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「マ、マスタアアァァ!?」
シアが叫ぶ中、俺たちの後方では大惨事が起きている。
「「「グ、グワアアアァァァァ!?」」」
「「「ーーー!?」」」
具体的に言えば、オストリッチの集団とエルフたちが衝突。
数と体重差によってエルフたちは押し出され、吹き飛ばされている……俺たちが飛び越そうとしている溶岩の池へと。
そうなれば……まあ、当然ながら助からない。
「大丈夫だ。ネクタール」
「ーーーーー!」
で、俺たちもこのままでは跳躍の飛距離が足りずに、?エルフたちの後を追う事になってしまうのだが、その前に俺はネクタールをグライダー状に展開。
溶岩の池を飛び越せるだけの距離を稼ぐ。
「さて……これで残りのエルフは三体、オストリッチは……一匹巻き込まれて落ちたか。で、キメラはゆっくりとこっちに来ていると」
「こちらの事を明らかに警戒してますよね。あれ」
宙に居る間に考えるのは、このマップの特性について。
名称は分からないが、HPを消費することで自らの行動を強化する特性、これでいいだろう。
と言うより他に思いつく内容が無い。
「それならそれで好都合……だっ!」
俺たちは無事に溶岩の池を飛び越して着地すると、即座に残りの?エルフたちの下に向かって駆け出す。
この状況下において最も危険なのは遠距離攻撃を数で放たれる事だからだ。
「「「ガガーグワー!」」」
「グルアァ!」
俺が駆け出すのに合わせて、オストリッチたちとキメラも行動を再開する。
その勢いはかなり速い。
「ーーー!」
「「……」」
「オストリッチたちの牽制は任せる」
「分かりました。『ブート』!」
だから俺はシアにオストリッチたちの勢いを削ぐように頼むと、?エルフたちの攻撃を勢いを殺さずに弾き飛ばしつつさらに前進。
一気に距離を詰めていく。
そうして十分に距離が詰まったところで……
「蹂躙するぞ。ネクタール」
「ーーーーー!」
「「「!?」」」
俺とネクタールは自身の攻撃でHPが削れていた?エルフたちのHPを一気に削り取っていき、一体ずつ確実に仕留めていく。
「『カースウッドキング・フォースハウル』」
「「「ガグワー!?」」」
途中オストリッチたちが突撃を敢行してこようとはしたが、そちらもシアの『カースウッドキング・フォースハウル』で防ぐことに成功。
どうにか無事に?エルフたちの殲滅に成功する。
「さて、これで残りは……」
「オストリッチ11にキメラ1です」
「「「ガガーグワー」」」
「フシュルルル」「グルルルル」「ベエエエェェェ」
で、残りはシアの言う通りなのだが……俺たちは見事に周囲を取り囲まれていた。
これまでの経験から今はこちらの様子を窺っているようだが……さて、それも何時までと言う感じだな。
「どうやり合いますか?」
「そんなもの決まっているだろ」
俺のHPは残り80%程で十分残っているが、ヘスペリデスの黒葉はなし、投擲武器と薬は相応に有り。
シアのMPもこれまでの戦闘で枯渇気味で、後はもう消費の軽い補助魔法と薬での支援に専念するしかないだろう。
ネクタールもHPの減りこそないが、疲労自体は溜まっているだろう。
つまり、この数とマトモにやり合える状況ではない。
「逃げつつだ!」
「ガグワ!?」
俺は適当な?オストリッチに一撃を当てて包囲網を突破すると、このフロアの各所にある溶岩の池の縁に沿う形で走り始める。
「ガグワアアァァ!」
「「「ガアアアァァァ!」」」
「グルアアアァァァ!」
すると当然ながらオストリッチたちも、キメラたちも俺たちの事を追いかけはじめる。
「シア、当てればいい。先頭のに向けて武器を投擲してくれ」
「……。はい、マスター」
勿論、ただ逃げているだけでは速度の差もあって何時か必ず囲まれ、今度は逃げる事も出来なくなるだろう。
「せいっ!」
「グワッ!?」
「「「グワワッ!?」」」
だから俺はインベントリからリジェネミスリルクリスを取り出すと、シアに投げてもらう。
そうして投じられたリジェネミスリルクリスは当たる当たらないにかかわらずオストリッチたちの行動を乱すだろう。
するとどうなるか?
「グ、グワー!?」
溶岩の池の近くを、集団で、勢いよく走っていて、その隊列が突然乱される。
こうなれば、脚を踏み外して溶岩の池に落ち、HPバーを全損させるオストリッチだって出て来るに決まっているのだ。
「よし」
「な、なんか凄く卑怯な……」
「正々堂々と戦っても勝てないから仕方がないな!」
「そ、それはそうですけど……キャアッ!?」
「グワッ!?」
当然、それでもオストリッチたちの方が足が速いから、何処かで俺たちは追いつかれる事になる。
だが所詮は駝鳥、空は飛べない。
「跳ぶぞ!」
「ーーー!」
「跳ぶ前に言ってください!」
追いつかれそうになる度に溶岩の池を飛び越してしまえば、距離は幾らでも引き剥がせるし、消費したスタミナも宙に居る間に十分回復できる。
これで後怖いのはキメラだが……
「グルアアァァ!」
「うおっ!?」
「キャアッ!?」
やはりそう全てが上手くはいかないらしい。
距離が離れていたおかげで当たらずに済んだが、俺たちの直ぐ近くをキメラの獅子の顔から吐き出された炎が通り過ぎて行っていた。
溶岩の池の真上に居る今直撃していたら……どうなっていたかの想像は難くない。
「気を抜くなよ。シア、ネクタール。まずはオストリッチたちを片付け終わってからだ」
「……。はい、マスター」
「ーーーーー」
だが、幸いにして今は外れた。
だからこのチャンスを生かすことにしよう。
そうして俺は再び走り始めた。




