457:84-1
【AIOライト 84日目 08:25 (5/6・雨) ドウの地・北西の森】
『還元の白枝-2の塔』を攻略した翌日。
入手した情報から、還元の白枝本体を手に入れるべく、俺は北西の森に入った。
「で、行き先が同じだから分かるんだが、これはどうなんだ?」
「いいじゃない。楽で」
「そうだよ師匠。こういう時は楽をすればいいんだって」
で、今の俺にはPT及びアライアンスこそ組んでいないが、同行している面々が居る。
具体的に言えば……
「そうそう、敵からは隠れられないが、隠れてやり過ごすのにかかる時間よりも早く狩れれば、それだけスムーズな進行に繋がるんだ。悪くはないだろ」
「それに逃げてばかりだと戦闘レベルが上がらなくて、突然の巣マップとかにも対応できなくなりますから、細かいレベル上げは必要ですよ」
「そうだね。素材もだいぶ心もとなくなってきているし、回収しておいて損はないだろう」
グランギニョルとシュヴァリエのペア、トロヘルがリーダーのブルカノさんも含んでいるPT、ロラ助をリーダーとして昨日の内に塔自体はクリアしたものの全員では攻略出来なかった面々を集めたPTが俺、シア、ネクタールのPTに同行している。
「まあ、実際楽ではあるんだが……お前ら、ヘスペリデスが目当てなだけだろ」
「「「……」」」
俺の言葉に他の面々は多少気まずそうに視線を逸らす。
ただ実際のところ、彼らの目的はヘスペリデスだけではないのだろう。
と言うのも、今居る面々の中で誰が最も正確に還元の白枝があるであろう場所を把握しているかと言えば、それは塔の頂上にあった還元の白枝があるであろう場所へ導くレンズからの情報を、二本分直接得ている俺に他ならない。
勿論、掲示板にも上げる形で情報そのものは共有しているが、それでも一次情報と二次情報では情報量に差が出る可能性がある。
そう考えたら、俺を案内人にしたいトロヘルたちの行動も納得は出来る。
納得は出来るが……
「ま、ガンカ湖の水の時と一緒だな。俺は勝手に行くから、着いて来たいなら勝手に着いて来い、だ」
「流石はゾッタ。そう言う所はぶれねえな」
「目的地は同じはずだし、制限した所で意味がない話だからな」
それは俺が歩く速さを緩める理由にはならない。
「じゃ、俺はネクタールで戦闘を避けるから、頑張ってついて来てくれ。シア」
「はい、マスター」
「ーーーーー」
と言うわけで、俺たちは北西の森の中を一直線に進み始めた。
----------
【AIOライト 84日目 12:47 (5/6・雨) ドウの地・北西の森】
「ブルカノさんたちは流石に追いつけなかったみたいだね」
「まあ、人数が多くなれば、それだけ移動速度は下がるもの。仕方がないわ」
「ま、当然と言えば当然ではあるな」
「ちょっと心配ですけど……場所は分かっているから大丈夫ですよね」
昼過ぎ。
結局、俺の移動速度に付いて来れたのはシュヴァリエとグランギニョルだけだった。
まあ、この辺りについてはグランギニョルの言うとおり、人数差がもろに出た形だな。
「それにまあ……」
と、ここで地面が揺れ始める。
「ワアアアアアァァァァァァァムウウウウウウゥゥゥゥゥゥ」
爆発のような音と共にプレンワームLv.50の声が響き渡り、それに合わせて俺たちから十数メートルしか離れていない場所で大量の土砂が巻き上げられ、土煙を形成する。
そこは少し前まで、俺たちが昼食を食べるために留まっていた場所だった。
「ああいうのに遭遇した時に、即座に探索班が全滅ってならない方が良いのは間違いないだろ」
「あのサイズになると向こうに攻撃の意思があるかどうかとか関係ないものね」
「と言うか、向こうは僕たちの事を認識してないと思うよ」
「大きいなんて次元じゃ無いですもんね」
もしも人数が多くなって、昼食が長引き、あの場に長く留まり続けていたら……きっと今頃はヒタイの錬金術師ギルドだろう。
「さて、警戒度は多少上げておいた方が良いだろうな」
「どうしてですか?」
「お宝には、それを守る守護者が居るのが鉄板だからよ」
プレンワームはその場で鎌首をもたげて、首を何周か回す。
そうして、次の目的地を見つけたのだろう。
大きな声と土煙を上げつつ、まるでアーチ状の橋のように身体を伸ばすと、再び地面に潜り始める。
なお、幸いにして、その方向は俺たちが居る方向とも、トロヘルたちが居るであろう方向とも一致しなかった。
「守護者……ワンダリングモンスターですか」
「そうね。あくまでも可能性の一つではあるけれど、警戒して損になるという事は無いはずよ」
プレンワームはやり過ごせた。
だが、事前情報によれば、北西の森には最低でも後二体、プレンブロッサムとプレンウェアウルフのワンダリングモンスターが居るという。
彼らが還元の白枝を守っているとは限らないが、守っていないという情報もない以上は、警戒しておくのが正解だろう。
「じゃ、この先は警戒していこうか。で、もし出会ったら各自散開で」
「そうね。それでいいわ」
「だな」
「分かりました。マスター」
そうして俺たちは森の奥へとさらに歩を進めた。