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【AIOライト 38日目 06:45 (5/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「御馳走様でした」
「お粗末様でした」
『赤紐の楔打ち』を倒した翌日。
俺たちはいつも通りに目を覚まし、いつも通りに食事を摂った。
「さて、マスター。今日はどうするんですか?」
「そうだな……」
と言うわけで、いつも通りに今日の予定を立てる……と言いたいのだが、今日はちょっとそう言うわけにはいかなかった。
とある事情があるからだ。
「確か掲示板の情報では、ヒタイの南東に左角山と言う場所があって、そこで右角山と同じように特定の自動生成ダンジョンをクリアするとイベントが発生。ストーリーボスである『青葉の根張り』が現れる。でしたっけ」
「ああ、だから次に俺たちが目指すべき場所が左角山なのは間違いない」
俺はだいぶ品揃えの増えた飲み物で喉を潤しながら、心の内にあるとある話題をどう切り出すべきかを考える。
言わざるを得ない話題なので、言う他ないのだが、それでも内容的に切り出しづらいのは変わらないからだ。
「となれば今日はその準備ですか?それとも勝利を記念して、今日は一日休みますか?」
「休みか……それもいいんだけどな……」
本当のことを言えば、今日は一日休ませたかった。
丸一日以上をかけてのダンジョン攻略に、ボス戦の連続、肉体面については高い回復力でどうにかなっても、精神面の疲労の蓄積を考えたら、休むのが正解だ。
そして、その考えが正しい事を示すように、『赤紐の楔打ち』を倒した他の面々……グランギニョル、シュヴァリエ、トロヘル、ブルカノさんたちも、今日は一日休むと言っていた。
「マスター?」
「……」
うん、言おう。
言わなければ進まない。
「すまん、シア。今日は一緒に金策に走ってくれ」
俺は大きく頭を下げて、シアに向けてそう言う。
ああ、何と情けない言葉に姿だろうか。
惚れた相手に対して、一緒にお金を稼いでくださいなどと言うのがこれほどまでに辛いとは……。
「あ、やっぱりそうですよね。知ってました」
が、シアから返ってきた言葉はそうなるのが分かり切っていましたと言うような言葉だった。
これは一体どういう事だろうか。
「えーと?」
「いやだってマスター、昨日の夜の内に、装備品の修復をするために大量の修理結晶を買い込んで、使ってたじゃないですか」
「それは……まあ」
「あれ、どう考えても番茶さんに貰ったのと同じくらいの額を使ってましたよね」
「……」
それは……事実だ。
確かに昨晩の俺は装備などの修理を行い、それに番茶さんからもらったお金を全てつぎ込んでいる。
「それに『赤紐の楔打ち』との戦いに備えて、色々と錬金していたじゃないですか。あれだって、相応のお金はかかってますよね」
「うん、まあ、かかってる」
それも事実だ。
『赤紐の楔打ち』を倒すために、俺はガードデーモンナイフに特性:リジェネを付けるだけでなく、回復アイテムの作成にリジェネダメジブックの作成も行っている。
そして、これらアイテムを作るための錬金術の素材を集めるのには、ギルドショップを活用している。
なので、ここでも大量のお金を消費している。
「で、今回私たちが攻略した自動生成ダンジョン『防御力溢れる清流の船』、そのボスである『防御力溢れる蛸狼女の王』を倒す為に、マスターは奇箱・普喰に持っていた素材を全て投入してしまっている。つまり、売るためのアイテムは無くなっていました」
「……」
これも事実である。
ただ、どうにも気まずくて視線を逸らしてしまう。
「心配しなくてもマスターに対して怒ったりはしていませんよ。マスターがあの時そうしなければ、全滅だってあり得たんですから」
「本当か?」
「本当です。あの時のマスターはかっこよかったですよ」
俺は心の中で思わずガッツポーズをする。
これだけで今日一日戦えそうだ!
「で、話を戻しますと、そうやって支出ばかりがかさんで、収入がなければ……まあ、金欠になるのは当然かなと思いまして」
「はい、全くもってその通りです」
と言うか、全部ばれていたのね。
まあ、少し冷静に考えれば、これぐらいは分かって当然なのかもしれないが。
「それでマスター、実際の所はどれぐらい金欠なんですか?」
「んー……現金については切り詰めて今日明日分の俺とシアの食費ぐらいだな。一応、前に手に入れた砂金も含めて、売れそうな素材はあるけれど……たぶん、少し底を突く時が先延ばしになるぐらいだと思う」
「つまり、次のダンジョンを攻略する分は?」
「そこまでは流石に無い」
話が進んだところで、今後についてしっかりと考えよう。
まずお金を稼ぐのは確定。
稼がなければ、左角山の攻略も出来ない。
「切り詰めれば今日明日大丈夫なら……」
「後、ネクタールの食費が分からないから、実を言えば、今日は大丈夫と言う確証もない」
「……」
そしてネクタールと言う不安材料もある。
何処に口があるかも分からないし、いざとなればそこら辺の素材を食べて満腹度を満たす事や、俺からのエネルギー供給と言う手段もあるが……まあ、それは最後の手段だろう。
「稼ぎましょうか。マスター」
「ああ、そうしよう」
そんなわけで、俺とシアは金策をするべく、南の森林に向かうのだった。