163:36-3-D3
「フガ!フガッ!フガアァ!」
ガードデーモンの爪と尻尾が何度も振るわれ、俺に決して無視は出来ない量のダメージを与えてくる。
「はははははっ!」
対する俺も何度も斧と短剣を振るい、ガードデーモンに対して少しずつダメージを与えていく。
「フシュルルル……」
「はははっ」
と、ここでガードデーモンの爪と俺の斧が正面からかち合い、その衝撃で多少であるが俺とガードデーモンの間に空間が生じる。
「さて、俺は残り60%で、そっちは80%か。やっぱり堅いってのは厄介だな」
戦況は五分五分と言ったところか。
確かに受けているダメージ量で言えば、俺の方が明らかに多い。
だが俺は回復力特化で、しかもそれを伸ばす支援を受けている。
後は骸套・三手千織の効果で気配を小刻みに揺るがして、多少の時間稼ぎを行えば、簡単にHPは回復し、ガードデーモンを上回るだろう。
「フシュルルルル……」
尤も、油断は出来ない。
特性:ガードによって大きく防御力を伸ばしているガードデーモンに俺の攻撃は碌に通じていないし、時折ではあるが角から魔法攻撃の類……それも被弾者に防御力低下の状態異常を与える攻撃をやってくるからだ。
状態異常になってから先程のような連続攻撃を喰らえば……まあ、俺の防御力では容易に削り取られて、そのまま戦闘不能になるだろうな。
「ま、俺の役目は時間稼ぎ。このままでも何の問題もねえよなぁ!」
「フシュラアアァァ!」
俺とガードデーモンが再び相手に向かって突進し、間合いに入ったところで攻撃を開始する。
俺は回復力と装備による回避を頼みにして、ガードデーモンは己の堅い皮膚を頼りにしてだ。
「オラァ!」
「フシュラァ!」
そうして俺のHPが40%を切り、ガードデーモンのHPが70%を切りそうになった時だった。
「行くよ……」
俺とガードデーモンの横を影が素早くすり抜けていく。
「『アムレイ・アキュート』!」
「キュイ!」
「フグガッ!?」
そしてその直後にガードデーモンの背後に現れたシュヴァリエとヴィオが、それぞれ一撃ずつ加え、仰け反らせる。
「フグ……ッ!?」
「そりゃあ!」
「ふんっ!」
続けてロラ助が、ジャックさんが、二人のホムンクルスたちが攻撃をしかけ、背後に現れたシュヴァリエを叩こうとしたガードデーモンに痛打を与える。
「マスター、回復します」
「助かる」
その間に俺は後退。
シアにリジェネメディパウダーを使ってもらう事で回復しつつ、もう一体のガードデーモンが床に倒れ、そのHPバーが尽きている事を確認する。
うん、こちらに来ている時点で当然なのだが、シュヴァリエたちは問題なくガードデーモンを倒したらしい。
「フシュアアアァァ!」
「やっぱり堅いね」
「だが問題はない」
「っすね」
ガードデーモンは激しく暴れているが、前後両方から攻められていては流石に対応しきれないのだろう。
細々とした反撃は行えているが、有効な攻撃は行えていないようだった。
「FC!」
「分かっている」
と、ここでジャックさんの求めに応じる形で、MPバーを回復するために今までじっとしていたFC灯叫さんが杖を構える。
「『ファイア』!」
FC灯叫さんの杖から炎が放たれる。
だが、ただの炎ではない。
太い縄……いや、鎖のような炎は、意思を持つかのように空中で何度も折れ曲がり、軌跡に火の粉を残しながら素早く飛んでいく。
「フガァ!?」
炎の鎖は他の面々の隙間を縫うように飛ぶと、ガードデーモンの胸に突き刺さり、焦げ跡と全体の5%程度のダメージを残しながらそのまま貫通。
そして……
「ふんっ!」
「フガァ!?」
貫通した所で180°の方向転換を行い、今度は背中側からガードデーモンの身体を貫く。
「フガァ……ッ!」
「させると思うか?」
このままでは拙いと思ったのだろう。
ガードデーモンは術者であるFC灯叫さんの元へと突貫しようとする。
だがそれよりも早く俺がガードデーモンの前に立ち塞がり、斧と短剣の攻撃で先に進めなくさせると共に足を止めさせる。
「トドメを刺すぞ!」
「!?」
そして、その直後にパーティメンバー全員の攻撃がガードデーモンへと殺到。
ガードデーモンのHPはあっけなく底を突いた。
「ふぅ、無事に戦闘完了だな」
「ですね」
「全員、お疲れ様だ」
「やったねー」
「ふぅ……」
「うん、問題なく終わったな」
俺たちは互いの無事を確かめ合うと、HPとMPを回復させつつ、ガードデーモンから剥ぎ取りを行う。
で、その結果としてこんな物が剥ぎ取れた。
△△△△△
ガードデーモンの角
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ガード(防御力を強化する)
ガードデーモンの頭に生えている角。
強い魔力を秘めた角は様々な用途に用いられる。
ただし、悪魔と言う存在そのものに嫌悪感を示す者も居る。
▽▽▽▽▽
「ふむ」
「角……ですか」
「ああ、取っておこう」
剥ぎ取れたアイテムの名前はガードデーモンの角。
色がいい感じに黒くて、色々とそそられるのまあ、さておいてだ。
若干の反りがあるところと、それなりの硬さが有るところを考えると、短剣や槍の刃部分に使ったりできるかもしれない。
これなら確保しておいてもいいだろう。
なお、二体とも、剥ぎ取れたのはガードデーモンの角である。
うん、ちょっと寂しい。
「レベルアップしたのはいるか?」
俺の言葉に全員が首を横に振る。
どうやら戦闘レベルが上がったプレイヤーは誰も居ないらしい。
「休憩は……俺が大丈夫なら問題なさそうだな。じゃ、再出発だな」
「はい」
「分かったよ、師匠」
そうして俺たちは探索を再開した。