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AIOライト  作者: 栗木下
9章:双肺都市-後編

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492:93-3-R3

【2021年 10月 1日 07:12 (金曜日・晴れ) 日本】


「ふわぁ……よく寝た」

『おはようございます。マスター』

『ーーーーー』

『おはようでーす』

「おはよう。シア、ネクタール、ラードーン」

 午前七時を少し迎えた所で俺は目を覚ます。

 そしてスマホの中から聞こえてきたシアたちの挨拶に返事をする。


「そっちは……」

『見ての通り、普段のヘスペリデスと変わりないです』

 俺は自分のスマホを手に取り、画面を見てみる。

 すると画面にはヘスペリデスの食堂で朝食の準備を整えているシア、ネクタール、ラードーンの姿が普段目にしている通りの姿で映っていた。

 どうやら事前の説明通り、ヘスペリデスはヘスペリデスで『AIOライト』とは別に存在していて、このスマホはただヘスペリデス内に存在しているカメラようなものの映像を映しているだけになっているようだ。

 まあ、このスマホに世界一つを入れる容量など存在するはずがないので、妥当な措置だろう。


『マスターの方はどうですか?』

「んー、こっちも見た感じじゃ、特に変化はないな。直に海月さん辺りが情報含めて色々と持って来てくれるだろうが……それ待ちだな」

 実際には既に色々とあったのだが、シアたちに話す事ではないので黙っておく。

 で、部屋の外では海月さんが朝食を持った状態で待機しているのだが、俺の言葉を受けてか慌てて情報収集用の端末などを用意しているようだ。


「そう言えば、シアの方で情報収集とかは出来るのか?」

『えーと……GMが用意してくれたマスターの姿を映している機械があるんですけど、今日一日限定でこれを使って情報収集をしてもいいみたいです』

「なるほど」

『今後の為にも色々と調べておきますね』

「ああ、よろしく頼む」

 どうやらシアたちの方は俺の想像以上に快適な住環境が整っているらしい。

 これならばシアたちが暇を持て余したり、不便を感じたりすることはないだろう。


「おはよう、藤守君。調子は……良さそうだね」

「ええ、調子はかなり良いですよ」

 ここで海月さんが部屋の中にワゴンを押しながら入ってくる。

 用意されているのはメンテナンス時には毎度おなじみな流動食にノートパソコン。

 他には書類が幾つか、と。


「いただきます」

「じゃ、食事をしながらで構わないから私の話を聞いてくれると助かる」

 俺が朝食を非常に残念な気持ちになりつつ食べている横で、海月さんが今の『AIOライト』プレイヤーを取り巻く環境について話をしてくれる。

 で、その話をまとめるならばだ。


・現在『AIOライト』プレイヤーは全員が何処かしらの国に所属する公務員になっている

・『AIOライト』によってもたらされるであろう各種権益は各国の注目の的であり、水面下での争いはかなり激化している

・元『AIOライト』プレイヤーについてはほぼ全員が監視対象となっており、中には魔力の扱いに目覚めてしまっているプレイヤーも居る

・現実で魔力を扱えるようになったプレイヤーについては『AIOライト症候群』患者として扱われるようになっているが、その対応については中々に悩ましい事になっている

・『AIOライト』が行われているサーバーとGMの居場所は依然として不明


 との事だった。


「面倒な事になっていますね」

「まあ、かなり面倒ではあるね。別のプレイヤーから緊急の報告として上がってきた『緋色の狩人(バルバロイ)』と言うギルドの事もあるし、『AIOライト症候群』患者の扱いは今後の世界の行方を大きく左右することになるだろう」

 俺と海月さんは一度視線を交わす。

 そう、現実世界での魔力の扱いは色々と厄介な問題を抱えている。

 だからこそ、俺は日付が変わった直後の件を利用して、この問題に手を打ったわけだが。


「で、藤守君。君からは何か特別な報告の類はあるかい?」

「『緋色の狩人』の件は既に報告されているんでしょう。だったら特に俺からは無いですね。だいたいの活動は動画館で流れているでしょうし」

「そうか。では次の話に移るとしよう」

 ま、効果が上がるのは少なくとも一月近くは先の話。

 次のメンテナンスの時に、あの件については話を聞けばいい。


「さて、他にするべき話と言うとだ……」

 その後の話は……まあ、割合どうでもいい事ばかりだった。

 俺の給料が幾ら支払われたとか、俺から見た攻略組や新人がどうだとか、攻略状況がどうだとか、『AIOライト』の中の詳細が分からない外の人間としては重要な話なのだろうが、俺としてはやっぱりどうでもいい事ばかりである。


「しかし『緋色の狩人』……彼らは本気で武力行使まですると思うかい?」

「『AIOライト』を脱出したプレイヤーが人ではなく物として扱われるような状況になっていたりすれば動くでしょう。尤も、彼らの大義名分上、分相応の扱いがされているならば、驕った一部以外は暴れるのではなく、むしろ秩序を守る側の人間として動く可能性の方が高いと思いますよ」

「分相応の扱いねぇ……正直、この手の問題が上手くいった話を私は聞いたことが無いんだが」

「ま、そこは政府の腕の見せ所と言う所でしょう」

「はぁ、やはりそうなるか」

 『緋色の狩人』についても話をする。

 が、語れるのは一般論の範囲だ。

 『緋色の狩人』のギルマスであるMPKだけは別に始末した方が良いと思うが、シアが居て、普通の職員のフリをしている海月さん相手にそんな事を語るわけにはいかないからな。


「さて、とりあえず私からの話はこれくらいだね」

「そうですか。ん?私から?」

「君に面会を求めている方が何人か居るって事さ。まあ、TOPプレイヤーに付き物の有名税だと思って欲しい」

「……」

 海月さんはそう言うと、一枚の紙を俺に見せる。

 そこには……今日一日の俺の予定が書かれていた。


「キャンセルは?」

「出来る。が、なるべく会って欲しい。一度でも藤守君を直接目にすれば、馬鹿な考えは抱かなくなるだろうから」

「はぁ……」

 何と言うか、前回色々とやったツケが回ってきた感じであり、俺としては溜め息を吐く他なかった。

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