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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
156/621

156:33-7-D4

【AIOライト 33日目 14:27 (2/6・晴れ) 『豊富な森の農場』】


「うーん」

 アブンウッドを倒した後も、『豊富な森の農場』の探索は順調に続いていた。

 が、俺の顔は渋い顔になっていた。

 と言うのもだ。


「やっぱり一度逃げられると厳しいな」

「何処に行ったのかすら分からなくなってしまいますもんね」

「ああ」

 経験値稼ぎと言う観点から見た場合、非常に拙い事になっていたからだ。


「今のところ倒せたのは図体の大きいアブンウッドと油断してくれたアブンプラティプスだけだからな。小柄なモンスターと特性:アブン、それに農場の相性はかなり良いと思っていいだろうな」

 『豊富な森の農場』に侵入してからこれまでに俺たちが倒せたモンスターは僅か二体、アブンウッドとアブンプラティプスだけだった。

 前者については、逃げ出すところに斧の投擲が決まって倒せた。

 これは的がデカかったから、追撃が容易だったというのもある。

 後者については自分の毒を過信していたのだろう。

 俺が状態異常ペインになったところで動きを止めたので、そこで尻尾を掴み、そのまま倒す事が出来た。


「敵わないと見たら逃げ出すという判断が出来るだけの経験を即座に積ませる特性:アブン。それに小柄なモンスターなら逃げ道も隠れ場も幾らでもある農場。そうですね。確かに相性はいいと思います」

 だがそれ以外のモンスターはまるで倒せていなかった。

 例えばアブンラビット。

 コイツは蹴り攻撃を繰り返してきたが、俺に蹴り攻撃の効果が無い事を悟ると、即座に近くの草むらに身を隠し、そのまま何処かへと逃げ去ってしまった。

 例えばアブンバード。

 急降下攻撃を仕掛けてきたが、俺にもシアにも大したダメージが無いと分かると、一鳴きした後何処かに飛び去ってしまった。

 例えばアブンバルブ。

 殴ったら睡眠効果のある花粉を撒き散らしてくる奴だが、二回目の眠りから覚めた時には既に姿を眩ませていた。


「倒せれば経験値は美味しそうなんだけどなぁ……」

「でも倒せるかどうかは微妙な所ですよねぇ……」

 とまあ、そんな感じに戦う敵戦う敵、どれもこれもがあっさりと逃げ去ってしまったため、ある意味悪い意味で戦いにならなかった。

 なお、アブンワームには挑んでいない。

 あれはこっちが逃げるべき相手だからだ。


「まあ、最低限の素材は回収出来ているし、経験値稼ぎは余所でやればいいのかもな」

「そうですね。それでいいのかもしれません」

 俺はインベントリの中を見る。

 農場だけあって、農産物を中心に様々な採取アイテムを回収出来ている。

 これをギルドショップに登録すれば、今後は自由に特性:アブンによる取得経験値上昇効果は得られるだろう。

 それにアブンウッドからはアブンウッドの腕枝、アブンプラティプスからはアブンプラティプスの蹴爪を回収出来ている。

 こちらもまた、使い道は色々とあるはずだ。


「さて、それじゃあそろそろ時間も微妙だし……そうだな。あの小屋を調べたら、脱出する方向にしよう」

「分かりました」

 素材は集まっている。

 ならば、探索は適度な所で切り上げれば良い。

 そんなわけで、俺とシアは目の前の農具小屋を調べたら、脱出に向けて行動することに決めた。



----------



「次の階層への階段……ですよね」

「たぶんな」

 農具小屋の中には、次の階層に繋がる下り階段が一つだけぽつんと置かれていた。

 うーん、小屋の中の土の床、その中心に手すりの無い下り階段だけが在るって、中々にシュールな光景だな。


「どうします?」

「そうだな……ちょっとだけ次の階を覗いてみるか。たぶん、特に変わりはないだろうけど」

「分かりました」

 俺とシアは階段を下って次の階層に移動する。

 で、次の階層の部屋だが……やはり農具小屋だった。

 そして第一階層の位置から考えれば地下に当たるはずなのに、窓からは普通に陽の光が射していた。


「こういうのを見ると、階層の移動は通常のフィールドから自動生成ダンジョンの中に入るのと同じなんだな」

「ですね。ちょっと不思議な光景です」

 まあ、ゲームの世界なのだ。

 こういう細かいところは気にしない方針で行けばいい。

 気にしても仕方がないとも言えるしな。


「さて、農具小屋の外は……」

 俺は農具小屋の扉を少しだけ開けて、第二階層の様子を見る。


「ど……!?」

「マスター?」

 そして軽く固まる。


「あ、うん、帰ろう。シア。これは無理だ」

「無理ってどういう……あ、はい、無理ですね」

 俺と入れ替わるようにシアも小屋の外を見る。

 そして即座に俺の言葉に同意を示す。

 だが、そんな反応を示すのは当然だろう。


「よし、じゃあ行くか」

「はい、そうですね」

 なにせ見えたのはこんな面子だったのだから。


・アブンパンプキンLv.19

・アブンパンプキンLv.20

・アブンワームLv.18

・アブンワームLv.24

・アブンプリーストLv.17

・アブンアラクネLv.18


 うん、絶対に無理だ。

 上四体の時点で絶望しかないが、どう見ても回復役であろうアブンプリーストと言う名前の聖職者姿の人間に、動きを封じてきますと言わんばかりに下半身が蜘蛛で上半身が女性なアブンアラクネ。

 距離的に一体とでも戦闘が開始したら、他の五体も反応するし、特性:アブン持ちのこれまでの戦闘を考えたら、戦闘で協力し合うぐらいの発想は普通に出て来るに決まってる。


「お、出口だな」

「ですね」

 そんなわけで、第一階層のアブンワームに気をつけつつ、俺とシアは『豊富な森の農場』を脱出したのだった。

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