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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
173/621

173:37-3-D13

「ぐっ……」

「状況を報告!」

「体勢を立て直せ!」

 『防御力溢れる蛸狼女の王』の放った水流から脱出した俺は状況把握をするべく、視線と意思だけで畳んでいたアライアンスメンバーのHPバーの表示を開く。


「なっ!?」

 そして愕然とする。

 アライアンスは半壊と言っていい状態になっていた。

 俺のHPは30%程減っていて、シアは巻き込まれなかったのかHPは減っていなかった。

 だが大半のプレイヤーとホムンクルスはダメージを受け、何人かは危険域に突入。

 プレイヤー二人にそのプレイヤーが連れていた二体のホムンクルス含めて、ホムンクルス五体が死に戻りをしていた。


「アハハハハハッ!」

「「「バウバウバウッ!」」」

「まずいぞ!ガードウルフが来る!!」

「くそっ!?建て直す暇なんて無いぞ!?」

「回復を!回復をくれ!」

 この状況は……拙い。

 直撃を受けたトロヘルたちがタンク役を再び行うには、HPの回復が必要で、それにはどうしてもしばらくの時間がかかりそうだった。

 そして、トロヘルたち以外のタンク役も状況の変化に対応しきれておらず、今までに相手をしていたガードウルフたちにすら押されそうになっている。

 当然、攻撃役や支援役も動いてはくれているが、状況が混乱しているために散発的な行動しかとれていない。

 このままでは全滅待ったなしだ。


「ちっ」

 だから俺は状況を良くするために場を単純化することにした。


奇箱(きばこ)普喰(あまねくらい)。好きなだけ喰え」

 俺は視線と思考だけでインベントリを操作。

 奇箱・普喰に投げ込めるだけの素材を投げ込み、その耐久度を100を超えて、大幅に上昇させる。

 そして、奇箱・普喰はその効果通りに、100以上の耐久度を俺の回復力へと変換し始める。


骸套(がいとう)三手千織(みつてちおり)。存分にその姿を晒せ」

「マスター!?何を!?」

 続けて骸套・三手千織を操作し、視覚的にも聴覚的にも俺の存在を周囲に知らしめるようにする。

 すると、俺の予想通りにガードウルフたちも、『防御力溢れる蛸狼女の王』も、それにプレイヤーとホムンクルスたちの注目も全て俺へと集まる。


棘刀(きょくとう)隠燕尾(かくれえんび)。行くぞっ!」

「キャハッ!」

 その状態で俺は『防御力溢れる蛸狼女の王』に棘刀・隠燕尾で切りかかる。

 当然、『防御力溢れる蛸狼女の王』がただで受けるはずもなく、既に『防御力溢れる蛸狼女の王』は水の盾を生み出している。

 だがそれで問題ない。

 重要なのは全員の心に空白を造り出した上で……


キイイイイイィィィン!!


