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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
182/621

182:37-12-E8

「あははははっ!」

 俺は特性:バーサークを自発的に発動できる範囲の限界で発動させると、『赤紐の楔打ち』に向かって真っ直ぐ駆け出す。


『迷いなく来るか!その意気やよし!』

 対する『赤紐の楔打ち』は腰を落とし、右手を軽く引く。

 だがその足は殆ど動いていない。

 やはり自分から攻めかかる気はもうないらしい。


「『ブート』!」

『そんな物が効くか!』

 その場から動かないのを好機と見たシアが、背後からリジェネダメジブックによる魔法攻撃を打ちこむ。

 だが『赤紐の楔打ち』が打った裏拳一つで、大したダメージも与えられずにシアの魔法弾は霧散してしまう。

 回復力低下のデバフはしっかりとかかっているが……やはり効果はほぼなさそうである。


「ふんっ!」

『ぬんっ!』

 十分に接近した俺は『赤紐の楔打ち』に向けて斧を振る。

 対する『赤紐の楔打ち』は俺の一撃を籠手で受け止めつつ、もう片方の手で俺の腹を殴ろうとしてくる。


「あははははっ!」

『ぬおおおぉぉ!』

 そこからはまるで組手のように俺と『赤紐の楔打ち』は動き出す。

 俺が斧を振るえば、『赤紐の楔打ち』は籠手で防ぎ、短剣を鎧の隙間にねじ込もうとすれば、僅かに体を動かして刺せないようにする。

 当然、赤い紐の付いた楔を持ったり、蹴ったりするような動きに対しては恐ろしい速さで反応して見せ、触れるのを阻止して見せる。

 そして『赤紐の楔打ち』も俺の攻撃に対処するだけではない。

 隙を見つければ容赦なく鉄拳、あるいは蹴り、場合によっては頭突きや当身まで織り交ぜて攻撃を仕掛けてくる。

 そのため、俺もネクタールの力を借りずに短剣と斧を操り、距離を離されないように、けれど直撃は受けないように慎重に立ち回る事となった。


「支援をかけ直します!」

 勿論、シアも誤射をしないように慎重に慎重を重ねてだが、支援をしてくれている。

 だが、回復の方はともかくダメージについては碌に入っていないようだった。


『どうした!そんな物か!』

「……」

 そうして打ち合い続けること数分。

 俺のHPは残り20%を切り、『赤紐の楔打ち』のHPはほぼ50%を維持していた。


「マスター!一度退いてください!」

 このままでは俺がやられると判断したのだろう。

 シアが叫び声を上げる。


『退くか?ならばこちらは存分に回復するのみよ!』

 『赤紐の楔打ち』はまるで余裕を見せるように口を開く。

 いや、実際余裕だと思っているのだろう。

 俺とシアの攻撃では、赤紐の楔による回復の相殺は出来ても、押し切る事は出来ないのだから。

 これまでの打ち合いで俺が楔に触れる隙も生じなかった辺り、相当頭のいいAIだと言える。


「そうだな」

 尤も、だからこそこの策が決まるのだが。


「引かせてもらうとしよう」

 俺は後ろに向かって全力で跳躍する。


『ははは!ざんね……』

 そんな俺の姿を見て『赤紐の楔打ち』は嘲笑しようとした。


『ンギャアアアアァァァァ!?』

「!?」

「戦いの幕をだけどな」

 が、その前に黒い鎧を纏った全身から、血のように赤い光を噴出させ、HPバーを全損させた。


『ば、馬鹿な……我が楔が……何故……』

「おっと、流石はイベント用のボスだな。まだ喋れるのか。ネクタール、念のために完全密封した状態でこっちに持って来ておけ」

『!?』

 崩れ落ち始める『赤紐の楔打ち』の眼下で、赤い紐の付いた楔が独りでに俺の方に向かって移動を始める。

 普通に見れば、そう見えるだろう。

 だが実際はそうではない。 


「マ、マスター、もしかして」

「ネクタールは元になった素材の関係上、自分の色や質感を自由に変えられる。それも部分的にだ」

 赤い紐の付いた楔が俺の手に収まったところで、その表面が虹色の布に変化。

 その変化は、まるで地面の一部のような質感と色になっていた布だけでなく、俺の身に付けているマントにまで及んでいく。

 そして、全てが虹色に輝いたところで、普段通りの落ち着いた黒を主体とした色に変化する。


「だから、打ち合いをしている間にネクタールに移動してもらって、地中部分を含めて楔を丸々覆わせて貰った」

「それだけで再生能力が無くなるものなんですか?」

「そこはネクタールがホムンクルスだからだろうな。たぶん、ただの布なら、覆われたぐらいじゃ効果は無かったと思う。だがネクタールは生物だ。地中からどういうエネルギーを補給しているにしても、ネクタールの身体が地面と判断される可能性はない」

「なるほど……」

『……』

 既に『赤紐の楔打ち』は完全に絶命し、戦闘不能の判定も出ている。

 流石に此処からの復活は無いだろうが……まあ、イベントが進まない限りは、念のために持っておくべきだな。

 後、折ってもおこう。


「ネクタール」

「……」

 と言うわけで、ネクタールに命令して、赤い紐を解いておくと同時に、楔の中頃あたりから折っておく。

 これで万が一にも復活は有り得ないだろう。


【ゾッタは『赤紐の楔打ち』を倒した】

「お、出たか」

「これで安心できますね」

 と、ここで勝利のファンファーレと共に、インフォが表示される。

 どうやら無事に勝利したらしい。


「さて、後はイベントがどう進むかだな」

「はい」

 そしてイベントが始まった。

慈悲も容赦もございません


11/18誤字訂正

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