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本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 94日目 06:00 (半月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「……」
目を覚ますとそこは始まりの街・ヒタイの一角だった。
「周囲の状況は……だいぶ落ち着いているな」
前回と違って今回は新規プレイヤーの参入はあっても、既存プレイヤーの脱出は無かったためだろう。
目を覚ましたプレイヤーたちは周囲の状況を確認し終えると、手近な錬金術師ギルドの支部に向かうか、メニュー画面を開いて連絡なりホムンクルスの召喚なりを始める。
いっそのこと不気味なくらいに静かな立ち上がりである。
『あー、あー、突然の事だが申し訳ない。現在ヒタイに居る全てのプレイヤーに対して一つ話をさせてもらう』
が、それも番茶さんの声がヒタイ中に響くまでだった。
『私の名前は『七茶同盟』のギルドマスター、番茶と言う』
「何だこの声?」
「番茶って確か『巌の開拓者』所属のプレイヤーだよな」
番茶さんの声が聞こえ始めると同時に、周囲のプレイヤーが騒ぎ始める。
が、番茶さんが自身を自作ギルドのギルマスであると紹介した時点で何の話をする気なのかを察した俺は、近くに在った『巌の開拓者』の支部に入ると、シアとネクタールを召喚する。
「おはようございます。マスター」
「ーーーーー!」
「おはよう、シア、ネクタール」
『同盟の彩砂入手によって……』
シアとネクタールの様子に変わりはない。
むしろ昨日一日しっかりと休めて調子が良さそうな感じである。
「マスター、これって番茶さんですよね。一体何の話を?」
「んー、簡単に言ってしまえばギルド加入の誘いだな。加入先は番茶さんの『七茶同盟』ではなく、ローエンの所の『菫青石の踏破者』になりそうだが」
『ギルドに加入するメリットは……』
番茶さんの説明は同盟の彩砂の説明に始まり、ギルド加入のメリットについての話に移っている。
「ローエンさんの『菫青石の踏破者』のギルドボーナスは……特性:ワクチンと特性:ライフの予定でしたっけ」
「ああ、回数制限はあるが状態異常を確実に防げ、僅かではあるが最大HPが上昇する。誰が持っていても損にはならない攻略組らしい組み合わせになってる」
『『菫青石の踏破者』では諸君らの加入を……』
「でも、どうしてこんな放送を使ってまで加入を?」
「そうだなぁ……」
出来る限り多くのプレイヤーを一つのギルドに所属させるメリット。
それは色々とあるが、最も大きなメリットはやはりギルドボーナスによる全体の攻略の加速だろう。
特性:ワクチンと特性:ライフによるギルドボーナスにはそれだけの効果がある。
後は……情報の共有がしやすくなるというのもあるか。
今までトウの地では各ギルドごとの掲示板を使わないといけなかったし、ドウの地とトウの地の間ではレア度:PMのアイテムを利用しなければ連絡が取れなかった。
それが全員が同一のギルドに所属することによって常に連絡を取り合えるようになるのだから、便利でないわけがない。
「後は多くのプレイヤーが所属しているという箔付けとか、現実世界に関係した諸々があるんだろうが……番茶さんはともかくローエンにそう言った方面での考えはないだろうな」
「なるほど」
正直、権力関係のメリットはメリット以上に面倒くささを感じるので、俺としては理解しがたいものである。
『ギルド加入は……』
「マスターはギルドには……」
「特に参加する気は起きないな。プレイヤー作成のギルドには二つまで参加できると言うが、そもそもとして自作のでないと興味がわかない」
「なるほど」
俺はシアを連れてヘスペリデスへと移動する。
『菫青石の踏破者』も含めて、俺には誰かが作ったギルドへ参加する意思はない。
自分のギルドにしてもギルドボーナスなどのメリットがあるから作るのであって、誰かを入れる事はよほど熱心に頼まれたりしない限りはないだろう。
「それでマスター。今日の予定は?」
「『同盟の彩砂』の攻略をしたいというのが本音ではある」
ヘスペリデスに移動した俺はシアが作ってくれた朝食を食べつつ、GMからのメッセージに記載されたアップデートの内容について確認する。
まあ、基本的には事前通知通りで、新ダンジョンに新モンスター、新アイテムの追加だ。
新特性については名前が公開されていて、エレメント、オウマ、エンビストと言うのが追加されているらしい。
特性:エンビストは特性:エンデッドの獣版だろうが……他はどんな効果だろうな?
詳細までは分からない。
「ただまあ、メンテ明け初日で人が各地に分散しやすい上に長距離移動の途中だった面々は最初からやり直しで、ローエンたちはあの様子からして一日動けないだろうからなぁ」
「アライアンスでないと入れない『同盟の彩砂』の攻略は難しい、ですか」
「そう言う事だな」
今日の予定は……一番やりたいのは『同盟の彩砂』攻略である。
が、今シアに対していった理由でもって攻略は難しいだろう。
「ま、それでもウハイに向かうべきではあるか。ウハイの探索は碌にしていないからな」
「分かりました。マスター」
「ーーーーー!」
だがそれでも現地でやること自体はある。
そしてヒタイでやるべき事はない。
俺はそう判断すると、朝食を食べ終え、ヒタイからウハイへと転移した。




