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【AIOライト 36日目 07:25 (5/6・晴れ) 『防御力溢れる清流の船』】
「此処までのマップの書き込み完了……っと」
「こっちも出来た」
お互いの自己紹介を終えた俺たちは、『防御力溢れる清流の船』の探索を始める。
ただ……船と言うダンジョンの構造上、そして清流のと言う言葉の効果もあり、探索は面倒な物になった。
「それにしても通路が狭いね」
「キュイ」
「本当だな。これだと、二人並んで戦うのも厳しそうだ」
前にも言ったが、船の中は狭い。
時折幅が広い通路や開放的な空間も存在するが、基本的に通路はプレイヤーが二人並んで歩くのが限界で、部屋は1PTが入るのが限界と言う所だろう。
「こっちの通路は酷く浸水しているな」
「ですね。行くのは止めた方がいいと思います」
そして清流の船であるためだろう。
時々ではあるが、通路を覆うように透明で冷たい水が流れていたりする。
この水は大半は跨げば問題なかったり、浸かっても足首程度だったりするが、中には俺とジャックさんが見ている通路のように、通路自体が大きくへこんで、腰まで水が来るようになっている場所もある。
こういう場所は……まあ、適水粉なしで行くのは自殺行為だろうな。
敵抜きにしても、流れのある冷たい水の中になど入りたくはない。
「でも大丈夫なんでしょうか、これ」
「んー、まあ、大丈夫なんじゃないか。たぶん」
なお、これだけの量の水が一体何処から流れているのか、こんなに水が流れていてこの船は大丈夫なのだろうかと思ったりするが、そこはまあ、ゲーム的な都合で大丈夫だろう。
残り時間以外で、時間制限が有るなら、プレイヤーを焦らせるために分かり易い形で示してくるだろうしな。
「きゃっ」
「おっと」
「また揺れたか」
と、ここで船が唐突に大きく揺れ、よろめいたシアを俺が手で抑える。
探索と戦闘で厄介なのはこの揺れもだな。
前兆もなく突然揺れるから、探索では不意の事故が、戦闘では体勢を崩す危険性がある。
十分に気をつけた方がいいだろう。
「全員大丈夫か?」
「大丈夫です」
「は、はい。自分は大丈夫です」
「私も問題ない」
「こちらもだ」
「僕も大丈夫……と、師匠、来たよ」
と、ここで、シュヴァリエが警戒の声を上げつつ、腰の細剣を抜く。
それに合わせて、俺たちも武器を構え、これから向かおうとしていた浸水していない通路の方を見つつ、戦闘に備えた隊形を取る。
「フシュルルル」
「グルルルル」
「デーモン種か」
通路の先から現れたのはガードデーモンLv.15とLv.18。
どちらも全身が真っ黒で、頭から山羊の角を生やし、長い腕には鉤爪が生え、腰からは先端が鏃のようになった尻尾が、背中からは蝙蝠の翼に似た物が伸びている。
まあ、早い話が一般的なイメージの悪魔と言う事だ。
「「ーーーーー♪」」
「ジャックさん。指揮を頼みます」
「分かった」
ガードデーモンたちが俺たちを発見し、マーカーをアクティブにする。
そして、言語化できない鳴き声を上げつつ、俺たちに向かってゆっくりと接近し始める。
「行くぞ」
「うんっ!」
「は、はい!」
「まずは事前の話し合い通りだ」
対する俺たちは、シアたちの支援を受けると、FC灯叫さん以外の四人でガードデーモンに向けて突撃を仕掛ける。
「えいやっ!」
「ガガッ……グッ!?」
まず、間合いに入ったところで、まだ距離が遠いと油断していたガードデーモンLv.18に対してシュヴァリエが一気に接近、細剣による連続攻撃を加える。
が、特性:ガードの効果によって防御力が高いためだろう。
そのダメージはあまり大きくない。
「ガア!ガッ!?」
「キュイ!」
「ふんっ!」
「せいや!」
細剣を振るために動きが止まったシュヴァリエにガードデーモンが攻撃を仕掛けようとする。
だがそれよりも早くヴィオの電撃が飛んで相手の動きが一瞬止まり、そこにジャックさんとロラ助のホムンクルスと協力した攻撃が当たり、そのダメージにガードデーモンは怯んで攻撃を諦める。
「さて……」
そしてその間に俺は骸套・三手千織の効果で気配を消して、二体のガードデーモンの間に入り込む。
「片方は任せたぞ!」
「グガッ!?」
「フギュッ!?」
俺は気配を反転させると、突然現れたように見える俺に驚くガードデーモンに対して、その注目を集めつつ、両手に持った斧と短剣を振るう。
そうすることで、二体のガードデーモンにダメージを与えつつ吹き飛ばし、分断する。
「さて、これでこっちは一対一だな」
「フギッ……」
俺の後ろでは、Lv.18のガードデーモンとシュヴァリエたちとが戦っている。
が、聞こえてくる音からして、数の優位で問題なく勝つだろう。
「さあ、突破できるものなら突破してみろよ」
「ッ!?」
なので俺は後ろの事は気にせず、目の前に居るLv.15のガードデーモンを倒す事だけに集中。
特性:バーサークの効果を発揮しつつ、その存在感を大きく高めて、相手に倒さなければいけないと思わせる。
それと同時に視線だけでインベントリの中を操作して、奇箱・普喰に十分な量の飯を食わせて、回復力を高める。
さあ、これで準備は完了。
後は後ろの戦いが終わるまで、時間を稼ぐのみである。
「ふははははっ!」
「フギガアァァァ!」
そうして俺たちは同時に前進し、ガードデーモンの振るう両手の爪と、俺の持つ斧と短剣がぶつかり合った。