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【AIOライト 79日目 10:27 (新月・雪) 還元街・サハイ】
「さて、それじゃあ、色々と確認しましょうか」
サハイに入った俺たちは、新月でノンアクティブではあったが、手近な場所に居て、こちらの存在に気付いたモンスターを出来る限り手早く倒すと、近くの建物の中に入り込んだ。
そして、敵の増援が無い事を確認すると、此処からどうするかを話し合う事にした。
「まず街の名前は還元街・サハイ。私たちが探していた新たな都市で間違いないわ」
「そうだね。その点については間違いないと僕も思うよ」
街の名前は還元街・サハイ。
トウの地の向きを考えると、左肺が北側にあると言うのは中々に嫌な光景を思い浮かべることになる情報ではあるが、この点については現状で気にする点ではないので、気にしないでおく。
「徘徊しているモンスターは鳥型と水棲型が多い感じですかね?」
「そうですね。上空から観察した限りでは、その二系統に加えて物質系と不死系も見られましたが、主体となっているのはそれでいいと思います」
出現するモンスターの種類としては、俺が認識できた範囲ではプレンクロウにプレンフィッシュが見えていた。
また、今はもう出していないが、ホムンクルスを使って上空から状況を確認していたミストアイランドさんによれば、プレンスケルトンやプレンアームらしき姿も見えたし、他にも何種類かモンスターの姿が見えたそうだ。
「目標はギルドか?」
「そうね。まず第一に目指すべきは街の何処かにあるであろう錬金術師ギルド、そこで転移ポータルの登録をする事よ。それさえ出来れば、死に戻りをしても帰って来られるようになる」
「重要ですね」
サハイの中でまず目標とするべきは街の何処かにあるであろう生き残っている錬金術師ギルド。
より正確に言えば、転移機能の登録先を増やす事。
グランギニョルの言うとおり、これを見つけられなければ探索などとてもじゃないが出来たものではない。
「まあ、そんなわけでゾッタ兄にまずは確認ね」
「なんだ?」
と、ここでグランギニョルが俺に話を振ってくる。
「ゾッタ兄の目から見て、安全圏と思える場所は見える?」
「ああ、その事か」
どうやらグランギニョルはケイカで俺が錬金術師ギルドを始めとした安全圏を見つけ出した時のことから、俺の目ならば何か手がかりが掴めるかもしれないと考えたらしい。
「そうだな……」
なので俺はゆっくりと、モンスターに見つからないように気を付けつつ、建物の入り口から顔だけを出して周囲を一通り見てみる。
「どう?」
「どうですか?マスター」
「師匠……」
「んー……」
サハイは雪に覆われた廃墟である。
雪の重みによってか、それとも大地に大きな傷をつけた何者かの仕業かは分からないが、石造りの建物であっても幾つかの建物は見る影もない程に崩れてしまっている。
ランドマークになりそうな塔こそ幾つか見えるが……アレは駄目だな。
むしろ他よりも危険な気配すら感じる。
と言うか、地上全体が危険なように感じる。
モンスター的な意味でも、天候的な意味でも、だ。
「地下があるな」
そんな中でも少しでも安全な場所となると必然的に地下になるわけだが……ああ、あるな。
地上のモンスターの動きの繋がりと、気配をよく見ていると、数か所地下に何かがあるんじゃないかと思える場所がある。
「やっぱりチートじゃないですか?これ」
「GM曰く仕様の範囲内よ」
「なんだ、地下があるのに気づいていたのか」
どうやらグランギニョルとミストアイランドさんは既にサハイに地下がある事に気づいていたらしい。
なら、言ってくれても……いやダメか、グランギニョルたちにしてみれば、俺の目は不可思議な物で、自分たちの持っている情報を与えるのは余計な行為、下手をすれば邪魔になると考えたら、言うことなど出来ないか。
「えーと、自分はよく分からないですけど……つまり、サハイには地下があって、そこに錬金術師ギルドがあるって事でいいんですか?」
「少なくとも地下に妙な気配を放っている空間があるのは間違いないな」
「地下に空間がある事は把握しているわ」
「音の反響具合からして、地上の街と同じかそれ以上の規模の空間が地下にある事は間違いないですね」
ロラ助の言葉に俺、グランギニョル、ミストアイランドさんの三人は揃って肯定の言葉を返す。
そして、俺たち三人の言葉に他の面々は感心した様子を見せる。
「そうなるとまずは地下への入り口を探さないといけないわけだね」
「それについてはたぶん、適当に大きめの建物を探せば見つかるわよ。地下がこの規模なら、間違いなく街全体の共有財産みたいなものだもの」
「となると……アレか」
「そうだな、アレでいいと思う」
俺とレティクルさんは建物の窓から同じ建物を見つめる。
その建物は俺たちが居る場所の近くでは一番大きな屋敷であるように見えた。
あの規模の建物なら……まあ、間違いなく無事な地下への入り口の一つぐらいはあるだろう。
「それじゃあ、行ってみましょうか」
そうして俺たちは再び移動を開始する。
そして俺たちの予想通り、屋敷には地下通路への入り口があった。
尤も、その地下通路は……
「うわー……」
「これは……一種の迷宮ね」
「なるほど、厄介だね」
「ま、地上の状況を考えれば妥当だけどな」
迷路のように複雑に入り組み、
「「「ブニュブニュ」」」
「「「カラカラ」」」
「「「ニュニュロ~ン」」」
大量のモンスターが徘徊し、
「まるで崖ですね」
「一体何があったのやら……」
地上から刻まれたクレバスによって幾つかの通路が寸断された、下手な自動生成ダンジョンよりも複雑な地下通路だったが。
06/23誤字訂正




