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本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 91日目 17:02 (新月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「こちらがゾッタ様が出品された『回復力溢れる多頭蛇の王』の骨と『秘匿する多頭蛇の王』の骨の代金となります」
「「……」」
オークション会場に着いた俺は受け取りの女性にお金の受け取りに来た旨を話した。
すると何故か即座にオークション会場の奥の方に連れて行かれ、立派な応接間にてサザンと膝を突き合わせることになった。
で、現在俺の前には俺が出品した二つのアイテムの代金が表示された画面が浮かんでいるのだが……。
「あの、額間違えてません?と言うかオークション側の取り分取ってないですよね、これ」
そこには俺が『AIOライト』の中で見た事が無いような金額……10万を超えるGが表示されていた。
はっきり言おう、こんな金額は有り得ない。
還元炉の特殊還元を試す為に作ったアイテムでこんな大金が手に入るなどあっていいはずがない。
シアも目の前にある金額が理解できないのだろう、何度も瞬きをした後、指さしで数を数えているくらいだ。
だが、今回に限ってはそんな俺たちの思いの方が間違っていたらしい。
「いいえ、額は間違えていません。落札金額はこちらですし、当オークションが頂く仲介料も既に抜かれています。必要でしたら、GMに協力していただいて取っているオークションのログもお見せ致しましょう」
「え、えー……」
サザンが見せてくれたログなどの証拠には本当にこの金額でアイテムが落札された事が示されていた。
そして計算などにも間違いはなく、GMのお墨付きまで有った。
「それじゃあ本当に……」
「この金額がゾッタ様の受け取る代金となります」
そうして目の前の受け入れがたい現状とサザンさんの言葉に俺は椅子に深く腰かけ、天を仰ぐのだった。
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【AIOライト 91日目 18:15 (新月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「『AIOライト』のデスペナやPK報酬の類にGが含まれて無くてよかった。今だけは本当にそう思う」
「とてつもない金額が入って来ちゃいましたもんね……」
その後、受け取る以外に選択肢が無かった俺はサザンさんからお金を受け取ると、オークション会場を後にした。
で、日暮れまでは適当に街の中を歩いて見て回り、死に戻りによって失ったアイテムの中でも購入で済ませて問題が無いもの……つまりは一般的なレベルの回復アイテムや食料品を買っていく。
「……。使っても使っても減る感じが無いな」
「まあ10万を超えてますから……」
そうして日暮れ頃には必要な物を一通り買ったのだが……当然ながらお金はあり余った。
「このお金どうしましょうか?」
「はっきり言って泡銭だからなぁ。必要なアイテムはだいたい携帯錬金炉と還元炉、それにヘスペリデスの採取品で事足りるし……そうなると、こんな額のお金をどう使えばいいのやらって感じだな」
正直に言ってしまうと、今の俺たちがお金を使う先は殆ど無い。
装備品は自分で作った方が質が良いし、消耗品及び食料品も同様で、しかもヘスペリデスである程度は回収出来てしまう。
還元炉使用のためには大量のアイテムが必要になるが、こちらもヘスペリデスで回収できるアイテムで事足りる。
レア度:4以上の修理結晶も同様。
後は家具や食器だが……既に十分な量があるし、それらだってやはり自分で作ったものである。
「貯金、と言うのは駄目なんですか?」
「それでも問題はない。が、流石にこの金額を死蔵するのはちょっと精神的になぁ……」
貯金と言う案をシアは示してくれたが、この辺りは俺の小市民的な感情が邪魔してくる。
実際、10万円ならばそれほど恐れる額ではないのだが、今回は10万G、現実のお金に換算するならば1000万程度のお金になるかもしれない大金である。
ゲーム的には何の問題も無いのかもしれないが、金は天下の回りものと思っている身としては少々多過ぎるお金である。
「んー、いっそ服飾向上委員会で設計図の大量購入でもするか」
「何の設計図ですか?」
となれば使い道として妥当なのは嗜好品の類……より正確に言えば、より良い生活を生み出すための道具となる。
「食器や家具の設計図だな。そう言うのがあるとは聞いたことがある」
「食器や家具……ちょっと気になりますね」
「だろう。じゃ、行ってみよう」
と言うわけで俺たちは服飾向上委員会へと向かう。
で、着いたところで思い出す。
「あ、師父。服飾向上委員会に御用ですか?」
「お、おう」
そう言えばソフィアも服飾向上委員会のメンバーだったと。
「なるほど、設計図ですか。在庫の確認と見本の方、お願いします」
「分かりました」
さて、俺たちが目的とした食器や家具の設計図だが、どうやら在庫はきちんとあるらしい。
金額についても需要が少ない商品であるためか、他の設計図に比べると多少安めの設定になっていた。
「それで師父。ギョクローさん経由で番茶さんから連絡がありました。『秘匿する竜の王』の討伐には成功したそうです」
「そうか、それは良かった」
そして設計図の見本が来るまでの間に多少の世間話をすることになったのだが、そこで聞かされたのはローエンたちによって『秘匿する竜の王』が倒されたという報告。
最終的にはローエン含めてプレイヤーが6人にホムンクルスが2体しか残らないような激戦だったそうだが、それでも討伐には成功したらしい。
「お持ちしました」
「ありがとうございます。では師父、ゆっくりご覧になってくださいね」
「分かった」
そうして少しではあるが心のつっかえが取れた俺は、自分が納得するまで見本と設計図を見た上で十分な数の設計図を購入したのだった。
08/20誤字訂正
 




