462:85-4
本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
【AIOライト 85日目 10:00 (満月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「はぁ、見事に死に戻りしたな」
『AIOライト』に戻ってきた俺はそう呟きつつ、錬金術師ギルド、『巌の開拓者』ヒタイ本部にある死に戻りスペースに出現する。
GMが死に戻りのエフェクトはかけてくれているが……ああうん、やはり立ちながら現れたせいで周囲の注目は集めてしまっているか。
まあ、こればかりは仕方がない。
倒れるように現れるというのは、案外難しいのだ。
「さて……」
俺は死に戻りスペースから離れると、シアとネクタールを召喚、ネクタールを身に着ける。
「……はっ!?マスター!?」
「……」
「うん、二人とも問題なさそうだな」
シアは最初、呆然とした様子だったが、直ぐに我に返ると、俺の方を向く。
ネクタールは……そう言えばネクタールはGMの保護の対象外になっていたから色々と見てしまっているのか。
何と言うか、色々と言いたそうな色合いになっているな。
「マ、マスター。もしかしなくても私たちはその……」
「瞬殺された。死に戻りした事も分からないようなレベルでな。な、ネクタール」
「ーーー……」
なので俺は笑みを浮かべつつ軽くネクタールの事を睨み付けておく。
余計な事は言うなよ、と言う意思を込めて。
「す、すみません。少しいいですか?」
と、ここで一人の新緑色の髪の毛に茶色の目の少女が俺たちに話しかけてくる。
この子は……そう、確か攻略組による遠征についての反省会と会議に参加していた少女だな。
ただ、あの場に居たにしては装備品のスペックなどが低めに感じる。
「私、七茶同盟のギョクローと申しまして、番茶先輩と一緒に情報のまとめをやっています。ゾッタさん、死に戻りしたとの事ですが、何があったのか聞いてもよろしいでしょうか」
「ふむ」
だが、それ以上に特異なのは明確な意図を持って繋がっている複数の繋がりと、普通の人間にしては多めと感じる魔力。
ああ、それから、掲示板でドウの地に居るはずの番茶さんがトウの地に居るはずの彼女とやり取りをしているような話もあったか。
となるとだ。
「ボソッ(なるほど、自前の魔法と『AIOライト』内の技術を組み合わせることによる超長距離の相互通信か。世界に対する理解が進めば現実との通信も出来るようになるだろうな)」
「っつ!?」
俺の呟きにギョクローさんはギルド内であるにも関わらずその場から飛び退き、武器である杖と短剣を素早く構えると、完全な臨戦態勢を取る。
「ん?ああ悪い。ちょっと見えちゃったもんでついな」
「……」
「え、えと……」
「「「ーーーーーー」」」
ああうん、これはやってしまったな。
もしかしなくても、彼女にとっては現実での魔法技術は隠したいものだったらしい。
だいたいなんでも知っているGMとのやり取りが続いたせいで、俺の警戒感が少し薄れていたからか、思わず言ってしまった。
「抑えておけよ。今の仕事はそれじゃあないだろう」
「……分かりました。私にも生活と言う物がありますので、貴方と事を構えるつもりはありません。ですが、この先の話は個室でしましょうか」
「そうだな。そうするか。シア、行くぞ」
「あ、はい」
そうして俺はギョクローさんが借りているレンタル部屋で話をすることになった。
----------
【AIOライト 85日目 10:27 (満月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「つまり、還元の白枝を入手した所で、ワンダリングモンスターであるプレンワームの攻撃によってアルカナボスの石板と接触。初接触だったために、そのまま強制的にボス戦になった、と」
「そう言う事だな。還元の白枝はロストしなかったが、全くもって酷い目にあった」
レンタル部屋では、まず俺が死に戻りした理由について話した。
なお、辻褄を合わせるべく、俺とシアのインベントリ内のアイテムは実際に幾つか失われている。
尤も、状況が特殊だったために有っても無くても変わらないようなアイテムだけをロストするようにしてもらっているが。
「スクショの類は有りますか?」
「えーと、ああ、あったな。反射的に撮ってたようだ」
続けて俺は『百罰下す正義の刃』のスクショを見せる。
が、こちらもまたつじつま合わせの為にGMが用意したものであり、写っているのは他プレイヤーが戦う事になるコピーの方である。
なので、細部までよく見ると俺たちが遭遇したオリジナルとは微妙に違いが在ったりする。
「あれ?」
「どうしたシア?」
「いえ、んー、なんでしょうか。今何か引っ掛かるものがあったんですけど……」
「気のせいじゃないか?」
「気のせい……そうかもしれませんね」
そのためシアには一瞬怪しまれたが、どうやら問題なく誤魔化せたらしい。
「分かりました。情報提供感謝します。こちらの情報は『巌の開拓者』掲示板及び番茶先輩経由でドウの地掲示板にも情報提供者の名前と共に上げますが、構いませんね」
「ああ、問題ない。むしろ上げてくれと、こちらからお願いしたいくらいだ」
俺の許可が下りたところで、ギョクローさんによって掲示板への書き込みが行われる。
これでアルカナボス『百罰下す正義の刃』に対する周知は問題なく行われるだろう。
「それでゾッタさん。これは私事になりますが……」
「なんだ?」
さて、残る問題はギョクローさんのリアル事情についてだが……。
『現実世界には魔法なんてものは存在しない。これが世界の共通認識であり、『AIOライト』も超技術ではあるが、魔法は使われていないという考えに賛同していただけますか?』
俗に言うテレパシーと言う奴だろうか、俺の頭の中にだけギョクローさんの声が響く。
『無理があるな。攻略組は既に魔法と言うか魔力の存在に気づいている。それをどうにかしたいのなら……最低限GM相手に抗えるだけの実力を身に付けてから話をしろ。ま。お前たちじゃあ現実のトップまで含めて全員でかかっても俺以下だがな。人間』
『!?』
だから俺も魔力による発声を行い、繋がりを介してギョクローさんにだけ声を届ける。
それも俺が人ならざるものである事を理解させるように。
「ば、番茶先輩の様子はどうでしょうか……?」
「んー、ここ最近は会っていないからなぁ。まあ、還元の白枝の処理が終わったら同盟の彩砂とか言うのを取りに行くだろうし、もしかしたらその時に会えるかもな」
「そ、そうですか。番茶先輩について少し知りたかったのですが……」
「まあ、次に出会えたら伝えておくよ。後輩が寂しがっていたので、もう少し構ってあげたらどうですか?とね」
勿論、表面上は何事もないように装いつつ、だが。
「マスター、何を見たのかと思ったらそう言う繋がりを見たんですか……そんなのを見て呟いたら、怒られて当然じゃないですか」
「ははははは……まあ、以後気を付けるとしようか」
「……。そう……ですね」
「じゃ、俺たちはこれで失礼させてもらうとしよう」
「あ、はい。情報ありがとうございました。今後ともよろしくお願いしますね」
「ああ、今後もよろしくな」
ま、表面上の件についても嘘は言っていないので問題はないだろう。
そうして俺たちはギョクローさんの部屋を後にした。