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【AIOライト 77日目 10:35 (2/6・雨) ドウの地・北西の森-ヘスペリデス】
「これでだいたい出来上がった感じか」
作業を続けること約二時間。
俺が作った数の総数は50を超え、その内容もタンス、ベッド、机に椅子、食器など実に様々だった。
作った端からミニラドンたちがヘスペリデスの何処かに持って行ってくれたので神殿の中は空いているが、もしもミニラドンたちが居なければ今頃ミデンが置かれている神殿の中は物で溢れかえっていただろう。
そして、これだけの数の家具が出来上がったのであれば、まあ一先ずどの部屋も見て使えるようにはなったと思う。
これでもまだ足りないというのなら……まあ、自分で作ってもらうか、暇を見て作るでいいだろう。
「さて……ん?」
時間も丁度いい頃合いであるし、これで作業を終えて昼食を待つ。
俺はそう考えてその場から立ち上がろうとする。
が、視界の端に入ったそれを見て、動きを止める。
「回復力溢れるヘスペリデスの黒枝か」
恐らく何処かのタイミングでミニラドンが採取し、神殿にまで持ってきたのだろう。
神殿の片隅に回復力溢れるヘスペリデスの黒枝が落ちていた。
所持している特性は……特性:リジェネと特性:アブソーブか。
「ふむ?うーん……」
この回復力溢れるヘスペリデスの黒枝だが、何故か俺のインベントリに入っているリジェネミスリルクリス、それに一昨日辺りに回収したプレンゾンビの骨との間に繋がりを生じさせている。
これならばレア度:PMの何かが出来るだろう。
出来るだろうが……
「なんか今回のは作れって言われている感じがあるな」
何となく普段俺が見ている繋がりと今回の繋がりは違う気がする。
いやまあ、繋がりには変わりないので作ることに躊躇いはないのだが、奇妙な気配は感じる。
「まあ、作っておくか」
俺はインベントリから必要なアイテムを取り出すと、ミデンの中に投入。
そして神殿中に魔力を充満させつつ、ミデンの中に左腕を突き入れて、直接魔力を注ぎ込む。
「これは……」
そこで気づく。
今回作るこれを誰が求めているのかを。
「まあいいか。何時も世話になっているのですから、全力でお作りしましょう」
俺は笑みを浮かべつつ注ぎ込む魔力の量を増やす。
それに合わせてミデンに投入した三つのアイテムも溶けて混ざり合い、神殿全体に及ぶように魔力と煌めきの渦が生じ始める。
「錬金術師ゾッタの名において告げる」
黒と白の輝きが満ちる中で俺は言葉を紡ぎ始める。
「楽園の黒枝、亡者の遺物、我に連なる魔銀、今この時を以って汝らが旅路は終焉を迎える」
言葉を紡ぐためには息を吸う必要があり、息を吸えば必然的に煌めきも体内に取り込むことになる。
「魔銀にて葉は燃え、誘う。黒枝の筒は全ての想念を逃さず流す。それを繋ぐが亡者であったもの。故にそのものは現世に有りながらきわめて隠世に近しきものとなる」
すると、取り込んだ煌めきの量に応じるように俺の中に亡者の念が、好悪両方の感情が流れ込んでくる。
「一時の快楽を求めたが為に、人は御身に近づく。それはまるで火に近づく羽虫がように」
だがそんな物は今更だ。
耳を傾けこそするが、その要求に俺の心が揺さぶられるようなことはない。
「これは苦痛を祓う物ではない。安らぎを得る物ではない。御身に近づく事を対価として一時の忘却と言う名の快楽を得るためのものである」
だから俺は言葉を紡ぎ続ける。
「大火は燻る。魔銀の皿にて、肺腑にて、吸う物の周囲にて。それはやがて御身の前へと連れて行く見えざる炎」
言葉を紡ぎ続け、魔力を注ぎ込み続ける。
生み出そうとしている物の姿を明確に頭の中で思い浮かべつつ。
「認めよ。改めよ。従えよ。静まれ。鎮まれ。調べ調和させ形を成せ。汝こそは御身に捧ぐ品。亡者の葉を燻らせ、忘却の快楽と共に御身へと誘う使徒」
そしてミデンの中に入れている俺の左手にそれが触れる。
「さあ、我が前に姿を顕せ。カプノス」
だから俺はゆっくりと引き上げた。
黒い木製の筒にくすんだ銀の皿と吸い口を持つ一本の煙管を。
その煙管にくっつくように現れた赤と黒と銀の色で彩られた小さな箱を。
「ふぅ、出来たか」
そうしてカプノスを引き上げると同時に、ミデンから現れていた煌めきは収まり、魔力の吸引も止んだ。
「……。暫くは俺が使っていいみたいだな」
で、俺は直ぐに取りに来ると思ったのだが……どうやら暫くは俺が使うべきであるらしい。
なんかそんな感じの繋がりをカプノスから感じる。
「煙管なぁ……喫煙趣味は俺には無いんだが……」
とりあえず俺はカプノスの詳細を表示させる。
△△△△△
カプノス
レア度:PM
種別:道具-家具
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
アブソーブ(力を奪い己の血肉とする)
『ヌル(存在しないはずの物質)』
それはCommonではなくSoleである。
見た目は黒を主体とした極々一般的な形状の煙管。
適当な葉を刻み、火を付け、その煙を吸う事によって、喫煙者に対して何かしらの効果を与える。
この煙管による喫煙行為には常習性及び恒常的な有害性はないが、喫煙と言う行為が周囲にどう思われるかは考えて使うべきだろう。
葉を刻み、盛り、火を付けるための道具がセットになっている。
火の取り扱いには十分に注意を払わなければいけない。
※デスペナルティの対象にならない
※入手者以外の所持不可能
※周囲に他のプレイヤー及びホムンクルスが居る場合、使用には許可が必要となる。
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【ゾッタの錬金レベルが35に上昇した。錬金ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「あー、はい。一人で居る時に使えって事ね」
当たり前の話ではあるが、喫煙の為の条件は中々に厳しいものであるようだ。
まあ、妥当以外の何ものでもないので、文句はない。
俺としても作った以上一度は使うが、二度使うつもりはないしな。
なお、錬金ステータスについては助道具を上げておく。
△△△△△
ゾッタ レベル30/35
戦闘ステータス
肉体-生命力20・攻撃力10・防御力10+3・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7+6・回復力35+15・感知力10・精神力11
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10・光属性7・闇属性10
分類-武器類20・防具類15・装飾品15・助道具20・撃道具15・素材類15
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「さて、そう言う事なら夜にでも一度使ってみますかね」
まあ、基本的に和風建築であるヘスペリデスでなら、カプノスはよく似合っているだろう。
似合っているだけで使うかどうかはまた別だが。
で、そんな事を考えつつ、俺は神殿を後にした。




