183:37-13-E9
『大地の力を利用する我が秘奥は破られた。それ即ち汝が資格を有する者であるという事である』
『故に皆々阻む壁の鍵、その片割れを汝に授けよう』
『だが鍵は揃わなければ意味がない。故に壁の向こうに行く事を望むのであれば、我と対為す者の秘奥を打ち破り、鍵の片割れを得よ』
『しかし忘れるな。壁の向こうは資格無き者には歩めぬ道。それは資格ある者にとっても平穏とは縁遠き道程である』
『故に覚悟せよ。苦難に満ちた茨の如き道を』
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「話が長い」
「よ、容赦ないですね。マスター」
イベントは向こうから一方的に語りかけ続けられるという物だった。
その為、口が開けるようになると同時に、俺は思わず愚痴っていた。
そしてネクタールも俺の気持ちに感化されたのだろう、表面を赤、黄、黒の警戒色に変えた上で、その模様を派手に動かし、怒りを表している。
俺たちの中で、真摯に話を聞いているのはシアぐらいだった。
【ゾッタは鍵の右角を手に入れた】
「と、アイテム入手か」
と、ここでインフォと共に、何かしらのアイテムを入手する。
なので、俺は早速それを実体化すると共に、説明文を読んでみる。
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鍵の右角
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
右角山の主『赤紐の楔打ち』を倒した証。
見た目は半分に割れた鍵であり、これ単体では何の意味もなさない。
※デスペナルティの対象にならない
※入手者以外の所持不可能
※特殊インベントリ格納可
※特定アイテム以外との錬金不可
▽▽▽▽▽
「ふむ」
「さっきの話通り、対になるアイテムも手に入れないといけないみたいですね」
「そうみたいだな」
鍵の右角の見た目は説明文通り、古い建物によくありそうな簡素な造りの鍵を縦に割ったような形をしている。
となれば対になるアイテムも同じような姿をしている事は想像に難くないし、片方だけでは意味が無いというのも分かるな。
なにせ、もう片方がこちらと同じ形状をしている保証などないのだから。
「まあ、デスペナルティの対象外で、インベントリも別だって言うなら、無くす心配はなさそうだな」
「特定アイテム以外との錬金も不可能ですから、間違って使ってしまう心配もなさそうですしね」
とりあえず鍵の右角を無くす心配はしなくていい。
殆どの穴はGMによって埋められているからだ。
これでもなお無くすなら、それはもう自己責任の範疇、もう一回『赤紐の楔打ち』を倒せと言うべきだろう。
「さて、後はこの場からどうやって帰るかだが……」
【『赤紐の楔打ち』を倒しました。始まりの街・ヒタイの錬金術師ギルド『巌の開拓者』ヒタイ本部に移動します】
「ヒタイに移動するみたいですね」
「これで右角山の麓とかだったら、流石に酷いしな」
インフォと共に俺たちの視界が歪み始め、俺たちが居る場所が曇り空の大地から、もはや見慣れた『巌の開拓者』のギルド本部へと変わっていく。
これで右角山の攻略は完了。
今晩は枕を高くして眠れそうである。
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【AIOライト 37日目 18:00 (満月・雨) 始まりの街・ヒタイ】
「おいあれ……」
「『狂い斧』か……」
「到着っと」
『巌の開拓者』ヒタイ本部はいつも通りの賑わいだった。
数人のプレイヤーがこちらに目を向けてはきたが、俺たちがダンジョンクリア時の転移先に現れた事もあり、直ぐに興味を失ったように視線をずらす。
「ゾッタ君か。その様子だと……」
「ええ、倒してきました」
と、ここで先に帰って来ていたらしい番茶さんが俺に話しかけてきたので、俺も近寄る。
なお、転移と同時にネクタールには可能な限り自身の存在を隠蔽するように指示してあるので、現在の見た目は骸套・三手千織と変わらず、ホムンクルスである事を示すマーカーも出ていないので、番茶さんにはネクタールの存在は分からないようである。
「そうか、流石はゾッタ君だ。では出来ればで構わないが、どうやって倒したかを教えてもらってもいいかな?私は手も足も出なかったからね。ああ、勿論、対価は払うよ」
「分かりました。ではあっちの席の方で……」
と言うわけで、俺は幾らかのお金と引き換えに、幾らかは推測であると前置きした上で番茶さんに『赤紐の楔打ち』との戦いがどうだったかを話す。
勿論、赤い紐の付いた楔によってHPを回復していたことも、こちらの錬金レベルによってステータスが弱体化する可能性がある事も含めてだ。
「それにしてもマスター、どうして『赤紐の楔打ち』はあんなギミックがあったんでしょうか?」
「んー、そこはたぶんゲーム進行の都合だろうな。一プレイヤー単位で挑む以上、よほど劣悪なステータス振りでない限りは勝てないとGMとしても困るだろうし」
「ああ、それはあるだろうね。だがそうなると、対になるボスもギミックがある前提になるのかな」
「その可能性は高いと思います」
なお、『赤紐の楔打ち』がギミック付きのボスである理由については、勝てないと詰んでしまうから、だろう。
そう言う所はゲームをしているのが、この『AIOライト』だしな。
「なるほど、参考になったよ。では、私はこれで」
「これからもよろしくお願いします。番茶さん」
「それはこちらの台詞だよ。ゾッタ君」
そうして一通り話し終えたところで、俺とシアは番茶さんを見送った。
そして、俺たちも自分の部屋に戻り、明日に備えてやるべき事をやると、夕食、それに睡眠をとり始めたのだった。
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【AIOライト 37日目 23:45 (満月・雨) ???】
「あー、あー、チェクチェク。マイクチェック。よし、問題なし」
「『AIOライト』開始から丸37日になります。では、現在の状況について口頭にて記録を行います」
「『赤紐の楔打ち』を討伐したプレイヤーが7名確認されました。内3名はゴリ押し、他4名はギミック解除による撃破です」
「『青葉の根張り』を討伐したプレイヤーが2名確認されました。どちらもゴリ押しです」
「レア度:PMホムンクルスの数は一体増えました。作成者は例の要注意プレイヤーです。また、これでレア度:PMのホムンクルスは合計で7体になりました」
「レア度:PMの携帯錬金炉の数は変わらず。2個のままです」
「要注意プレイヤーのフォロワーは発生しましたが、危険な兆候は見られません」
「ゲームの運営はおおむね順調。現実世界の方で多少の動きは見られますが、警戒する要素は現状では見られません」
「では、今回の記録を終わります」