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本日は二話更新です。
こちらは一話目になります。
【AIOライト 91日目 14:00 (新月・曇り) RS1・『秘匿する砂漠の墓場』】
「突入!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」
ローエンの号令と共に俺たちは『秘匿する砂漠の墓場』へと一気に飛び出していく。
これは戦意を高揚させ、戦闘を優位に進ませるという精神的な効果を求めてのものであるが、突入口と言うどうしてもメンバーがまとまっている場所に向けて範囲攻撃を仕掛けられるリスクを少しでも抑える為の行動でもある。
「敵は……」
『秘匿する砂漠の墓場』は事前情報通りに何処までも砂丘が続くマップであり、隠れる場所は僅かな石碑や教会の類の影ぐらいしかない見通しのいいマップだった。
そして、そんな隠れる場所の無い所にホムンクルス含めて60もの新たな影が現れたのだ。
となればだ。
「「「ゴブゴー!」」」
「2時方向!ハイドゴブリン5!」
まず仕掛けてきたのはハイドゴブリンの群れだった。
彼らは砂漠の砂を模した模様のマントによって、その身を隠し、俺たちが居る場所から10メートルぐらいの距離にまで迫って来ていた。
そして、こちらに気づかれると見るや否や、マントを脱ぎ棄てると、手に持った短剣や斧を振りかざしつつこちらに向かってくる。
「第3PT!」
「はいっ!」
対するこちらからは第3PTが出ていき、正面からぶつかり合う。
だが、個々の実力が五分五分で、ハイドゴブリン5体とプレイヤーとホムンクルス合せて18人のPTの戦いであれば、どちらが勝つかは考える間でもない。
だから残った俺たちは直ぐに注意を周囲へと向ける。
そして、その判断は正しかった。
「7時方向からハイドパペット6!」
「第2PTで応戦する!」
「遠距離攻撃持ちを優先して潰せ!」
ハイドパペットたちが砂の中から武器を振りかざしつつ飛び出してくる。
どうやら呼吸が要らない事を利用して、砂の中に潜伏していたらしい。
中には銃のような物を構えている者も居るが、番茶さんたちが即座に対応を始める。
「っつ!?ハイドオクトパスだ!」
「野郎何時の間に!?」
「第1が応戦する!」
続けて体高が人の身長ほどもあるハイドオクトパスLv.30が俺たちの足元から擬態を解除しつつ飛び出してくる。
こちらは単純に砂丘に擬態していた。
流石は蛸である。
対応するのはローエンたちだが、最初こそ驚いていたようだが、直ぐに反撃を始めている。
「「「カクター!」」」
「マスター!ハイドカクタスが落ちてきます!」
こちらの混乱を大きくさせるようにハイドカクタス……人間大かつ人間型のサボテンが三体、俺たちが出てきた教会の屋根からこちらに向けてダイビングを敢行してくる。
「分かってる!ネクタール!!」
「ーーーーー!!」
「私も手伝いますわ!『ソイルスネークキング・フォースハウル』!」
「「「カクッ!?」」」
全身の棘だらけの生物があの高さから落ちて来て直撃するのは拙い。
そして他PTの手が空いていない以上、アレに対応するのは俺たちの役目である。
そう判断した俺はネクタールでハイドカクタスたちからのヘイトを集めつつ、槍で迎撃して軌道を逸らす。
そしてソフィアの生み出した土の蛇による攻撃で一気に地面に叩きつける。
「ぐっ」
と、ここで俺のHPバーが僅かにだが減少する。
どうやらネクタールの槍による攻撃であっても、カクタス種の反射は通るらしい。
ここまで来ると、本当に状態異常:カースのようである。
「『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』」
「ハイドカクタスは第4で処理しておく!」
「カクター!」
「分かった!そっちは頼むぞ!」
だが、このダメージ量ならばシアの支援があれば問題なく受けられる。
そう判断した俺は、ハイドカクタスの攻撃を受けつつ、第4PTでハイドカクタスの処理を行う宣言をしておく。
「カクッカクッ!」
「カークター!」
「カクッタ!」
「追加ダメージはうっとうしいが……」
ハイドカクタスの戦闘方法はその棘だらけの全身を生かした肉弾戦。
パンチにキック、頭突きと何でもアリであり、攻撃が当たる度にこちらの防御力を無視した追加ダメージが微々たる量ではあるが発生している。
