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AIOライト  作者: 栗木下
3章:右角山
153/621

153:33-4-D1

【AIOライト 33日目 10:02 (2/6・晴れ) 『豊富な森の農場』】


「さて、最初の場所は……」

「小屋の中……みたいですね」

「だな」

 『豊富な森の農場』の中に突入した俺とシアは、まず最初の部屋を探る。

 で、直ぐに分かった。

 此処はダンジョン名の通り農場だ。

 木造の丸太小屋で、床は土が剥き出し、部屋の隅には藁が積み上げられている。

 そして壁際にはタンスの他に農具……(すき)(くわ)が立てかけられている。


「より正確に言えば農具小屋ってところか」

「なるほど」

 気温に湿度は環境が森と言う事もあって悪くはない。

 藁も柔らかさそうであるし、これは一夜の宿として考えた場合には破格かもしれないな。

 まあ、今回は農場マップがどんな物か調べるのと、アイテム回収が目的だが。


「外に出てみるぞ」

「はい」

 と言うわけで、目的を果たすべく俺はシアを連れて小屋の外に出る。


「これは……」

「凄い……」

 そして息を飲んだ。


「本当にダンジョンの中なのか……」

「なんかもう、何でもありと言う感じですね……」

 小屋の外には森と畑が広がっていた。

 簡単に表してしまうならばだ。

 では、正確に表すならば?


「青空が見えるな……」

 まず十分に熟した果実を付けた木々が疎らに生えているのが目に入った。

 それらの果実は見るからに美味しそうで、ダンジョンのオブジェクトと言う破損させられない物体でなければ、もぎ取って齧りつきたいと思えるような物だった。

 そして木々の間には畑が広がっていた。

 畑には見事な穂を付けた小麦が植わっているものだけでなく、何かしらの野菜を栽培しているのであろう畑もあった。

 こちらも、ダンジョンのオブジェクトでなく、誰かの持ち物でもなければ、直ぐにでも回収したくなるような物だった。


「壁は何処にも見えませんね……」

 天井はない。

 綺麗な青空が広がっている。

 壁のような物も見えない。

 どこまでも森と畑は広がっていた。


「あー、畑だけじゃないみたいだな」

「茸……ですよね」

「だな」

 俺とシアは農具小屋の周囲を見てみる。

 すると薪置き場のような場所の近くに、丸太が組まれて、何本もの茸が丸太から生えている場所が見つかった。

 どうやらこの農場では果物に穀物、野菜だけでなく、茸まで育てているらしい。

 と言うかこの様子だと、探せば燻製小屋や炭焼き小屋まで見つかりそうなぐらいだ。


「さて、どうしたものかな」

「アイテムの回収をするんじゃないんですか?」

「それはする。ただ、問題が幾つかあってな」

 農具小屋の入り口の前に戻って来たところで、俺は腕を組みながら考える。

 長閑(のどか)な雰囲気すら漂っているこの農場の厄介な点が思い浮かんでしまったからだ。


「問題?」

「問題その一、迂闊に小屋から離れたら、戻ってこれなくなる」

「あー……確かに目標物になりそうな物は何も無いですよね」

 まず問題になるのは現在位置の把握だ。

 『AIOライト』にはマッピング機能は搭載されているが、これまでの経験から、こういう場で自分たちの場所が分からなくなると、マッピング機能は停止することが分かっている。

 そして農具小屋の周囲には色々な種類の果樹に畑が入り混じっていて、目標になりそうな物は何も無い。

 つまりこのダンジョンは同じような光景を繰り返す事によってプレイヤーを惑わせるタイプのダンジョンと言う事だ。

 なお、これも重要な事ではあるが、最初の農具小屋から見える範囲には採取ポイントは一切見えない。

 実に嫌らしい仕様である。


「問題その二、モンスターの姿がまったく見えない」

「それの何が……はっ!?」

「ああ、奴が居る可能性は高いと思う」

 次の問題はモンスターが見当たらない事。

 俺たちが今居る場は最初の部屋の外なので、モンスターが居てもおかしくはないのだが、今の所はその影すらも見えない。

 これは一見すると良い事に思えるが、実際にはかなり拙い事だ。


「それに囲まれている可能性も考慮しないといけない」

「……」

 だから俺もシアも、何時でも武器を構えられるように、この長閑な雰囲気には合わないが、最低限の身構えはしておく。

 これだけの時間が経っても何も無いという事は、隠密性の高い敵が俺たちの周囲に潜んでいる可能性はゼロではない。


「居る……と思いますか?」

「農場だからな。ウリ科の植物に混じっている可能性ぐらいは考えておいても損はないと思う」

 加えて、隠密性の高い敵とは別に俺たちが警戒する相手がいる。

 それはパンプキン種のモンスターだ。


「居たら即逃げですよね」

「今なら相手のレベル次第じゃ無理矢理ゴリ押す事も出来なくはないと思うが……まあ、逃げでいいと思う」

 高い物理耐性を持ったパンプキン種は、物理攻撃手段しか持たない俺とシアにとっては天敵と言っても過言ではない。

 しかもゴースト種のように足が遅かったりもしないから、簡単に逃げられない分だけたちが悪い。

 勿論、自動生成ダンジョン内に出てくるモンスターの種類は完全ランダムだ。

 陸地どころか砂漠でフィッシュ種やクラブ種が出て来る事もあれば、火山でウッド種が出たり、凍土でリザード種が出たりもする。

 だがそれでも警戒をしておいて損にはならない。

 それぐらいには戦いたくない相手なのだから。


「……。慎重に探索を始めるぞ。まずは採取ポイントを探すところからだ」

「分かりました。マスター」

 そう言うわけで、俺とシアは周囲を警戒しつつ、探索を始めるのだった。

10/20誤字訂正

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