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【AIOライト 81日目 11:45 (2/6・晴れ) WB3・『上位殺しの清流の洞窟』-ヘスペリデス】
「さて、どう作るか……」
ヘスペリデスに戻った俺たちは、時間も丁度いいという事でシアは昼食の準備に、ネクタールは休憩に入った。
で、俺はと言えば……ミデンの前で悩んでいた。
特性:ワクチン付きのアイテムを作るのまではほぼ確定でいいのだが、具体的にどう作るのかが思いつかなかったからだ。
「ご主人様ー、こちらを参考にどうぞー」
「ん?ああ、ヘスペリデス内で採取出来たアイテムか」
「はいー、結構色々と採れてますよー」
と、ここで神殿の外から声をかけてきたラードーンが俺の前に一つのウィンドウを表示する。
そこには百を超えるアイテムが種別、名前、特性でソートされた上で表示されていた。
「ふうむ……」
めぼしいアイテムは……まあ、色々とある。
特性:ディスペルと特性:オトガが付いた破魔のヘスペリデスの黒枝とか、特性:ハイドと特性:アブソーブの付いた秘匿するヘスペリデスの樹脂とか、それから特性:ヌルに特性:バーサークが付いた『非存在性・』狂戦士のヘスペリデスの朝露なんてものも……ん?
「朝露?液体だよな。容器はどうしたんだ?」
「容器ですかー?」
俺の記憶が確かならと言うか、『AIOライト』の仕様上液体のアイテムを採取するには何かしらの容器が必要になるはずである。
ラードーンは一体容器をどうしたのだろうか?
「容器でしたらー、ご主人様がー、使っても問題ないと仰った素材から作ってみましたー」
「ああ、そう言えばそんな許可も出してたな……」
どうやら容器はラードーンあるいはミニラドンの自作であるらしい。
まあ、使っても問題のない素材を使って、有用な素材を入手できたのだから問題がないどころか、美味しいぐらいか。
そうやってラードーンたちが加工をしたアイテムをさらに別の何かに使っている事は無いみたいだしな。
特性:ヌル付きのアイテムを採取出来てしまっている点については……まあ、リアフ・ラードーンだからでいいだろう。
「なるほどな」
と言うわけで、俺はとりあえず有用なアイテム以外は再びラードーンたちに使用許可を出し、有用そうなアイテムは昼食の後に神殿まで持って来させることにした。
さて、昼食を食べて頭が回ったら、作るアイテムが思いつくと良いんだがな。
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【AIOライト 81日目 12:37 (2/6・晴れ) WB3・『上位殺しの清流の洞窟』-ヘスペリデス】
昼食後。
「うーん……」
俺は再びミデンの前で唸り、悩んでいた。
幸いにして時間はたっぷりとある。
『還元の白枝-3の塔』には制限時間が無いし、シアからもマスターの錬金が終わるまで待つので大丈夫ですと言ってもらえているからだ。
だが、この手の問題は……時間をかけるのではなく、閃きの方が重要だからなぁ。
「とりあえず詳細を見てみるか」
俺はラードーンが運んできてくれた三つのアイテムの詳細を見てみる。
△△△△△
破魔のヘスペリデスの黒枝
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ディスペル(魔の力を打ち砕く)
オトガ(自動的に攻撃を防ぐ)
携帯工房・ヘスペリデスにて採取された黒い樹皮を持つ枝。
その身に膨大な量の魔力を秘めており、取り扱いには細心の注意が必要になる。
▽▽▽▽▽
△△△△△
秘匿するヘスペリデスの樹脂
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ハイド(認識しづらく、人目に付かない)
アブソーブ(力を奪い己の血肉とする)
携帯工房・ヘスペリデスに存在する大樹から採取された樹脂。
その身に膨大な量の魔力を秘めており、取り扱いには細心の注意が必要になる。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『非存在性・』狂戦士のヘスペリデスの朝露
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:バーサーク(猛り狂う者に祝福を)
『ヌル(存在しないはずの物質)』
携帯工房・ヘスペリデスに存在する大樹から採取された朝露。
夜が開けきるかどうかというタイミングで採取されたこの雫は、その身に莫大な量の魔力と想念を秘めており、取り扱いには細心の注意が必要になる。
▽▽▽▽▽
「ふうむ……」
繋がりは……まあ、色々と見えている。
とりあえず『非存在性・』狂戦士のヘスペリデスの朝露、バーサークオーヴリング、ワクチン?の欠片の間に繋がりは見えている。
だがこちらについてはワクチン?の欠片が未識別なのに加えて、まだアイテムが足りないようだから、一先ず放置でいいだろう。
早くてもダンジョン脱出後に考えるべき話だ。
「問題はこっちか」
そして残り二つのアイテムにも繋がりは見えている。
破魔のヘスペリデスの黒枝はワクチンラミアの鱗と上位殺しの苔との間に繋がりが見えている。
秘匿するヘスペリデスの樹脂はピアースミノタウロスの皮とワクチンレオパルドの毛皮との間で繋がりが見えている。
しかしこの繋がりは……厄介だな。
「……。複雑な絡み合い方。片方だけを紐解こうとすれば、両者ともに破綻する」
俺の目にはこれらのアイテムの間に存在する繋がりが非常に複雑かつ密接に絡み合っているのが見えた。
それこそ、この二つの繋がりから生み出されるアイテムには優劣が付かないように作らなければならないという程に。
「二つ同時……か。二つ同時……な」
となれば、二つ同時に別のアイテムを作らなければいけないのだろう。
それはつまり右手と左手で別々に作業しろと言う事だが……まあ、理論上は出来るか。
文の発声についても、口と魔力でやればいいだけだしな。
それに……副案と言うか、ミニラドンやグランギニョルの事を考えれば、一つ思いつく事もある。
後はそれをGMが許容するかどうかだが……。
「お、メッセージか」
『神殿の中に限れば今考えているそれをやっても構いません。外でやる場合は、『AIOライト』の外側が関わらない限りは禁止です』
「ん、了解。なら遠慮なくさせてもらうか」
どうやらGM的には問題なしであるらしい。
であるならば、遠慮なくさせてもらうとしよう。
そして俺は集中力を高めるべく、カプノスをインベントリから取り出すと、ゆっくりと昨日採取した分のヘスペリデスの黒葉を刻み始めた。




