形の果物だ。
前者は樹の表側で葉よりも目立つように実っていて、後者は樹の影に葉で隠れるように実っている。
で、それぞれの果物に重なるように、採取ポイントが存在している。
「とりあえず回収してみるか」
俺は二つの採取ポイントからアイテムを回収。
そして、インベントリに加わった二つのアイテムを確認する。
△△△△△
普通のテキオンの橙実
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
テキオンと呼ばれる特殊な樹に実る橙色の果実。
食べると一時的に寒さに対する耐性を得る事が出来る。
ただし味はよくない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
普通のテキオンの青実
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
テキオンと呼ばれる特殊な樹に実る青色の果実。
食べると一時的に暑さに対する耐性を得る事が出来る。
ただし味はよくない。
▽▽▽▽▽
「えーと、マスター。これってどういうアイテムなんでしょうか??」
「普通に考えれば、砂漠越えの為のお助けアイテムと言う所だろうな」
テキオン……適温だろうな、たぶん。
こんな便利そうなアイテムがこの場にある理由としては、寒さ及び暑さ対策のアイテムを普通の物品から作れないプレイヤーの為に用意した、所謂詰み防止用のお助けアイテムと言う所だろうか。
「味は……」
で、味はよくないとは書かれているが、折角なので俺は橙実と青実の両方をそれぞれ食べてみる。
そうして食べた結果として……
「マスター?」
「なんて言えばいいんだろうな。本当に微妙な味、よくないと言う表現しか浮かんでこない」
「不味いんですか?」
「いや、不味いとも言えない微妙なラインなんだ」
「ええー……」
味はよくない。
そんなアイテムの詳細に書かれている通りの味だった。
「とりあえず色の違いで味に差は出ないようだが……これはやっぱり詰み防止用のアイテムでしかないな……」
と言うか、一体何をどうすれば渋いとか苦いとか甘いとかの主な味覚だけで無く、薄いとか濃いとかと言う表現も出来ないような味になるのだろうか。
此処まで来ると、もはや一種の芸術である。
「とりあえずこの場で回収出来るだけ回収したら、今日はもうヘスペリデスで休もう」
「分かりました。マスター」
まあ、味がよくないだけで、有用なアイテムなのは確定である。
と言うわけで、俺は橙実を10個、青実を10個、その他広場の端に山積みにされ、地下水脈で流されるを待っているだけになっていたテキオンの枝、種、葉などをそれぞれ幾つか回収したのだった。
 




