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AIOライト  作者: 栗木下
8章:双肺都市-前編

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429:81-5-S11

【AIOライト 81日目 11:14 (2/6・晴れ) WB3・『上位殺しの清流の洞窟』】


「ふうん、清流の、だったか」

「透き通った水の流れ……確かにそうですね」

 第八階層の探索を始めて暫く。

 俺たちの前で通路が若干の下り道に変化し、足首が浸かる程度までではあるが、綺麗な水が通路全体を覆うように、壁の中から壁の中へと流れていた。

 これが湿地のであれば、水は溜まって流れておらず、濁ってもいただろうから、この階層の自動生成ダンジョンの名前は『上位殺しの清流の洞窟』で確定である。


「さて問題は……」

 俺は水場に近づくとしゃがみ、指先だけを水の中に入れてみる。


「……」

 水は……冷たい。

 それも気持ちのいい冷たさと言うレベルではなく、凍りつく直前の刺すような冷たさを持っていて、こうして指先だけで触れているにも関わらず、全身から体温を持って行かれるような感覚がある。


「マスター?」

「シア、悪いがこの水に触ってもらえるか?ネクタールも頼む」

「あ、はい」

「ーーー」

「どうだ?」

 俺は清流から手を引くと、シアとネクタールにも清流に触れてもらう。

 そして二人に触った感想を尋ねてみる。


「どう……と言われても、極々普通の澄んだ水ですよ」

「ネクタールもか?」

「ーーーーー」

 シアは俺が何をおかしく感じているのか分からないという表情を、ネクタールは水を吸ったのが気持ち悪いと言った感じの色合いを出している。

 だが、二人ともそれ以上の感想はないようだ。

 となれば……確定か。


「あの、もしかしてマスター」

「ああ、俺は普通の水だと感じなかった」

 俺はこの水に触れて感じた事を二人に話す。

 そしてこの感覚差が恐らくは特性:キルエルダに由来するものである事も話しておく。


「つまりマスターは上位種族扱いになっているという事ですか?」

「そう言う事になるな。まったく、妙な物を勝手に付けてくれたものだ」

「……」

 それはつまり俺の種族に人間以外の何かが混ざっている事を表してもいるのだが……まあ、そこはGMの悪ふざけと言う事にしておこう。

 シアがエフィルたちの事を知って巻き込まれるよりは、GMからの呪詛入り視線を受け取っている方が遥かにマシだ。


「でもそうなると、探索はどうしますか?」

「そこは出現する敵次第。と言う所だな」

 一応、手持ちのアイテムのストックは十分に有るので、今から最初の部屋に戻ってアイテムを捧げ、ここ第八階層を突破する事は出来る。

 だが、俺に対する敵や罠の力が強化され、危険が増す事を勘定に入れても、特性:キルエルダは確保しておきたい特性である。

 特性:キルエルダの対象に含まれるモンスターは、基本的に厄介な物ばかりだからだ。


「と言うわけで、今まで以上に気を付けていくとしよう」

「分かりました。マスター」

 そう言うわけで、俺たちは普段以上に注意を払いつつ探索を行う事にした。



----------



【AIOライト 81日目 11:22 (2/6・晴れ) WB3・『上位殺しの清流の洞窟』】


「ー……」

「ん?」

「何かの鳴き声ですね」

 で、探索すること数分。

 通路の途中にあった採取ポイントで上位殺しの苔と言うアイテムをゲットした俺たちの耳に何かの生物の鳴き声が聞こえてくる。

 どうやら何かがこちらに近づいてきているらしい。


「あの、マスター。この音って……」

 足音も聞こえてくる。

 そう、まるで四本をはるかに超える本数の脚先に付いた鉤爪で、足元の岩を蹴るような足音が聞こえてくる。


「……。ボス個体ではないが、ボスのつもりでいくぞ」

「はいマスター」

「ーーーーー」

 足音は徐々に大きくなり、やがて通路の曲がり角の向こうからそれが姿を現す。


「ハルウウゥゥキイィィ……」

 そう、七対の鉤爪付きの脚を巧みに操り、雷を纏った棘を背中に生やした奇妙極まりない生物……キルエルダハルキゲニアLv.32が姿を現した。


「ゲニャアアァァ!」

「来る……ぐっ!?」

 キルエルダハルキゲニアが俺たちに向かって突っ込んでくる。

 当然、俺は武器を構えて、それに対応しようとする。

 だがそれよりも遥かに早く俺の視界が歪み、平衡感覚がおかしくなり、しっかりと両足で立っている筈なのに、倒れているような感覚がもたらされる。

 視界の左上に表示された状態異常の名前は状態異常:パニックであり、発生した原因はキルエルダハルキゲニアを目視した事で間違いない。

 しかし、その強さは『防御する幻惑蟲の王』のそれとは比べ物にならない程強力な物だった。


「だったら……ネクタール!」

「ーーー!」

 俺は目を瞑る。

 その上でネクタールを俺の全身に巻き付かせる。


「ゲニャン!」

「ーーー!!」

 そしてネクタールに俺の身体を操らせ、キルエルダハルキゲニアの放った何かしらの攻撃を両手の武器で防ぐ。


「『癒しをもたらせ』『大地の恩寵をその身に』!」

「ハルキィ!ゲニャン!」

「ーーーーー!!」

 肌の感覚だけでネクタールが何を求めているのかを察し、ネクタールが動かしやすいように筋肉を動かすと言うのはかなり難しいが、それでも何とか体は動いている。

 戦況の把握が出来ないのもつらい事だが、そちらはシアとネクタールに任せるしかない。


「ーーーーー!」

「ゲニャアァァ……」

 そうして戦い続けること数分。

 何度か電撃を受け、状態異常:パライズに状態異常:アムネジアも受けたが、どうにか倒す事には成功したようだった。

 で、ネクタールの巻き付きを解除し、キルエルダハルキゲニアの鉤爪と言うアイテムを回収した俺は一つ決断した。


「一度最初の部屋に戻ろう。で、ヘスペリデスで対策アイテムを作って来よう」

「分かりました。マスター」

 この階層は探索する。

 だが準備は万全にするべきだと言う決断を。

 最悪詰む可能性もあるが……このまま探索を続けるよりは、こちらの方が探索の成功に繋がると判断してのことである。

07/05誤字訂正

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