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本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
【AIOライト 83日目 13:47 (4/6・晴れ) WB2・『巨大な草原の墓場』】
巨大な……それは特性:ギガントを表す言葉である。
特性:ギガントは特性を持った存在のサイズをその名の通り巨大化し、巨大化に応じただけの攻撃力や防御力、重量といったステータスを上昇させる効果を持っている。
プレイヤーが使う分には装備品のサイズが合わなくなるなどのデメリットが生じ、使い勝手があまり良くないと言える特性だが、敵の場合には自身のサイズに合わせて装備品の類も巨大化するため、ほぼ純粋に肉体面が強化されると言っていいだろう。
つまりは典型的な味方だと微妙だが、敵に回すと厄介なタイプと言う事になる。
「さて、基本的には事前の打ち合わせ通りに行くわよ」
「おう」
「はい」
「分かってるよ」
「キュイ」
「カー」
ヘスペリデスでの昼食後。
準備を整えた俺たちはボス部屋の扉の前に集合する。
「自分かゾッタさんのどちらか、あるいは両方で騎士を食い止め、その間に猟犬を狩る。ですね」
「……」
「我も全力を尽くそうぞ」
「じゃ、始めるわよ」
そうして全員が戦闘の態勢を整えた上で、グランギニョルが扉に触れた。
『還元の秘奥を求めるものが来たか』
扉の向こうは何処までも広がっているとしか表現の仕様のないほどに広大な草原であり、遮蔽物らしい遮蔽物は草原の各所に点在している大小様々な墓石と十字架ぐらいだった。
『グルルル……』
『ああ許し難い。九の迷宮を抜けてこの場に辿り着いた事だけでも許しがたい』
そんな草原に二つの影があった。
だが、その影は俺たちから10メートル程度しか離れていないはずなのに、特性:ギガントを考慮してもなお信じがたい程に大きかった。
「これはまず……ゾッタ兄!?」
「……」
だからこそ俺は駆け出していた。
体高が3メートル近い首輪と最低限の防具を身に付けた巨大な猟犬と、低く見積もっても身長が6メートルはあり、全身に金属製の鎧を身に着け、その体躯に相応しい大きさの剣と盾を持った巨大な騎士の下へと。
『ガウガウッ!』
『そうだな。狩り尽くそうぞ。それこそが我らの……』
「『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』!」
「くっ、各自行動開始!」
勿論、彼我のサイズが此処まで有る以上、単純な攻撃ではよろめかす事も出来ない事は分かっている。
だから俺はシアの支援を受けつつ、インベントリから事前に準備をしていたカプノスを取り出し、口に咥える。
「ヘスペリデス……」
そうして勢いよくカプノスから煙の形で想念と魔力を吸い込み、ネクタールが集めたヘイトも吸いこみ、肺に収めると、煙を吐き出しながら唱える。
「ハルモニアー」
俺の全身に魔力を充足させると同時に人ならざる姿へと一時的に戻る言葉を。
いつもの姿よりも遥かに戦闘に特化した姿になる言葉を。
そして跳躍する。
右手に持った斧を振りかぶりながら、全身を煙で包み込みながら。
「マ、マスター!?」
「なっ!?」
「うわっ……」
「ええー……」
「あ、はい」
「……」
そうして、煙の外に出た俺は全身を黒曜石のような身体に変貌させつつ身長2メートルちょっとまで巨大化。
更には、目と口と関節から赤黒い炎を噴き出し、肩の辺りに赤黒い風の衣を纏い、両足の裏に赤黒い雲を履き、背中に回転する巨大な三つの黒輪を出現させる。
そして、その状態で……
『やく……ぐっ!?』
「ふんっ!」
まずは巨大な騎士に斧による一撃を叩き込み、盾による防御を強要する。
「ネクタール!」
「ーーーーー!」
『この……ぬぐおっ!?』
だがこれ終わりではない。
俺は続けてネクタールのゼロ距離攻撃と合わせて攻撃。
強烈な衝撃によって巨大な騎士を数歩分退かせる。
『ガウッ……』
と、ここで巨大な猟犬が俺に噛み付こうとしてくる。
『キャイン!?』
「お前の相手はこっちだ」
だが、巨大な猟犬が俺に噛みつくよりも早くレティクルさんの狙撃が巨大な猟犬の目に直撃して怯ませる。
そして、その間に俺は両足裏の赤黒い雲によって地面の表面を溶かしつつ滑るように巨大な騎士に向かって駆け寄る。
「騎士よ。相手をして貰おうか」
『この、盗賊風情が!』
俺の背後では巨大な猟犬に対する攻撃が始まっている。
この時点で俺の役目は巨大な騎士を俺へと惹き付け続けることで確定となり、俺以外のメンバーは巨大な猟犬をいかに素早く倒すかが一番に考えるべき事となった。
『ぬんっ!』
「当たるか」
だから俺は巨大な騎士の刃だけでも今の俺の身長並みにある剣を避けると、そのままの勢いで巨大な騎士の脇腹を短剣で切り裂きつつ背後に移動。
『何を……っ!?』
「まずは一度倒れろ」
巨大な騎士の膝裏を蹴り抜いて首の位置を下げさせると、首に斧の刃を引っかける。
「ふんっ!?」
『ぬぐおっ!?』
そして一気に力を込めると、巨大な騎士を地面へと首から叩きつけ、地面に叩きつけた反動を利用して首にダメージを与える。
与えたダメージは最大HPの5%以下、これでは手傷とは言い難いだろう。
『おのれええぇぇ!』
「この程度では致命傷には程遠いか」
直後、巨大な騎士は周囲の全てを剣で薙ぎ払い、怒りの色を表しつつ起き上がってくる。
俺はそれを防御、足裏の赤黒い雲の効果を利用し、敢えて衝撃のまま吹き飛ばされる事によってダメージを軽減。
「まあ、時間稼ぎが目的なのだから何も問題はない」
『っつ!?』
そして、吹き飛ばされた勢いの方向を周囲の墓石を利用することで変換、再突撃すると、再び巨大な騎士の盾へと斧を叩きつけた。
07/22誤字訂正




