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【AIOライト 85日目 14:27 (満月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ-ヘスペリデス】
「まったく、誰がラスボスだっての。俺はちゃんとプレイヤーだし、『AIOライト』では人間だっての」
掲示板への書き込みを終えた俺は、ミデンの前で軽く息を吐く。
「ま、こっちの件についてはこれくらいにしておくとして、そろそろ始めるか」
俺は右手に持った還元の白枝と左手に持った呪詛招くヘスペリデスの黒枝を見る。
この呪詛招くヘスペリデスの黒枝はつい先ほど回収してきた物であり、特性は特性:カースと特性:ハイドが付いている。
俺が選んだ還元の白枝が枯れていて、生命の名残も殆ど無い物であるのに対して、今回の呪詛招くヘスペリデスの黒枝は若々しく、正にいま芽吹いたような枝であり、地面に植えればそこから根を張り、成長することを確信できるような物となっている。
そして、この二つの枝を……
「よっと」
ミデンに入れて一つにしようとする。
『bAndsH1r0 dEa06iNoCh1 2litU HaifA2 r3al CybeR sin5ekA1 MazaliaU』
「……」
錬金は一文字打ち込むごとにHPもMPも削られていく形になっている。
反応も白と黒の光が入り混じり、普段の錬金とは毛色が異なるものになっている。
「よし完成」
だがそれでも錬金は無事に終わり、ミデンの中からは黒と白、枯れている部分と生きている部分が入り混じり、中心を持たず、同程度の太さの枝を四つ持った枝が現れる。
それは表記上は還元の白枝のままであり、ゲーム的には特性:カースと特性:ハイドが付与されただけの代物。
しかし、作り手である俺にとっては通常の還元の白枝では絶対に出来ない事を可能とする逸品でもある。
「さて、俺の技術的には上手くいくとは思うが……」
俺は頭の中で還元の白枝の使い方を思い出す。
通常の還元の白枝は、還元の白枝を縦に二つに裂き、その片方を携帯錬金炉の中へ入れ、もう片方を『AIOライト』の地中へと埋める。
こうすることで、携帯錬金炉は還元炉としての機能を得ることが出来る。
入手に手間取る分だけ、やり方さえ分かっていれば機能追加はとても簡単なのだ。
「問題は許可が下りるかだな」
で、此処からは推測になるが……こんな事が出来るのは、還元の白枝には縦に裂いた場合には魔力的な繋がりは有したまま分割する事が出来るという特性があるためであり、恐らくだが還元の白枝の役割としては携帯錬金炉が『AIOライト』の記憶にアクセスするための道を作り出し保持することなのだろう。
だから理論上は還元炉としての機能を有した時点で、対価さえ十分に払う事が出来るのであれば、過去に『AIOライト』に存在し、世界に還ったあらゆるアイテムが作成可能となるはずである。
「ま、やってみますかね」
尤も、それはあくまでも理論上の事。
ゲーム的な制約と人間の認識できる領域の限界、それにその他諸々の脅威などを鑑みれば……まあ、過去に入手した事のあるアイテムしか造り出せないのは当然と言えるだろう。
そして、俺にはその制約に収まり切るつもりはなかった。
「現世と隠世、生と死、始まりと終わり」
俺はリジェネミスリルクリスを取り出すと、魔力を込めて言葉を発しつつ、還元の白枝を縦に二分割し、二股の枝二本にする。
「深き深き深淵よりもなお深く暗く黒き枝、汝赴くは原初の地。全ての終わりが集う地」
二本の枝の片方、黒い部分が多めの枝を俺はさらに二分割する。
そして、最初の状態からみて四分の一の大きさになった枝の内、最も黒く、そして乾き、枯れている枝をミデンの中へと投入する。
「黒白入り混じりて、生死入り混じりて、されど始まりに溢れる枝、汝赴くは電脳の世界。選定の地」
次に黒い部分と白い部分、生きている部分と枯れている部分が入り混じるも、枝の先に新芽のようなものが存在している枝をヘスペリデスの外、『AIOライト』へと、東屋の魔法陣を通じて俺は飛ばす。
もしもGMが俺のやろうとしている事を拒否するならばここで弾かれるはずだが……うん、どうやら大丈夫であるらしい。
「白黒重なりて、清濁重なりて、何処に向かうかも分からぬ迷い枝、汝赴くは現世。我が故郷にして欲望の地」
俺は二分割した枝のもう一つを、先程と同じように二分割する。
そうして四分割の状態になった枝から、最も複雑な紋様を描くと同時に、最も捻じれが酷い枝を俺の魔力で包み込んだ上で、左手で握り潰し、この場から消滅させる。
だが上手くいった。
俺の目はミデンの中に在る枝が、『AIOライト』の中だけではなく、現実とも繋がっているのを確かめている。
「白き白き白の枝。未だ穢れ知らぬ楽園の枝。汝は赴かず、この地を終として、楽園の大地に眠る知識を享受する」
そして最後の一本、白以外を一切含んでいない純白の、そして十分な生命力を有している枝を、俺はヘスペリデスの大樹に向けて飛ばす。
すると俺の求め通りに、ヘスペリデスの大樹は飛んで来た枝を受け入れ、ミデンとの繋がりを有したままヘスペリデスの大樹の奥底で機能を発揮し始める。
「これにて四界繋がりて、万物は零へと近づき、一に還り、新たなるものとなる道を得たり。故に四界揺るがさぬために彼の道知るは我のみて、使うも我のみとする」
そうして最後に還元の白枝の力によって造り上げた繋がりをヘスペリデスのエネルギーと俺自身の魔力の一部を使って保護、秘匿化。
GMであってもそう易々とは利用できないようにする。
「よし、これで無事に完成だな」
こうしてミデンに還元炉の機能を付与する作業は終わった。
そして、今日は『百罰下す正義の刃』とミアゾーイの件もあって幾らか疲れた俺は適当な部屋に移動すると、そこで掲示板を見つつ、今日はもう休むことにした。
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【AIOライト 85日目 23:45 (満月・晴れ) ???】
「あー、あー、チェクチェク。マイクチェック。よし、問題なし」
「『AIOライト』開始から丸85日になります。では、現在の状況について口頭にて記録を行います」
「還元の白枝および還元炉の入手者が現れました。ゾッタ、グランギニョル、シュヴァリエの三人です。明日には、他にも何人かのプレイヤーが取得することでしょう」
「アルカナボスVIII正義『百罰下す正義の刃』に重大なバグが発生しました。イベントそのものはコピーを用意することで対処しますが、オリジナルについては……あー、記録:85-Zo1を参照してください。とりあえず余計な対応は被害の拡大を招くので、静観します」
「そして記録:85-Zo2に詳細は記しましたが……現実世界との繋がりを通常の通信とは別の方法で確立するプレイヤーが現れました。まあ、こちらも乱用する気はないようですし、契約もありますので、静観しましょう。今後の事を考えれば、その方がプラスに働きます」
「同盟の彩砂入手者も現れました。代表にはローエンがなるようです。攻略組の他に設立可能性が高いギルドは情報と服飾の二つでしょうか。こちらは素晴らしい事に現状、至って平和であると言えます」
「後続組の育成も順調に進んでいます。この分で行けば、次回メンテナンスの93日目までにはある程度、立場の確立をする事が出来るでしょう」
「では、今回の記録を終わります」
08/02誤字訂正
08/04誤字訂正