しかし何も問題はない。
「そんなダメージで俺のHPが削れるか!」
「カクタァ!?」
俺は回復力特化のタンクなのだ。
攻撃を受けてHPが減ったならば、減っただけ回復すればいいのである。
「ふんっ!」
「カクター!?」
「あははははっ!流石は師父ですわぁ!!」
「ガクッ!?」
「「……」」
そう言うわけで、俺は反射ダメージも追加ダメージも大して気にする事なくハイドカクタスに攻撃を加えていく。
ソフィアも割合回復力が高めのビルドなのだろう。
俺と同じようにハイドカクタスに直接攻撃を加えているが、反射ダメージは殆ど受けていない。
ソフィアのホムンクルスは……フローライトは魔法型だから関係なし、ネリーの方は防御を主体として足止めに専念しているようだ。
「えーと、『ブート』!」
「ガクダー……」
「ナイスだ、シア」
で、そうして暫くやり合ったところで三体居たハイドカクタスが倒れる。
「よし、これでまずは第一陣は片付いたな」
そしてその頃には、他のPTも戦闘を終わらせ、周囲の警戒をしつつ回復と剥ぎ取りを始めているようだった。
「ローエン、この後は?」
「予定通り、ある程度の距離を取りつつアライアンスで固まって探索行動だ。砂丘の一番上の方にまで上がって周囲を確認してみたが、ボスらしき影どころか、普通の敵の影も見えなかった」
「特性:ハイドらしく隠れているって事か」
「そう言う事になるな」
俺も他のメンバーに倣い、素早く自分の状態を確認していく。
HPとMPは満タン、デバフの類はなし、バフはシアの魔法に加えてアライアンスの他のメンバーがかけてくれた補助魔法が幾つかに、事前に使っておいた特性:リジェネ付きのレイシュアリザードマンパウダーが作用しているな。
これならば何時何が襲って来ても大丈夫だろう。
「よし、それじゃあ探索を始めるぞ。全い……」
その時だった。
「っつ!?」
俺は不意に強烈な殺気を感じ取り、自身の背後、教会の屋上、ハイドカクタスが潜んでいた場所へと目を向ける。
そして、そこに居た者を見て即座に理解する。
「んじんけいを……」
アレに今気づいているのは、ヘイトと言う繋がりを見る事で探知出来た俺だけである。
「スゥ……」
アレが今やろうとしている事をそのままやらせた場合、このアライアンスは確実に壊滅する。
「ととのえ……」
だから防がなければならない。
全てがスローモーションになっているこの世界で最適な動きをして、俺が死に戻る事と引き換えにしてでも止めなければいけない。
それが敵の攻撃を受け止めるタンクとしての役割なのだから。
「ネクタール!『ティラノス』!」
俺はネクタールを展開する。
アライアンスのメンバー全員を囲い込むドーム状に。
そして、その上で既に装備の限界まで発動している特性:バーサークを更に強化できるように『ティラノス』も発動する。
「て?」
「『力を和らげよ』!『守護を与えん』!」
シアが俺の行動に気づき、即座にそれまで掛けていなかった補助魔法を最大限の魔力を込めて発動する。
「来いっ……『秘匿する竜の王』!」
「グルアアアアアァァァァァ!!」
次の瞬間、アレ……否、『秘匿する竜の王』Lv.30から強烈な炎のブレスが放たれた。
「「「!?」」」
「ぐっ!?」
シアの張った障壁が一瞬にして砕け散り、特性:ワクチンによる橙色の障壁も即座に砕け散る。
赤黒い魔力を纏ったネクタールと『秘匿する竜の王』のブレスがぶつかり合い、本来ならばアライアンス全体に向けて放たれるはずだった攻撃を一人で受け止めた代償は大きく、俺のHPバーは一瞬で底を突く。
「ゾ……」
だが、俺一人の犠牲では足りなかった。
『秘匿する竜の王』のブレスは死に戻りが確定し、この場から消え去ろうとする俺とネクタールの身体をすり抜けてアライアンスの面々に迫っていた。
「『アルケミッククリエイト』……砂よ、城砦となりて我らを守護せよ、サンドフォートレス!」
「グルッ!?」
しかし、アライアンスの面々にまで『秘匿する竜の王』のブレスが届く事は無かった。
ブレスが届くよりも早く砂の大地から分厚い砂の壁が現れ、ブレスを防ぎ切ったおかげで。
「すまん、後は頼んだ」
「後はお願いします」
「ーーー……」
そうして俺の死に戻りに巻き込まれて、ネクタールと城壁を生み出した当人であるシアはその場から姿を消した。
08/19誤字訂正
 




