415:79-3
本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
【AIOライト 79日目 12:36 (新月・雪) 還元街・サハイ】
「せいやっ!」
「ふんっ!」
地下通路の探索は比較的順調に進んでいる。
今の所出現しているモンスターは新月の影響もあって全てノンアクティブであるし、狭い通路を塞ぐように存在しているモンスターに関してもシュヴァリエとグランギニョルの攻撃によってだいたいが呆気なく散っていくからだ。
と言うか、見た限りでは出現するモンスターのレベルは30前後であるし、この分ならば俺、シア、ネクタールの三人だけでも戦う事は問題ないだろう。
「まったく、プレンスライムと言い、プレンオクトパスと言い、道を塞ぐように出現しているモンスターが多過ぎよ」
「おまけにプレンスライムだと剥ぎ取りもボトルが無いと大抵できないから、旨味も少ない感じだよねぇ」
「プレンスライムの場合、武器の腐食やMPの消費と言う問題もありますので、出来るだけ出現は控えて欲しいところではありますね」
なお、出現しているモンスターの面子としては、プレンスライム、プレンスケルトン、プレンオクトパス、プレンシェル、プレンマウスといったところだが、この中で圧倒的に不人気と言うか面倒なのがプレンスライムである。
なにせプレンスライムと言うか、スライム種は核である真球部分以外は全てが酸性かつ粘性を持つ液体であり、物理攻撃がとにかく通り辛い上に触れただけで装備品含めてダメージを受けるという厄介者である。
幸いにしてこのPTにはシアにグランギニョルと言う魔法攻撃を行えるメンバーに加えて、正確にスライムの核を撃ち抜いて即死させられるレティクルさんが居るのでどうという事はないが、通常のPTならば素直に地上を移動した方が効率が良いぐらいかもしれない。
ちなみに剥ぎ取りはプレンスライムの体液などだが……液体系アイテムなのでボトル所持が必須である。
そう言う意味でも、不人気なのは妥当だろう。
「と、そこの角を曲がったところだな」
「そこだね」
と、ここでようやく安全地帯と思しき領域の前にまで俺たちはやってくる。
「鉄製の扉。鍵は……開いているみたいね」
そこに有ったのは鉄製の扉で、此処までの通路で見掛けてきた他の扉や窓枠の類と違い、腐食も劣化も見られない。
「開けるわよ」
「分かった」
グランギニョルがゆっくりと扉を開け、その先の灯りの無い空間へとソテニアを一体送り込む。
「問題ないわ。入って」
そしてソテニアの後に続く形で俺たちも扉の向こう側の空間へと足を踏み入れる。
で、全員が入ったところで扉を閉める。
「いらっしゃいませ。こちらは錬金術師ギルド・サハイ支部にございます」
扉を閉めると同時に、部屋の中に無数の灯りが生じて、部屋の中を明るくする。
それと共に俺たちの前に執事服にピエロのメイクを施した珍妙な姿の人物が現れ、こちらの様子を窺う気配を見せつつ、一礼をする。
「まあ、見ての通り壊れかけ、廃棄されかけの設備でございます。やれることもたかが知れている場所ではございますが、それでも皆様のような勇気ある錬金術師様の仮宿として使える程度には整えてありますのでご安心して、どうぞご自由にお使いくださいませ」
「「「……」」」
どうやら此処サハイのNPCとケイカのNPCでは、だいぶ毛色が異なるらしい。
と言うか、壊れ具合で言えばこちらの方がより壊れていると言えるかもしれない。
「少し質問をしても?」
「どーぞどーぞご主人様」
俺はグランギニョルがNPCに質問する中、部屋の中を見渡す。
部屋の中に在るのは……倉庫ボックスに、転移ポータル、修理結晶の生成装置、うん、一通りそろっているな。
「ふうん。つまりサハイでしか手に入らない物としては、還元の白枝と言う物があるのね」
「正確に申し上げますならば、還元の白枝の手がかりにございます。還元の白枝そのものは北西の森か北の雪原の何処かにあると聞いております故」
「還元の白枝?」
「還元の白枝と言うのは、錬金術の炉の中に溶かし込むことによって、位階低き物の命を積み重ねることによって、所有者の知る位階高き物を作り出す事が出来るようになる神秘の枝でございます。修理結晶の生成装置、アレも根本を辿れば還元の白枝の力を利用したものなのです」
「なるほど」
還元の白枝……ケイカで言う所の結界石に当たるアイテムか。
で、NPCの言っている言葉を訳すならば……レア度の低いアイテムを複数個投入することによって、レア度の高いアイテムを作り出せるようになる、という事でいいんだろうな。
尤も、一度入手したことがある、ぐらいの条件は付いていそうだし、それ以外にも色々と造り出せる物の制限はありそうだが。
「分かったわ。ありがとう。それじゃあ全員ポータルに登録をしておきましょう」
「ああそうだな」
「これで一安心ですね」
還元の白枝が入手するべきアイテムかは少々微妙なところな気がするが、今はまだ考えなくてもいい事か。
俺は内心でそんな事を考えつつ転移ポータルに触れて、転移先にサハイを登録。
これで今回の遠征の目的は一先ず果たしたと言っていいだろう。
「それじゃあ、今日はこれで解散。後は自由行動と行きましょう」
「分かった」
「はーい」
「分かりました」
「了解です」
「……」
そしてPTも解散となったが、結局全員でヘスペリデスに移動。
俺以外の面々は少々名残惜しそうにヘスペリデスでの生活を堪能するのだった。
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【AIOライト 79日目 23:47 (新月・雪) ???】
「あー、あー、チェクチェク。マイクチェック。よし、問題なし」
「『AIOライト』開始から丸79日になります。では、現在の状況について口頭にて記録を行います」
「サハイ及びウハイが発見されました。サハイとウハイのクエストは攻略してもしなくても問題ないものなので、どう選ぶのかも含めて、要観察対象と言えるでしょう」
「サハイの発見者はグランギニョルが率いるPTで、例のプレイヤーも居ます」
「ウハイの発見者はローエンが率いるPTで、本人たちの実力と運が組み合わさった結果、最短ルートにかなり近い道筋で到達できたようです」
「新規組の攻略、既存組の底上げもだいぶ進んでいます。良い傾向ですね」
「賢者の石の作成については……今の所候補は多く見積もって10人ほど、少なく見積もれば2人ほどでしょうか。そのほぼ全てに例のプレイヤーが関わっているのは頭の痛い点ではありますが……まあ、過度ではない程度に干渉をしてあちら側に流れないようにするとしましょう」
「では、今回の記録を終わります」




