427:81-3-S9
「グルアッ!」
「うおっと!」
さて、今までモンスターを呼び寄せていたワクチン?……正式名称不明の思念体の姿は現れた。
だが、敵は思念体だけではなく、ワクチンレオパルドとワクチンラミアも居る。
なので俺は思念体から視線を外すと、他のモンスターたちの攻撃に対処。
「キャハッ!」
「魅了は御免だ」
「グルアァ!」
「ーーーーー!」
ワクチンラミアの爪の攻撃は可能な限り避けて、状態異常:チャームにかからないように。
逆にワクチンレオパルドの攻撃はネクタールと協力して積極的に受け止めつつ、受け方を工夫してもう一匹のワクチンレオパルドが同時に攻撃を仕掛けられないようにする。
「ああえうぅいいおおぉぉ!」
「ぬぐっ……!?」
「マスター!?」
そうして他のモンスターに対応していると、思念体が腕らしき部分を動かすのと同時に俺の胸の辺りで妙な圧力が発生。
それに伴う形で俺のHPバーが1%程だが確かに減る。
「ウザい!」
ダメージ自体は大したことはないが、このまま思念体を放っておくとウザったい事になる。
そう判断した俺は思念体に向けてリジェネミスリルクリスを一本投擲する。
だが……
「……」
「んな!?」
俺の投げたリジェネミスリルクリスは思念体の身体をすり抜けると、そのまま思念体の背後にある壁に突き刺さる。
思念体のHPバーに動きはない。
だが代わりにほんの少しだけ、身体が膨らんだように感じた。
「物理無効。だったら……『ブート』『カース』」
俺の攻撃が貫通した事から思念体がゴースト種のように物理攻撃を無効化する能力を有していると判断したシアが魔法を打ち込む。
だがどちらも思念体の身体をすり抜け、思念体の身体を少し膨らませるだけで、他には何の効果も見られない。
「マ、マスター!?」
「だったら……」
どうやらこの思念体、かなり特殊な部類のモンスターであるらしい。
だがこちらの攻撃によって身体が膨らむというのであれば……倒し方が一つ浮かばなくもない。
だから俺はその考えを実行するべく、ワクチンレオパルドの攻撃を防ぎつつ、顔を思念体の方に向ける。
「これでどうだ!」
俺の目から大量の魔力と殺意が放たれる。
「おぁあいうぇ!?」
それを受けた思念体は一瞬にして風船のように全身を膨らませる。
「あああぁぁあいいぃううぇえぉおあ!?」
「ぐっ!?」
「キャッ!?」
「ーーー!?」
「「「!?」」」
そして周囲に魔力と衝撃波、それから俺のものに酷似した殺意を撒き散らしつつ弾け飛び、HPバーを消滅させた。
「よし、これで……」
明確な原理は分からないが、とにかくこれで思念体は倒した。
残りはワクチンレオパルド二体にワクチンラミアのみ。
そう判断した俺は顔をワクチンレオパルドの方へと戻す。
「「「……」」」
「気絶してますね」
「んんー?」
が、何故かその時にはワクチンレオパルドもワクチンラミアも口から泡を吹き、状態異常:スタンにかかって倒れていた。
状況から察するに思念体が弾け飛んだ時の影響でこうなったのだろうが……どういう事だ?
「とりあえず倒すか」
「そうですね」
まあ、モンスターが詳しい原因を語ってくれるわけでもなし。
楽に倒せる内に倒してしまう事に越したことはない。
と言うわけで、俺はワクチンレオパルドたちをさくっと倒し、アイテムを剥ぎ取り。
そして新たなモンスターが来ない事を確認すると、安全確保の為に一度ヘスペリデスに入る事にした。
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【AIOライト 81日目 07:43 (2/6・晴れ) WB3・『抗体作る機械の屋敷』-ヘスペリデス】
「それでマスター。結局さっきのアレは何だったんでしょうか?」
「んー、とりあえず俺は思念体と呼ぶことに決めたが……何だったんだろうな?」
ヘスペリデスに入った時点で、今日回収したアイテムは全てダンジョン進行の為には使えなくなったと言っていい。
が、それよりも重要なのは先程戦ったアレが何だったかである。
と言うわけで、掲示板に書き込みを行い、俺自身でも情報を探ってみるが……該当する情報は見つかる感じはなかった。
【ゾッタの戦闘レベルが31に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「と、レベルアップか」
そうしているとレベルアップのインフォが流れる。
なので俺はいつも通りに回復力を上昇させておく。
△△△△△
ゾッタ レベル31/35
戦闘ステータス
肉体-生命力20・攻撃力10・防御力10+3・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7+6・回復力36+12・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10・光属性7・闇属性10
分類-武器類20・防具類15・装飾品15・助道具20・撃道具15・素材類15
▽▽▽▽▽
「んー、インベントリに妙なアイテムが入ってるな」
「さっきの思念体のですか?」
「たぶんそうだと思う」
インベントリの中にはワクチン?の欠片と言う見慣れないアイテムが入っていた。
状況から察するにあの思念体が落としたアイテムだろう。
それはいいのだが……
△△△△△
ワクチン?の欠片
レア度:3
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ワクチン(状態異常に対する守りを得る)
未識別状態のため、詳細は不明。
▽▽▽▽▽
「えーと、何なんでしょうか?これ」
「うーん……」
インベントリから取り出して手に持ったワクチン?の欠片は、奇妙としか言いようのない物質だった。
外見としては、思念体の身体と同じように輪郭部分だけが薄い靄のような物で見えている手のひら大の石と言う所だ。
質量は感じないが、持っているという感覚はある。
それに何かしらの力……いや、意思のような物は感じる。
何と言うか、こうして見る感じではヘスペリデスの黒葉の劣化版あるいは廉価版、という感じもしなくはない……か?
とりあえず奇妙極まりない物質である事だけは間違いない感じである。
「とりあえずこれについてはインベントリで、他のアイテムはヘスペリデスの中に適当に置いておこう」
「分かりました。マスター」
きっとダンジョンから脱出できれば、このアイテムの正体も分かるだろう。
そう判断した俺は先に進むべく、ヘスペリデスの外に出た。
そして、その後は特に何事もなく、アイテムを回収し終え、第五階層を突破した。
07/03誤字訂正
 