 この金属音を鳴り響かせ、平静を取り戻させる事なのだから。


「「「!?」」」

 俺の背後でプレイヤーとホムンクルスたちが動き始める気配がする。

 これでもう大丈夫だろう。

 だから俺も集中することにする。


「おらああぁぁ!」

「アハハハッ!」

 『防御力溢れる蛸狼女の王』とガードウルフを殺す事だけに。


「バウッ!」

「だらあっ!」

「アハッ!」

 俺は特性:バーサークを発動させた状態で斧と短剣を振るい続ける。

 間合いにガードウルフが入っていれば、それを殴り飛ばし、『防御力溢れる蛸狼女の王』しか居なければ、防がれようが構わないという気持ちで攻撃を叩き込み続ける。


「バッ……キャイン!」

「邪魔だぁ!」

「ガギッ!?」

 必要ならガードウルフを蹴り上げて吹き飛ばす事も、全力で頭を踏みつけて足場にする事も厭わずに。


「アハハハッ!」

「ぐっ……」

 『防御力溢れる蛸狼女の王』の犬に噛み付かれる事も、水球を受ける事も厭わずに。


「おらぁ!」

「キャハッ!」

 高めた回復力を頼りにただひたすら『防御力溢れる蛸狼女の王』へ攻撃を仕掛け続ける。

 少しずつ少しずつそのHPを削り取っていく。


「アハッ、アハハハハハッ!!」

「ああん!?」

 そうして『防御力溢れる蛸狼女の王』の残りHPが25%を切ろうという所だった。

 『防御力溢れる蛸狼女の王』が両手を再び頭上に掲げる。

 だが生成されたのは巨大な水の円盤ではなく、渦潮をそのまま束ねたような一本の槍。

 その槍の矛先は……完全に俺に向けられていた。


「シズミナサイ!」

「ちっ……」

 槍が放たれる。

 直撃すれば、即死する。

 だが、距離が近すぎて、回避する余裕も何も無かった。

 だから俺は最後の足掻きとして、斧を振りかぶろうとした。

 しかし俺が行動を起こすよりも早く。


「させるかよっ!」

「「!?」」

 ナクーに乗ったトロヘルが俺と『防御力溢れる蛸狼女の王』の間に入り込み、最大HPの50%を超えるようなダメージを受けつつも水の槍を受け止めることに成功する。

 そして、場の変化はこれだけに留まらなかった。


「紫電……」

 俺の横を何かが通り抜けた。

 そして気が付けばシュヴァリエが『防御力溢れる蛸狼女の王』の背後に居た。

 その手には薄紫色の細い刃を持った剣……いや、刀が握られており、シュヴァリエの姿勢はその刀を両手で振り抜いたような姿勢を取っていた。


「一閃!」

「ギッ!?」

「なっ!?」

 直後、シュヴァリエが血払いをすると同時に、『防御力溢れる蛸狼女の王』の胸元に紫色の稲光を放ちつつ深い傷が刻まれ、それに合わせるようにHPバーが大きく減る。


「召喚、サングラント、ブラフ」

 続けて後衛組であるはずのグランギニョルが『防御力溢れる蛸狼女の王』に接近する。

 アブサディットを含めた三体のホムンクルスを連れて。


「『アムサイス・ディム』」

「『アムソード・ディム』」

「『アムアクス・ディム』」

「『アムスピア・ディム』」

「ガアッ!?」

 グランギニョルと三体のホムンクルスから、まるで同じ人物が発音しているような響きでもって起動文が発せられた。

 そして、それぞれの得物から黒い刃が放たれ、『防御力溢れる蛸狼女の王』のHPバーをさらに削り取る。

 だが攻撃はまだ終わらない。


「耐久力は最低限でいい……必要なのは威力だけだ」

 俺は後方から不穏な気配を感じ、そちらの方を向く。

 するとそこには、両手の拳分類の武器から錬金術を使う時に発せられるような光を発しているブルカノさんの姿があった。


「逃げるぞゾッタ!」

「言われなくても!」

 俺とトロヘルは、大ダメージが重なって怯んだ『防御力溢れる蛸狼女の王』に背を向けると、全力で駆け出していた。

 グランギニョルとシュヴァリエも既に離れていた。

 ナクーもトロヘルの指示なのか、いち早く離脱していた。

 『防御力溢れる蛸狼女の王』の周りには、主を守ろうとするガードウルフしか居なくなっていた。


「さあ、喰らうがいい……」

 そしてそんな状況で俺とトロヘルの頭上を血のように紅く、心臓のように脈動し、ほんの僅かにでも衝撃が加わったら想像通りの事を……いや、想像以上の事を起こしそうな物体が飛んでいく。


「アンチレジストボム」

「「!?」」

 次の瞬間。

 俺とトロヘルは背中に強い爆風と熱を感じつつ、視界の端が強い閃光で彩られるのを目撃し、その直後に大きく吹き飛ばされた。

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