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「ん……?」
「これは……」
反射的に武器を構えた俺たちは、直ぐに目の前に居るガードグローバグたちの挙動とマーカーに違和感を覚える。
「ノンアクティブ?」
「あ、襲って来ないんだ」
ガードグローバグたちは、こちら側に近づいてきたりはしていない。
現れたその場で留まり続けている。
そして、通常のモンスターならば間違いなくアクティブになっている距離にもかかわらず、そのマーカーはノンアクティブのままになっていた。
これは……ちょっと考えた方がいいかもしれない。
「全員に質問、グローバグ種について知っている事は?」
俺はまず情報を共有するために、グローバグ種について誰かが情報を持っていないか尋ねてみる。
が、同じ錬金術師ギルド所属で、持っている情報が俺とほぼ同じであろうシュヴァリエは当然として、ロラ助、FC灯叫さん、そしてジャックさんまでもが、グローバグ種については何も知らないようだった。
それはつまり、グローバグ種がかなり珍しいモンスターである事を示してもいるのだが……まあ、今はどうでもいい話だ。
今重要なのは、グローバグ種がどんなモンスターであるかについてだ。
「ふうむ……」
「マスター、近づいても大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫みたいだ」
シュヴァリエたちに警戒するように言った上で、俺はまずガードグローバグたちに近づく。
が、光の中に蛍をデフォルメしてかなり可愛らしい姿になったガードグローバグ本体が見えても、そのマーカーがアクティブになったりはしない。
どうやら仮にガードグローバグが条件付きでアクティブになるモンスターだとしても、その条件はこちらの接近や知覚以外であるらしい。
「こういう相手だとちょっと攻撃しづらいよねぇ」
「敵なのかと言われると怪しいですもんね」
「まあ、その気持ちは分かるな」
「ふうむ……条件が気になるな」
こうなると考えられるパターンは……幾つかあるな。
・そもそも手を出さない限りはノンアクティブ
・特定の場所(水の中、階段の前、部屋の中)に入るとアクティブ化
・一定距離内で他のモンスターと戦闘をするとアクティブ化
・こちらが特定の行動(採取、剥ぎ取り、アイテムあるいは魔法の使用)を取るとアクティブ化
と言ったところか。
「万全を期すなら倒す事だが……」
俺は改めてガードグローバグたちを見る。
デフォルメされたその姿からは、脅威になるような要素は感じられない。
ただモンスターには違いないので、油断は出来ないだろう。
仮に戦いになるのなら……蛍と言う生物のイメージからして、支援役かそれに類する力を持ったモンスターではないかと思う。
南瓜が異常な物理耐性を持っているゲームなので、参考にもならないが。
「んー……」
「マスター?」
と、此処で俺は少し目を細めて、普段よりも注意深く観察するようにしてみる。
すると何となく、そう、何となくだが、ここに居る五匹のガードグローバグたちと何かが繋がっているように感じる。
それはダンジョン全体に繋がっているので伏兵と言う感じではないが……こちらにとっては面倒あるいは脅威になる感じがした。
これは……まあ、そう言う事かな。
「全員、戦闘準備で」
「あ、はい」
「えー、綺麗なのに……」
「いいんですか?」
「分かった」
「了解だ」
「ああ、コイツ等はたぶんこの場で倒した方がいい。恐らくは支援役のモンスターだ」
俺はガードグローバグが他のモンスターの支援役だと判断すると、武器を構える。
そして俺に合わせるように、他の面々もそれぞれの気分に合わせるような形で武器を構える。
「じゃ、最初の一撃を加えるぞ」
全員が武器を構え終ったところで、俺は一番近くのガードグローバグに斧を振り下ろす。
そうして斧がガードグローバグに当たった瞬間だった。
「クオオオォォォン……」
か細い鳴き声を上げながら、ガードグローバグのHPが底を突く。
「「「「キイイイィィィン」」」」
それと同時にガードグローバグたちのマーカーが一斉にアクティブに変化。
ガードグローバグの放つ光の色が赤く変化した上に、全員に防御力上昇のバフが付与される。
「これは……足音!?」
「何か来るよ!師匠!」
そして遠くから、数は少ないが、幾つかの足音が勢いよくこちらに向かってくる。
「なるほどそう言う仕掛けか」
「これは面倒だな。だが、幸いでもある」
つまりはこれがガードグローバグの能力と習性。
今攻撃を受けている俺が殆どダメージを受けていない事からも分かるが、ガードグローバグのステータスは低い。
が、攻撃を受ければ周囲の味方にバフを与えると共に、仲間になる他のモンスターを呼び寄せる。
そして強化された仲間と共に、敵対者を袋叩きにしてくるわけか。
となればだ。
「シュヴァリエ!」
「言われなくても」
「「「「クオオオォォォン……」」」」
俺が足音の方向に向かうと同時に、シュヴァリエがガードグローバグに接近。
細剣の四連攻撃によって、残りのガードグローバグを全て刺し貫き、仕留める。
どうやら元のステータスが低いために、防御力を少し高めた程度では耐えられなかったらしい。
「全員構えろ!」
そして、その間に他の面々は増援の対処に向けて態勢を整える。
「「「コケッコー!……コケッ?」」」
「さて……」
で、やってきた四匹のガードチキンだった。
なので俺たちは獰猛な笑みを浮かべ……
「昼飯だな」
「「「コケー!?」」」
一斉に襲い掛かった。