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本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
【AIOライト 82日目 08:35 (半月・晴れ) 還元の白枝-3の塔・最上層】
「さて、何がある?」
俺たちが移動した先は、薄暗い石造りの部屋だった。
窓は妙に細長いものが一つあるだけ。
ニフテリザで照らしてみたが、見える家具の類は本棚が幾つかに、机、椅子、筆記用具が一式と言う所で、その何れもが厚い埃を被っている。
「マスター、此処の壁に何か有りますよ?」
「ん?ああ、本当だな」
シアが示した壁には壁画のような物が描かれていた。
ような物と称したのは、絵の大半が脱落し、絵の体裁を為さない程に劣化しているからだ。
「これってなんでしょうか?」
「んー、地図……だろうな」
辛うじて分かる事と言えば……そうだな、この絵が恐らくは世界地図に類するものであろうという事ぐらいか。
「地図、ですか?」
「ああ、たぶんだけど此処がケイカで、推測だがこの辺りにサハイがあるんだと思う」
だがそれでも輪郭、それに両脇を山で囲まれた街らしきもの……推定ケイカから、これが地図ではないかとは思える。
「この赤い線は?」
「んー、サハイが滅びた原因である悪意の流れ、と言う奴かもな。紅き流れとか言っていた気がするし」
尤も、サハイより東の部分は完璧に脱落して痕跡すらも見えないので、今後直ぐの攻略に役立つような地図では無さそうである。
ドウの地の中心部からサハイに向かって伸びる赤い線については……まあ、敵の進行ルートか何かを記したものだと今は思っておけばいいだろう。
俺たちも使えるルートかは現状では分からないしな。
「とりあえずスクショはしておくか」
「そうですね」
いずれにしても記録しておく価値自体はありそうなので、スクショは取っておく。
その際にサハイの位置や山脈の意味などから少々嫌な想像もしてしまったが……口は噤んでおこう。
トウの地の向きと合わせて考えると中々に悍ましい事になっているが、知らなければ気にすることでもないのだから。
気づかないなら気づかないでいいのだ。
「それでマスター。還元の白枝については?」
「んー……本は駄目か。本棚もダミーだな」
さて、肝心のと言うか、還元の白枝-3の塔を攻略した理由である還元の白枝についての情報は何処にあるのだろうか?
俺は机の上に置かれていた本に、本棚に収まっていた本を調べようとするが、どうやらダミーの見た目だけの本であるらしく、中身は蚯蚓がのたくったような文字が書かれているだけだった。
机と椅子にも異常はなし。
繋がりの類を探してもみるが、一切見えない。
「残るは……窓か」
「妙に細長い窓ですよね」
残るは街の北西方向、ドウの地-北西の森に向けて作られたこの部屋唯一の窓……と言うか最早壁の隙間と言ってしまってもよさそうな空間である。
「高さが高さだし、落下防止の為に細長い。なんて考え方も出来るけどな」
「でもそれだったら複数作りません?一個だけだと換気も碌に出来ないですよ」
「まあな。だからちゃんと考えれば怪しいとは思えるようになってる」
俺は隙間から外を覗いてみる。
「ん?」
隙間から見えたのは、街の外に広がる森。
ただ、その距離は妙に近く感じる。
「ああ、なるほど。レンズが填め込まれているのか」
その理由は壁の隙間に一見しただけではそうと分からないようにレンズが填め込まれているからだ。
おまけに恐らくだがこのレンズ、何かしらの特性によって怪しいと思って見ないと、レンズの効果すらも現れず、在ることが分からないようになっているな。
「となると。この方角に向けて進めば還元の白枝がある。と、見るべきだな」
ここまでして隠すのであれば、まあ、十中八九この窓から見える何処かに、あるいはこの窓の方角に向けて直進することで還元の白枝が手に入る。
そう考えていいだろう。
引っかけは……まあ、考えないでおこう。
そうだった時は改めて考えればいい。
と言うわけで、俺は地図と一緒に窓からのスクショも撮っておく。
「えーと、そうなるともしかしなくても還元の白枝は……」
「北西の森の何処かにあるって事になるな」
「うわぁ……」
で、見える光景が森だけという事は北西の森の何処かに還元の白枝がある事になるが、実際の探索についてはシアが思っているほどに悲観しなくてもいいだろう。
と言うのもだ。
「そんなに心配しなくても、還元の白枝についての情報が得られるのは此処だけじゃないし、全ての工程を俺たちだけでこなす意味もない」
「と言いますと?」
「1の塔はグランギニョルたちが、2の塔はロラ助たちが攻略していると言う情報が入ってる。4の塔以降は難易度が高いから挑むのは厳しいが、グランギニョルたちの攻略が終わって、それぞれが得た情報をすり合わせればとりあえず還元の白枝が森のどの辺りにあるかぐらいは特定できるはずだ」
「なるほど。それなら……」
「ああ、後はまた全員で森の中に入って探索すればいい。な、思ったよりも悲観的になる必要はないだろ」
「はい、マスター!それなら何とかなりそうです」
「ようし、それじゃあ脱出するぞ」
「はい!」
そう言うわけで、俺たちは部屋の中に用意されていた扉に触れることで還元の白枝-3の塔を脱出。
その後すぐに、錬金術師ギルド・サハイ支部に戻ったのだった。




