175:37-5-E1
赤紐の間についての一通りの調査が終わり、プレイヤーたちはそれぞれに動き出した。
「錬金レベルを上げる必要があるとかふざけんなー!」
「GMのバカヤロー!」
「ちょっと待ってろ!直ぐに上げて来てやるからな!」
錬金レベルが足りないプレイヤーたちは錬金レベルを上げるべく、扉を使ってギルドの自室に移動するか、転移を使って何処かへと移動した。
「単独って……ちょっと厳しくない?」
「やるだけやってみましょう」
「何にしても準備は整えないとね」
レベルが足りていても準備が整っていないプレイヤーたちは、ギルドの自室に向かって準備を整えるか、ギルドショップでアイテムを購入し始めた。
「本気で挑むのか?」
「挑むとも、一人ぐらいは犠牲者が出ないと、どんな相手かも分からないしな」
「気をつけろよ」
「別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「おい馬鹿止めろ」
そしてレベルも準備も足りているプレイヤーは、少しでも情報を集めるべく、碧玉の板に触れ、何処かへと転移した。
分かり易い死亡フラグを立てている件については……気にしないでおくとしよう。
もしかしたらもしかするかもしれないしな。
「さてと……だ。情報交換をしたいと私は思っているわけだが」
そうして赤紐の間には極々少数のプレイヤーとホムンクルスが残る事になった。
具体的には俺とシア、トロヘルにヘジャとナクー、番茶さん、ブルカノさん、シュヴァリエとヴィオ、そしてグランギニョルにアブサディット、サングラント、ブラフと言う名前の三体のホムンクルスだ。
どういう集まりかは……まあ、言うまでもない。
「まあ、まず突っ込むべきはグランギニョルだよな」
「でしょうね」
俺たちの視線がグランギニョル……より正確に言えばグランギニョルの背後に立つ三体のホムンクルスに注がれる。
そう、三体だ。
一人のプレイヤーが同時に召喚できるホムンクルスは二体までだと言うのに、グランギニョルはその限界を超えてしまっていた。
「ま、そう簡単に真似出来るものではないけれど、これは私のとっておき。話す事は限らせてもらうわ」
「そうだね。話せる範囲で構わないよ」
「で、グランギニョルはどうやって制限を解除したんだ?」
「正確に言えば制限は解除してないわ。サングラントとブラフは二体で一体のホムンクルスなの。これだけ言えば……まあ、後は分かるわよね」
「なるほど」
グランギニョルの言葉で俺は理解する。
サングラントとブラフは二体で一体のホムンクルス。
だから、同時に召喚できるホムンクルスは二体までと言う制限を誤魔化す事も出来る。
そしてこんな事は普通のホムンクルスでは決してできない。
つまり……サングラントとブラフはレア度:PMのホムンクルスだ。
他の面々も俺と同じ事が理解できたのだろう。
納得顔で頷いている。
「次は……」
「まあアタシだな。尤も、アタシの方もそう複雑な話ではない」
続けてブルカノさんに俺たちの視線が集まる。
するとブルカノさんは拳分類の武器を身に付けた両手を俺たちに見せる。
その手の甲には水晶のような物が填め込まれている。
「これは携帯錬金炉だ。そして私の武器でもある。機能は……言うまでもないか」
「やっぱりか」
「まあ、あの場で爆発物を作っていたしな」
「ちなみに、あの爆弾は持ち運ぶ際の安全性を度外視する代わりに威力を可能な限り高めたものだ。まあ、この武器を使って現地で錬金する事を前提とした代物だな」
「だからあんなに威力が高かったんですね」
武器としても使える携帯錬金炉か。
いや、ブルカノさんの立ち位置からして、この言い方は正しくないか。
より正確に言うならば、戦闘中にも使用可能な携帯錬金炉だ。
うん、これは普通に凄い代物だな。
その場の状況に応じて攻撃アイテムを作れるというのは、かなりの利便性を持っていると言える。
「さて、最後は……」
「僕だね」
ブルカノさんに向けられていた視線が今度はシュヴァリエとヴィオに向けられる。
「ヴィオ」
「キュイ!」
シュヴァリエがヴィオの名前を呼ぶと、ヴィオはシュヴァリエの手の上で紫色の稲光に包まれる。
「これが僕のとっておきだよ」
「これは……」
そして光が晴れた時、ヴィオの姿はそこには無く、代わりに一本の鞘に納められた刀がシュヴァリエの手にはあった。
「ヴィオレエクレールは獣としての姿と、刀としての姿、二つの姿を持つホムンクルスなのさ」
刀は柄に紫色の房が付けられており、薄紫色の刃はロラ助が持っている刀よりも明らかに細い。
どうやらシュヴァリエ自身のステータスに合わせて、軽さと鋭さを優先した刀になっているようだ。
そして二つの姿を持つホムンクルスと言う事は……まあ、論じるまでもなくレア度:PMだな。
でなければ有り得ない。
「あの、どうして二つの姿を?」
「あー、そこはまあ、色々と事情があるんだけど……とりあえず言える事としてはアレかな。刀って言う無骨な物をそのままの状態で置きたくなくて、出来るだけ可愛くしたかったんだよ」
「可愛く……ですか」
「そ、可愛く」
「キュイ」
「「「……」」」
なお、刀の状態でもヴィオは喋れるらしい。
何処で声を発しているかは分からないが。
理由については……俺が気にする事ではないな。
「じゃ、情報交換はこれぐらいで……」
「いや、まだお前が残ってるだろ。ゾッタ」
「そうだぞゾッタ君。あの回復力についてはきちんと説明してもらわないと」
「インベントリを開いた様子も無かったわよね。ゾッタ兄」
「あの回復力は聴取対象だよ。師匠」
「まあ、気にならないと言えば嘘になるな」
で、情報交換はシュヴァリエので終わりと思っていたのだが……どうやらそうではないらしい。
トロヘルと番茶さんの二人が揃って俺の肩を掴んで、強制的に座らせてきている。
「話してください、マスター」
「えー……」
まあ、シアに求められたら仕方がない。
と言うわけで、俺はいつの間にか思考と視線だけでインベントリを操作できるようになっていた事を話し、ついでにありったけの素材を奇箱・普喰に投入したことも話したのだった。
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