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【AIOライト 81日目 17:42 (2/6・晴れ) WB3・『?火山の巣』】
「ゴゲー……」
「これでようやくか」
「ですね」
「ーーーーー……」
結局、?オストリッチたちを全滅させるのには一時間ほどの時間を必要とする事になった。
だがそれも仕方がない事だろう。
数が少なくなってぶつかり合う可能性が減った上に、こちらは同じ手段を何度も用いているのだから。
だから最後の数匹に関しては、普通に殴って仕留めることになった。
「で、マスター。残りはキメラですけど……」
しかし幸いなこともあった。
この巣マップだが、こちらが常時戦闘態勢だったことに加えて、部屋が狭い上に見通しが利いたおかげで、新たなモンスターがポップすることが無かったのだ。
そしてもう一つ幸いだったのは……
「グルルル……」「ベエエェェ……」「フシュルルル……」
「完璧に溶岩に落とされる事を警戒していますよね。アレ」
「良い事だ。おかげでこっちを妨害する方法の幅が狭まっているなんてレベルじゃなかったからな」
このマップで最も強力なモンスターであろうキメラが、溶岩の池の傍で戦う事を嫌い、周囲に溶岩の池が無い場所で待機し続けてくれている事だろう。
おかげで、こちらとしては獅子の頭から放たれる炎のブレス、山羊の頭が放つ電撃の魔法、蛇の尾から放たれる毒のブレスだけを警戒すればよく、回避や俺の視線による妨害は簡単に出来ていたし、FFを利用してオストリッチたちにダメージを与えることにも使えていた。
「これからはその制限もなくなりますけどね」
「まあな」
俺はシアを背中から下ろすと、数歩分前に出て武器を構える。
「さて……」
「はい」
「ーーー」
俺のHPは75%程、MPはキメラの妨害に魔力を視線に乗せて放つ事を繰り返していた事もあって、2回か3回撃てる程度か。
シアとネクタールも……HP以外は万全とは言い難い状況だな。
数字に出ない部分にもかなりの負担が来ている感じはあるしな。
「グルルル……」
「ベエェェェ……」
「シャアアアァァァァ……」
対するキメラはこちらの妨害を諦めて休憩に徹していたおかげだろう。
HPは全回復しているし、他の部分も十全な状態だ。
で、改めて確認してみるが、名称は??Lv.34で、HPバーはそれぞれの頭と胴体に付いていて計四本か。
どうやらヒュドラと同じで、頭一本落ちてもそれでお終いとはならないらしい。
「『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』『力を和らげよ』!」
「行くぞっ!」
「スゥ……」
シアの魔法がかかると同時に俺はキメラに向かって一気に駆け出す。
対するキメラも獅子の頭が大きく息を吸い込み、HPバーを少しだけ減らしつつブレスの構えを見せる。
「させるかっ!」
だから俺は視線に魔力を乗せて放つ。
「ブッ」
キメラの動きが止まる。
だがブレスの暴発はせず、そのまま飲み込まれる。
「ちいっ」
やはりオストリッチとやりあっている間に打ち込み過ぎていた。
キメラは完璧に俺の視線による攻撃を学習し、対応してきている。
しかし、接敵するだけの時間を稼げたのだから、大きな問題はない。
「ガアッ!」
「ぐっ」
キメラの前足が振り下ろされ、俺は短剣とネクタールの槍でそれを防御する。
キメラの一撃は……かなり重い。
今ので俺のHPバーは最大値の5%ほど減っている。
対するキメラの獅子の頭と胴体のHPバーも正体不明の特性の効果で僅かながらに削れているが……防御行動込みでこれは何度も受けていられるようなダメージではないな。
「ベアッ!」
「うおっ」
キメラの山羊の頭から電撃が放たれる。
俺は咄嗟に飛び退く事で直撃を避けたが、それでもHPバーは幾らか減っている。
山羊の頭と胴体のHPバーも減っているが……直撃した際の被害は考えたくない所だな。
「ブシュラアアァァァ」
続けて蛇の頭が毒のブレスを放ってくる。
「それは問題ない」
「ーーー!」
「ガルアッ!?」「ベギャッ!?」「ジャバッ!?」
が、特性:ワクチンの効果で一度は必ず防げ、更には直接のダメージを伴わない攻撃と分かっているので、毒霧の中で俺はオレンジ色の障壁が砕けるのを横目にネクタールと一緒に武器を振るい、一気にダメージを与える。
「『カース』!」
「「「!?」」」
更にその隙を突くように残り少ないMPを振り絞ったシアの『カース』がキメラの身体に直撃。
キメラに状態異常:カースを付与する。
恐らくだが、キメラの特性を考えれば状態異常:カースはきついなどと言う次元では済まないだろう。
「一気に攻める」
「グ、グルアアァァ!」
だから俺は一気に攻め込む。
対するキメラも防御を主体としてだが、果敢に攻め込んでくる。
「はははははっ!」
「グルアァ!」「ベェアッ!」「シャアァァ!」
俺は己を鼓舞するべく笑いつつ、斧と短剣をキメラの懐で振るい続ける。
それもただ振るい続けるのではなく、どうすれば少しでも効率的にダメージを与え、被弾を避けられるかを調べ上げつつ。
キメラはそんな俺を排除するべく爪を振るい、雷を放ち、三つの頭で噛み付いて来ようともするが、多くの攻撃は回避されるかネクタールの槍によって防がれ、通った攻撃もその一部は状態異常:カースによってキメラ自身に返っていく。
「ググル……」
「ベエエェェ……」
「ジュルルアアッ!」
「ぐっ」
そうしてやりあっている間に、遂にこの状況に耐えられなくなったのだろう。
獅子の頭と山羊の頭が同時にブレスと電撃の準備を始める。
そして、それの補佐をするように、蛇の頭が俺の肩に噛み付き、状態異常:ポイズンを付与しつつ動きを阻害しようとしてくる。
俺のHPは残り20%ほど、キメラのHPは10%以下。
なるほど、攻撃が通れば自分たちの勝ちで、攻撃が通らなければ自分たちの負けという状況だからこその博打と言うわけか。
「甘いな」
だが、その博打に勝ちの目はない。
既に陽も落ちているのだ。
それだけの時間やりあっていたならば、俺の目は多くの繋がりを捉える事が出来ている。
「ふんっ!」
だから視線に魔力を乗せて放つ。
獅子と山羊の頭自身ではなく、蛇の頭も含めて統括している胴体へ、全ての動きを制御している中枢へと。
「「!?」」
「ジャガッ?」
結果、獅子のブレスは暴発して喉元で爆発、山羊の頭は電撃のコントロールを失って自らを焼き、それらの衝撃によって蛇の頭の噛み付きも外れる。
「これで終わりだっ!」
「ーーーーー!」
そして俺は残った魔力を全て込めた斧を振るい、ネクタールも突き出せるだけの槍を突き出した。
「グ……」「べ……」「ジャ……」
そうしてキメラのHPバーは底を突き、地響きと共にその場に倒れた。




