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【AIOライト 33日目 11:53 (2/6・晴れ) 『豊富な森の農場』】
「ワアアアァァァァァム!」
自動生成ダンジョン『豊富な森の農場』の中を探索すること二時間。
俺とシアから幾らか離れた場所で蚯蚓が地中から勢いよく飛び出し、土を食べながら地面の中へと潜っていく。
「うーん、毎度毎度心臓に悪いな」
「呑み込まれたらと思うと怖いですよねぇ」
蚯蚓、と言ってもただの蚯蚓ではない。
人一人丸呑みできるだけの太さに、牙の生え揃った口、それに少なく見積もっても30メートル以上は間違いなくある長さを持った巨大なモンスターであり、地中から飛び出す瞬間には地面だけでなく空気までもが揺れるという怪物である。
「まあ、幸いな事にノンアクで、こっちの事も気づいているようだから、襲われる心配はないだろう」
「他のモンスターに樹も避けているみたいですしね」
そんな怪物の名前はアブンワームLv.25。
サイズ差だけでなくレベル差からしても戦いたくない相手である。
と言うか、戦ったら二人揃って丸呑みにされてお終いだろう。
尤も、元々そう言う性質なのか、ダンジョンの中かつ新月でない状況であるにも関わらず、マーカーの状態はノンアクティブである事を示す緑。
こちらの事に気づいていないのかとも思ったが、何度かこちらに顔の先を向けても居たので、たぶん気づいているはずである。
つまり、手さえ出さなければ、少々驚かされるだけの安全な生物のようだった。
流石は蚯蚓である。
「とりあえず、そろそろ一度アイテムの確認をするか」
「そうですね」
と言うわけで、アブンワーム以外のモンスターにはまだ遭遇していないが、幾つかの採取ポイントでアイテムを採取できたので、それの中から特に気になったものの確認をする事にする。
△△△△△
豊富な種子
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:アブン(豊富な経験を得る)
何かしらの植物の種子。
芽が出るまで何の植物の種子なのかは分からないが、それは多大な可能性を秘めているという事でもある。
▽▽▽▽▽
△△△△△
豊富な木の実
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:アブン(豊富な経験を得る)
正体不明の木の実。
生で食べても腹を壊す事はないが、味は保証できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
豊富な小麦
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:アブン(豊富な経験を得る)
小麦と呼ばれるイネ科の植物。
適切な処理をする事によって小麦粉や麦藁を得られる。
穂を付けたその姿は、様々なイメージを見る者に与えるだろう。
▽▽▽▽▽
「やっぱり、どれも何としてでも持ち帰りたいアイテムだな」
「ですね。特に小麦粉と木の実は気になります」
特性:アブンの効果は取得経験値の上昇。
となれば、新たな食材に興奮しているシアの件を抜きにしても、これらのアイテムは持ち帰りたい所ではある。
なにせ、これらのアイテムを食料品に加工して食事効果を得れば、それだけで取得経験値が一時的に増えることになるのだから。
当然持ち帰れたら、ギルドショップへの登録をしておくべきだ。
今後の攻略ペースに大きな差が出る可能性がある。
種子については……現状では植物を植えるスペースのような物はないので放置で。
種子が手に入るという事は、いずれそう言うのも手に入るのだろう。
「じゃ、確認も終わったことだし、次の採取ポイントだな」
「はい」
確認を完了した俺とシアは次の採取ポイント……樹の幹に表示されたものへと向かう。
「普通に採取しますか?」
「いや、久しぶりに丸太を回収したいから、俺の方は斧を使う」
「分かりました」
そこでシアは普通に、俺は斧を使って採取する。
採取できたのは……豊富な丸太か。
うん、上手くいったな。
△△△△△
豊富な丸太
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:アブン(豊富な経験を得る)
斧で切られた極々普通の樹の幹。
そのまま使ってもいいし、加工してもいい。
何事も発想次第である。
▽▽▽▽▽
「よしっ」
何に使うかは分からないが、特性:アブン付きの素材だ。
持っていて損にはならないだろう。
「あ、マスター、あそこの地面が採取ポイントになってますよ」
「お、本当だな」
次の採取ポイントは地面か。
さて何が採れるだろうな?
と言うわけで、一応周囲の警戒をしつつ地面の採取ポイントに近づき、俺とシアはアイテムを回収する。
で、何が取れたのかを確認してみる。
△△△△△
アブンワームの糞
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:アブン(豊富な経験を得る)
アブンワームの排泄物、つまりは糞。
アブンワームの体内にある間に反応が進むことによって、通常の土とは異なる性質を有する。
これを使った土で植物を育てれば、目に見えて成長が良くなるだろう。
▽▽▽▽▽
「排泄物……」
「糞……」
まさかのウ○コである。
「いや待て落ち着け、シア。蚯蚓のウ○コだ。植物の生育に適していると書いてあるし、ばっちいと言うべき物じゃない!臭いだって無いじゃないか!!」
「あの、マスター。私そもそも臭い付きの実物を見た事が無いです」
「……」
俺は慌ててシアに落ち着くように言う。
が、どうやら慌てていたのは俺だけだったらしい。
ああうん、なんかすっかり忘れたよ。
こっちだと排泄行為とか一切無かったもんな。
本当に忘れてたよ。
シアにはあっても知識だけで、実物を見た事が無いから、嫌悪感など持っていないであろうという事実に。
「次、行くか」
「はあ、別に構いませんけど。でもマスター、ウ○コって、そんなに臭いんですか?」
「聞かないで!色々と恥ずかしいというか悲しいというかよく分からない心境になるから聞かないで!!」
恥ずかしい。
すごく恥ずかしい。
何か色々恥ずかしい。
「マスターがそう言うのなら……」
「ううっ……」
そうして俺は微妙に顔を赤くしつつも、探索を続けるのだった。
ヒドイ台詞を言わせている自覚はあります。