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【AIOライト 40日目 10:25 (半月・晴れ) 東の丘陵】
ミアゾーイを作成した翌日。
十分な準備を整えた俺たちは東の大門から街の外に出て、真っ直ぐ南東に向かい始めた。
目指すは始まりの街・ヒタイの南東にそびえる左角山である。
「それでマスター。かかる時間は右角山に行く時と同じくらいでいいんですよね」
「ああ、それで間違ってない。つまり着くのはだいたい明日の午後頃だな」
左角山はその名前の通り、右角山と対を為している山である。
その為、その位置も北と南の差はあれどだいたいは同じところである。
そしてこれは掲示板情報になるが、どうやら左角山の主『青葉の根張り』と戦うためには、『赤紐の楔打ち』の時と同様に、特定の自動生成ダンジョンを攻略する必要があるようだった。
尤も、目印となるのは楔ではなく、植物の根や蔓のようで、周囲の地形と植生もあって多少見極めが難しくなっているとの事だった。
まあ、この辺りについては現地についてから考えればいい事だろう。
「……。マスター、一応聞いておきますけど、ネクタールに馬みたいな姿を取らせる事って無理ですよね」
「無理だな。元が布だから、どうやっても強度が足りない」
俺とシアの言葉に反応するように、ネクタールが布の端を手のようにしつつ持ち上げ、横に振る。
実際、天蓋付きのベッドのように動く事を目的としない物の姿を取らせるならばともかく、馬のような動くもの……それも素早く動く生物をネクタールに模倣させるのは無理がある。
ネクタールは瞬間的にならともかく、長時間素早く体を動かせるような身体をしていないのだから。
ましてや乗るとなったら相応の強度が必要になる。
が、その強度と可動性を両立させるとなれば、無理を通り越して無謀の領域になるだろう。
「まあ、気持ちは分からなくはないけどな……」
ただ、シアがそう言う事を言いたくなる気持ちは分からなくもない。
左角山に着くまでおおよそ丸一日。
その道中に現れるのは、戦闘にすらならないような低レベルのモンスター、使い道のない素材、入る意味のない自動生成ダンジョン、後は多少のプレイヤーとホムンクルスだけだ。
つまり、ぶっちゃけてしまうと、かなり暇なのである。
となればどうにかしてその暇な時間を短縮出来ないかと言う発想が出てくるのも自然な流れだろう。
「馬型のホムンクルスが欲しくなりますね」
「トロヘルのナクーみたいなのか。確かにダンジョン外の移動用と割り切ってみても便利そうではあったよな」
そうして思いつくのは、トロヘルの馬型ホムンクルス、ナクーだ。
ナクーは戦闘能力も十分にある良いホムンクルスだったが、移動用と割り切ってもその有用性は確かだ。
少なくともこの道中の暇な時間はだいぶ短縮されるに違いない。
「メェー」
「敵か」
「プレンシープLv.3、肉を落としてくれれば当たりですね」
「だな」
「~~~♪」
「メェ!?」
まあ、無い物ねだりをしてもしょうがないという事で、俺たちは目の前に現れたプレンシープをさくっと狩り、剥ぎ取りを行う。
手に入ったのはレア度:1のプレンシープの毛だったが……まあ、困ったらネクタールに喰わせよう。
「そう言えばマスター」
「どうした?」
「左角山のボスについての情報はどうなんですか?」
「あー、それな」
さて、再び移動を開始すると、左角山のボス『青葉の根張り』についての質問がシアから飛んでくる。
まあ、情報共有をするなら今の内かもしれないし、大した情報はないが、分かっている情報は共有しておこう。
「ボスの名前は『青葉の根張り』。レベルは20。上がっている報告から察するに、こっちの錬金レベルに応じてステータスは変わるみたいだな」
「そこは『赤紐の楔打ち』と同じですね」
まず、基本的な部分については『赤紐の楔打ち』とほぼ同じであるらしい。
つまり、錬金レベルが10なければ挑む事も出来ず、錬金レベルが上がるほど敵のステータスは落ちる。
そして恐らくは『赤紐の楔打ち』の楔のように、何かしらのギミックが存在しているのだろう。
なにせ倒さなければいけない相手だからな。
「で、分かっているのはこれでほぼ全てだな」
「えっ」
俺の言葉にシアが驚きの声を上げる。
「どうにも、倒すのに成功したプレイヤーはゴリ押しで倒したらしくてな、ギミックの有無すらも分からなかったみたいだ」
「見た目とか、攻撃方法とかはどうなんです?」
「見た目はゴーストに近いらしいが、物理攻撃は普通に通るらしい。攻撃方法については物理も魔法も使う以上の事は分からないな」
「分からないってそんな事あるんですか?」
「どうにもあまり掲示板に書き込まないタイプのプレイヤーたちが挑んだみたいでな。最低限の情報は載せてくれたみたいだが、これ以上の情報は無さそうだった」
「そうなんですか……」
シアは多少悲しそうにしているが、こればかりは仕方がないな。
掲示板に情報を書きこむのは善意の行為であり、今の状況にあっても義務では絶対にない。
そうでなくても様々な事情から書き込みが苦手なプレイヤーだっているだろうし、書き込みの強要なんてして攻略の気概を削いでしまったら、それこそ大損害だろう。
「ま、何もかも、まずは左角山に着いてからだよ」
「そうですね。私たちが挑む頃には情報が追加されている可能性だってありますよね」
「そうそう」
何にしても辿り着かなければまずは話にもならない。
そんなわけで、俺とシアは地道に歩き続けるのだった。