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AIOライト  作者: 栗木下
8章:双肺都市-前編

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441:82-3-S23

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

『かつてこの地で人々は万物を壊しては造り出していた』


『還元の輪を止めず回し続けたが故に彼らは滅びた』


『彼らは知らなかった。自分たちが操る術の深奥を。決して疎かにしてはいけない物を』


『彼らは気付かなかった。腸から紅き流れに乗って押し寄せ汚染する悪意の流れを』


『彼らは理解できなかった。自分たちの身にどうしてこのような事が起きてしまったのかを』


『そう、彼らは自分たちだけは輪の外に居ると思って回し続けたが故に傲慢に至ってしまった』


『そして滅びの後に世界は選んだ。都市一つより生まれし獣を地の底にて眠らせる事を。思索無き者の手が及ばぬ場所にて還元の力を眠らせる事を』



■■■■■



【AIOライト 82日目 08:19 (半月・晴れ) WB3・『光力溢れる砂漠の神殿』】


「ふうん……」

 強い日差しが降り注ぎ続ける中、ボスである騎士たちを倒した事に伴うメッセージは流れていった。

 一応メッセージが異様に長くてもいいようにと日陰には移動しておいたのだが、この長さならそんな必要はなかったかもしれない。


「えーと、マスター。今のってどうしてサハイが滅んだのかについて、ですよね」

「ああ、その通りだな」

 さて、サハイが滅んだ理由だが……直接的な原因はケイカと同じであると考えていいだろう。

 ドウの地の中心部から何かが来て、それによって滅びたという事だ。


「その、還元の力と言うのは、還元の白枝の事ですよね」

「そうだな。還元についてはそれでいいと思う」

「じゃあ、獣と言うのは?」

「んー……レティクルさんの掲示板への書き込みによると、10の塔は地下に潜っていく仕様になっているらしい。となると……10の塔の最深部に都市一つ分の生命やら何やらを素材に錬金した化け物が眠っている。と言う事だろうな」

「それって下手に手を出したら拙いんじゃ……」

「心配しなくても10の塔は全100層。おまけに最初はレア度:2のモンスターだったのに、第11階層からレア度:3のモンスターに変わったと言う話もある。となれば最深部付近はレア度:10かそれ以上。つまりはアルカナボスの取り巻きクラスが普通に歩き回る魔境だ。手を出したい程度で手を出せる場所じゃない」

「あ、なるほど。それなら確かに大丈夫そうですね……」

 獣については考える必要もないだろう。

 そもそも全100層のダンジョンなんて、戦闘を抜きにしても、一ヶ月で突破できるか怪しい長丁場だからな。

 現状では万が一にも獣を起こすなど不可能だ。


「ま、今回のメッセージで個人的に一番気にするべきと言うか覚えておくべきなのは、俺たち自身も世界の一部であり、錬金術の素材となりうるものであり……壊れるものであるという点だけどな」

「え?」

 それよりも気にするべきは還元の白枝を使っていたものたちが何故滅びたかだろうな。


「当たり前の話なんだが、意外と認識していない奴は多いんだよ。形が在ろうがなかろうが、この世にあるものは何時か必ず滅び、終わりを迎えるって事はな。それを理解していなかったからサハイは滅びた。自分たち自身を錬金術の素材にしてしまうという終わりの形を以ってな」

 まあ、だいたいの経緯については察しが付く。

 事故か故意かまでは分からないが……ま、殆どの住人にとっては事故だろうな。


「……。滅びるというのは……マスターもですか?」

「そうだな。俺も何時かは滅びるし、グランギニョルもシュヴァリエもGMも、それにシア、お前にだって何時かは終わりは訪れるだろうな」

 と、こんな話をしていたためか、シアの表情はだいぶ暗くなっていた。

 ネクタールも気分が落ち込んでいるのか、どんよりとした色合いになっている。

 このままにするのは拙いな、うん。


「そんな顔をするな。シア、ネクタール。終わると言ってもそれは当分先の話だ」

「でも……」

「それに終わりと言ってもその形は色々だ。悲劇的な終わりは御免だが、幸せな終わりだってある。今を楽しんではいけないと言う事ではないし、未来を悲観しろと言う事でもない。錬金術が何かを終わらせることで新しい何かを始める術だとするならば、終わりの先には始まりがあるという事でもある。あー、だからそうだな。これだけははっきりと言おう」

 俺はシアの真正面に立って、シアの紫色の瞳を真っ直ぐに見つめながら語りかける。


「何を以って終わりとするかは自分で決めろ。それが出来てこその人であり、人である事を証明するために欠かせない意思でもある。ホムンクルスとか、モンスターとか、人間だとか、神だとかってのは関係ない。それだけが、人を人足らしめるものなんだ」

「……」

「と、なんか説教臭くなってきたな。これぐらいにしておくか」

 俺はシアから視線を外す、気が付けば部屋の中心部には白磁の門のような物が出現していた。

 どうやらあそこから次の場所……還元の白枝を手にするためのヒントが得られる場所に移動できるらしい。


【固定ダンジョン還元の白枝-3の塔をクリアしました】

【イベントエリアに移動するための扉が設置されます。好きなタイミングで退出ください】

 インフォが今流れたのは……まあ、空気を読んだからだろうな。

 あのGMならそれくらいのシステムは組めるだろう。


「シア、行くぞ」

「ボソッ……(人である事の証明……ホムンクルスである事は関係ない……マスターは私に……)」

「シア?」

「は、はい。今行きます。マスター!」

「どうしたんだ?」

「い、いえ、何でもないです」

「そうか。ならいいが」

 シアは……口では何ともないと言っているが、恐らくは俺の言葉について考えていたんだろうな。

 うーん、正直に言って俺らしくもなく饒舌に語ってしまった気がするからな……真に受けるなとは言わないが、少々不安でもある。

 不安でもあるが……どういう選択をするにしても、それがシア自身の選択であるならば、俺には受け入れる以外の選択肢はない。

 それだけは確かだろう。


「じゃ、行くぞ」

「はい、マスター」

「ーーー!」

 そうして俺たちは扉に触れて、この場を後にした。

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[気になる点] 『彼らは気付かなかった。腸から紅き流れに乗って押し寄せ汚染する悪意の流れを』 う○ちだ
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